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中国を中心にしたアジアのテック最新事情

AI時代になって邪魔なアフィリエイトサイトが増加する懸念。中国政府はすでに規制を視野に入れる

検索からAI検索に移行をし、検索の邪魔でしかなかったアフィリエイトサイトが減ることを期待している人も多い。しかし、自社の商品をAIに認識させるため、アフィリエイトサイトが増加するという懸念もあり、政府も注視を始めていると大河報が報じた。

 

AIの登場によりアフィリエイトサイトが駆逐される

インターネットの入り口が検索エンジンからチャットAIに移るにつれ、多くの人が喜んでいることがひとつある。それは、インターネットのノイズとも言えるアフィリエイトサイトが減ることだ。

ある洗剤を売りたい人は、「誰も知らない洗剤の秘密」「洗剤・洗浄力テスト」などのウェブページをつくり、そこに自社の洗剤が有利に見えるコンテンツを制作する。そして、自社の洗剤が購入できるサイトへのリンクを貼り、SEO(Search Engine Optimization)対策を行うと、検索エンジンの結果上位に表示される。洗剤のことを調べたい人が検索をすると、このページが見つかり、多くの人が洗剤を買ってくれるというものだ。

問題は、このコンテンツの内容の質だ。独自に調査をしたものなどではなく、制作コストの関係から、検索上位にくる関連ページの内容をまとめる手法で制作をしてしまう。新たな知見は特になく、さらには同様のアフィリエイトサイトが無数に登場するため、検索をすると、このようなアフィリエイトサイトばかりが上位を占めることになる。

 

SEOに代わって注目されるGEO

新たな知識を求める人は、もはや検索では目的の知識が見つからないという状態になっていた。

このような不満を持つ人たちが飛びついたのがチャットAIだ。ネットを検索し、重要な知見を整理してから回答してくれる。知りたいことがすぐに見つかる。

ところが、販売業者たちもこのチャットAIに注目をしている。どうやれば、チャットAIに自社の製品を紹介してもらえるかを日夜考えているのだ。

このような手法はGEO(Generative Engine Optimization、生成エンジン最適化)と呼ばれるようになり、すでに多くのGEO業者が広告を出し始めている。問題は、このようなGEO業者が公正とは言えない手法を使っていることが多いということだ。

▲すでにAIに商品名を拾わせるGEOを行う業者の広告がさまざまなところで見られるようになっている。

 

AI時代もアフィリエイトサイト制作は終わらない

大河報の記者は、医療美容機の販売業者を装って、このようなGEO業者に接触し、仕組みについての説明を受けた。

まずやることは、「顔の老化防止プロジェクト」「信頼できる医療美容機関の見分け方」などのコンテンツを制作することだという。内容はもちろん、顧客の商品が優れているかのように装ったものにする。内容が正しいかどうかは重要視しない。

重要なのは、筆者の肩書きに権威のある機関の名前や権威のある研究者の名前を使うことだ。それは実在の人間である必要はない。「スイス美容高等研究所」「ケニー・ウォン博士、スイス・チューリッヒ大学教授」などで、プロフィールにはそうそうたる経歴や執筆論文リストを捏造する。

立派そうに見えればそれでいいのだという。AIは権威のありそうなサイトを検索対象とするが、その内容が正しいかどうかはチェックができない。書いてある内容を素直に信用する性善説的な仕組みなのだ。

このような偽サイトをつくったら、GEO業者の知見に基づいて、SNSなどに投稿や紹介をし、架空のユーザーアカウントを大量に持っているクリックファームに「いいね」などの評価を大量につけてもらう。どのSNSに露出をすれば、AIが検索対象にしやすいかという知見を持っていることがGEO業者の強みになっている。

▲あるGEO業者のサービス内容説明。特定のAIをターゲットにして、特定の単語がプロンプトにあった場合に、依頼者の商品が回答に含まれるようにするというもの。

 

AI時代になってアフィリエイトサイトが増加する懸念も

このようなGEOはまだ始まったばかりで、GEO業者が生成するデタラメサイトの数はまだ多くない。人間がたまに見かけても、得体の知れない情報として無視してしまうだろう。

しかし、これが増えてくると、今度はチャットAIの回答がどんどん信用できなくなっていく。特に、購買など消費に絡む内容の回答は信頼できなくなっていく可能性がある。さらに、従来のSEO対策は効果が薄れていっているため、多くの企業がそこにお金をかけなくなり始めている。すると、検索をしてもこのようなデタラメサイトが上位に表示され、チャットAIに尋ねてもデタラメサイトに基づいたデタラメな回答が返ってくるということになりかねない。

 

政府も注視、規制の前触れか

中国国家安全部は、8月5日、公式アカウントでこの問題に触れた(https://mp.weixin.qq.com/s/jJ33UUZzgVn3LD9BpJe1bA)。AIに改竄や虚偽のデータを学習させる行為は「データに毒を混入させる」行為であり、ある研究によると学習データの0.01%が虚偽であった場合、AIの回答の誤りは11.2%増加する。虚偽データが0.001%であっても、AIの回答の誤りは7.2%上昇するというデータを示した。

国安部が問題に触れるということは、この問題が国家安全に関わることだと政府が認識しているということで、国安部がこのような発表をするということは、近々、何らかの対策が実施されるということだ。

中国は、他国に先駆けてGEOが進んだ国となったが、他社に先駆けて規制が入る国になるかもしれない。

 

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