中国支付清算協会が行った「日頃よく利用するスマホ決済」調査で、WeChatペイがアリペイを抜いて初めての1位になった。WeChatペイは、少額決済に使われることが多く、コロナ禍により、少額決済をする局面が増えているのだと思われると界面新聞が報じた。
シェアが動かなかったスマホ決済市場
アリババの「アリペイ」、テンセントの「WeChatペイ」などが市場をリードするスマホ決済市場に異変が起きている。
スマホ決済市場は、アリペイが強く、それをWeChatペイが追いかける形で成長をしてきた。アリペイは、余額宝(ユーアーバオ)がキラーサービスになっている。これは1元単位でスマホから購入できる投資信託商品で、アリババ傘下でアリペイを運営するアントフィナンシャルが、資金をまとめて銀行に再投資し、手数料を引いた上で、利用者に還元をするというものだ。一時期は、年利7%近い利息がついたため、余額宝を利用するためにアリペイを使う人も多かった。
これにより、市場シェアは、アリペイ、WeChatペイ、その他がだいたい6:3:1になる「631局面」が長く続いた。中国では、631局面になると、シェアが動きづらくなると言われていて、スマホ決済もその状態が長く続いた。
ミニプログラムの投入でWeChatペイがシェアを拡大
しかし、2016年にテンセントがWeChatミニプログラムを投入すると、シェアが動き始めた。これはWeChatの中で起動できる小さなプログラムで、このアイディアはLINEミニアプリ、iOS App Clipsと同様のものだ。
WeChatの中からさまざまなECや飲食店のミニプログラムが起動でき、しかも、WeChatのアカウントでログインできるため、個別のアカウント登録は不要。また、決済方法も自動的にWeChatペイになるために設定不要という利便性がもたらされた。例えば、初めて利用するカフェであっても、アカウント登録や決済方法を設定せず、いきなりモバイルオーダーやフードデリバリーを注文することができる。
このミニプログラムの成功により、WeChatペイの利用額も上昇し、631局面が動き始めた。
2020年Q2のスマホ決済のシェアは、アリペイ49.16%、テンセント(WeChatペイ+QQ幣)33.74%と、WeChatペイが相対的なシェアを伸ばしている。
▲アリペイ、WeChatペイ、その他のシェアは、631局面と呼ばれる6:3:1の状態からなかなか動かなかった。しかし、WeChatがミニプログラムをリリースしてからWeChatペイのシェアがじわじわと大きくなってきている。
アンケートではWeChatペイがよく使うスマホ決済の1位に
さらに衝撃的なのが、中国支付清算協会のレポートだ。2020年に日常よく使うスマホ決済を尋ねたアンケート調査(複数回答)によると、WeChatペイが92.7%、アリペイが91.0%とわずかながら、WeChatペイが初めて首位に立った。WeChatペイの利用率を押し上げたのは、ミニプログラムの登場が大きかったと思われる。
人によっても異なるが、多くの人がアリペイとWeChatペイの両方を使い、どちらかというとアリペイは金額の大きな決済に使い、WeChatペイは日常の小額決済に使う傾向がある。以前は、百貨店などで買い物をするときはアリペイで払い、カフェでお茶をするときはWeChatペイで支払うという人が多かった。
しかし、それがコロナ禍により大きく変わった。平均決済額別の利用者構成を2019年と2020年で比較をしてみると、2020年は高額決済をする人の割合が大きく減り、小額決済をする人の割合が大きく増えている。
つまり、外出自粛により、百貨店や量販店での買い物、旅行予約などの高額決済そのものが大きく減り、日常の飲料や食品、日用雑貨などの小額決済の割合が大きく増えたのだと想像できる。
これにより、WeChatペイに利用率が上昇したのではないかと見られている。使用割合は追いついても、決済額シェアにはまだ開きがあることから、WeChatペイで小額決済をする傾向は変わっていないことがわかる。
▲日常よく利用するスマホ決済を複数回答で聞いたもの。初めて、WeChatペイがアリペイを抜いて1位になった。
▲決済金額による決済の構成割合を2019年と2020年で比較すると、小額決済が大きく増加している。
再びスマホ決済のシェアが動き始めるか
あくまでも利用アンケートの結果であるとは言え、WeChatペイがアリペイを抜いたというのは大きなニュースだ。さらに、デジタル人民元も、大規模利用実験が進み、導入前夜になっている。さらに、アリペイやWeChatペイに対する影響は少ないとも言われているが、PayPalが中国決済市場に参入をする。また、地味ながら銀聯のQuickPassも地味にシェアを伸ばしてきている。
アリペイが強く、それをWeChatペイが追いかけるという形で進んできた中国スマホ決済市場だが、ここにきて地殻変動が起こり始めた。