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アリペイがデジタル人民元に対応。ファーウェイなどの参入で競争が激化するデジタル人民元競争

デジタル人民元が正式運用前夜になっている。アリペイはすでにデジタル人民元に対応をした。当面の間は、スマホ決済が影響を受けることは少ないと見られているが、これを機にファーウェイ、シャオミなどのスマホメーカーが決済ウォレット市場に参入をする。スマホメーカーは一気にシェアを獲得できることから、決済ウォレットの分野で激しい競争が始まると小沐新媒体が報じた。

 

デジタル人民元はお金、アリペイ、WeChatペイはお財布

デジタル人民元の大規模利用実験が順調に進んでいる。北京、深圳、成都、蘇州などの主要都市で、累計1.5億元(約25億円)を配布し、実際の商店などで使ってもらうというもので、多くの市民から好評を得ている。正式導入の時期は公表されていないものの、2022年の北京五輪がひとつの目標になっていると見られている。

デジタル人民元が正式スタートすると、アリババのスマホ決済「アリペイ」、テンセントの「WeChatペイ」はどうなってしまうのだろうか。直接の影響は少ないと見られている。なぜなら、デジタル人民元はお金であり、アリペイ、WeChatペイはお財布だからだ。

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▲デジタル人民元による決済は、NFCによるタッチ、QRコードによるスキャンなどがあり、従来のスマホ決済と感覚的には変わらない。各銀行は、さまざまなサービスが利用できるウォレットアプリの開発を行なっている。

 

アリペイがデジタル人民元に対応

例えば、アリペイではアリペイというお財布アプリの中から、高鉄や飛行機のチケット予約ができ、電子チケットが保存される。フードデリバリーを注文することができ、注文表が保存される。WeChatペイでも同様の機能があり、さらに、SNS「WeChat」で送られてきたECの商品情報をタップすると、そのままECの商品ページが開いて、商品を注文することができる。

デジタル人民元はあくまでもお金であり、このようなお財布機能は、ウォレットアプリ次第になる。ウォレットとしては、アリペイとWeChatペイの利便性が圧倒的に高く、デジタル人民元が正式スタートしても、デジタル人民元からアリペイなどにチャージをして、アリペイなどのお財布機能を利用するという使い方が主流になると見られている。

アリペイは、チャージ元として、すでにデジタル人民元に対応をした。

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▲アリペイはすでにデジタル人民元に対応をした。チャージ元の銀行口座などで、デジタル人民元を紐づけられるようになっている。

 

デジタル人民元をデジタルウォレットに入れて使う

デジタル人民元専用のウォレットアプリは、6大銀行と呼ばれる工商銀行、農業銀行、建設銀行、交通銀行、郵儲銀行、中国銀行でそれぞれ開発をされているが、アリペイ、WeChatペイ並みの利便性を備えるようになるのには時間がかかると見られている。

商店での対面決済などには、銀行系のウォレットが使われるシーンは増えてくると思われるが、フードデリバリーなどのO2O系のサービスを利用する時は、今まで通りアリペイとWeChatペイが使われる。ただし、チャージ元を現在のような銀行口座ではなく、デジタル人民元に設定する人は増えると思われる。銀行系ウォレット、スマホ決済いずれを使っても、使うお金をデジタル人民元に一本化すれば、利用履歴がそのまま家計簿になり、自分の利用状況を把握しやすくなるからだ。デジタル人民元法定通貨なので、給与振り込みもデジタル人民元で行える。

f:id:tamakino:20210601092012j:plain▲デジタル人民元が利用できるレジには、このロゴが表示される。

 

ファーウェイとシャオミがウォレット市場に参入

アリペイ、WeChatペイにとっては、銀行系ウォレットアプリの進化ぶりに目配りをしておく必要はあるが、当面は大きな影響を受けるわけではない。むしろ、デジタル人民元に対応をすることで、利用を広げていくチャンスですらある。

しかし、思わぬところに伏兵がいた。スマホ決済の免許を取得している「訊聯智付」が、華為(ファーウェイ)によって100%買収されて子会社化された。つまり、ファーウェイがスマホ決済を始めるということだ。当然、デジタル人民元からチャージができる機能を搭載することになる。

さらに、小米(シャオミ)もスマホ決済に進出をする。小米とファーウェイは、自社ブランドのスマホに基本アプリとしてウォレットアプリを入れるだけで、一気に大量の利用者を獲得することができる。また、両社は銀行と異なり、高い開発力と積極的な先行投資をする。アリペイ、WeChatペイとはまた違った利便性を利用者に提供し、大規模な優待策を投じてくる可能性は高い。

 

スマホ決済競争からウォレット競争へ

アリババとテンセントにとって、デジタル人民元はライバルではないが、小米とファーウェイは強力なライバルになる可能性がある。さらに、シェアは取れていないが、京東(ジンドン)、網易(ワンイー)、美団(メイトワン)、字節跳動(バイトダンス)、滴滴(ディディ)も独自のスマホ決済を持っている。ほとんどは、同社のサービスを利用する時にしか使われていないが、デジタル人民元の対応に合わせて、自社以外のサービスにも使えるようにしてくる可能性も否定できない。

デジタル人民元の登場により、ウォレットアプリが雨後の筍のように登場して、熾烈なウォレット競争が始まる可能性が高く、アリペイやWeChatペイもこの競争に巻き込まざるを得ない。

ファーウェイのMate 40には、デジタル人民元専用チップが搭載され、ハードウェアウォレットとしても利用できる仕様になっている。米中貿易摩擦で、スマホ事業の縮小を余儀なくされたファーウェイが復活の手段として、デジタル人民元に注目をしていることは確かなようだ。