中国版Tik Tok「抖音」が、独自のスマホ決済「抖音支付」を始めた。利用できるのはTik Tok内の決済に限り、オンライン決済やオフライン対面決済には使えない。決済手段を始めたねらいは、Tik TokのSNS化であり、スーパーアプリ化であると雷科技が報じた。
Tik Tokが独自のスマホ決済「抖音支付」を開始
Tik Tok(抖音、ドウイン)が2021年1月に、自社の決済システム「抖音支付」を開始して、テック業界から注目されている。現在のところ、海外展開をする予定はないようだが、もし海外に展開すれば、Tik Tok Payというネーミングになることが予想される。
中国国内の抖音のDAU(日間アクティブユーザー数)が4.5億人、海外版のTik Tokが4億人となっているだけに、その影響は大きいと思われる。
▲Tik Tokのライブコマースでの決済方式設定画面。支付宝(アリペイ)、微信支付(WeChatペイ)、銀行カードの他に、抖音支付が選べるようになっている。
アリペイ、WeChatペイのライバルとなるのか?
ただし、巷間言われているようなアリペイやWeChatペイと競争をする意図はないようだ。なぜなら、現在、抖音支付が利用できるのは、配信主に対する投げ銭と、抖音内のライブコマースでの決済のみだからだ。
アリペイ、WeChatペイと比べると、オンライン決済、オフライン対面決済の機能はなく、あくまでもTik Tok内での決済に限られている。
また、消費者金融や分割払いなどの金融機能も現在のところ存在しない。決済サービスとして利益を狙いにいくには金融機能への対応が必須だ。アリペイを運営するアントグループでは収益の2/3が金融からのものであり、WeChatペイを運営するテンセントの収益の27%が金融からのものになっている。
決済企業を買収して実現した抖音支付
抖音支付が当面、金融機能を持たないことは運営会社からも裏付けられる。抖音支付を直接運営しているのは、武漢合衆易宝科技で、2012年に創業し、2014年に人民銀行から決済業務許可証を取得してスマホ決済を運営していた。Tik Tokを運営するバイトダンスは、この武漢合衆易宝科技を間接的に買収する形で、抖音支付を始めている。
この武漢合衆易宝科技は、金融機能を持っていないので、もし分割払いなどを始めるのであれば、金融機能を持っている企業を買収、提携して、抖音支付と融合させる必要があるからだ。将来はともかく、当面は決済機能のみだと思われる。
▲すでに中国版Tik Tokにはウォレット機能が搭載されている。ECへの決済に使えるだけでなく、ライブコマース、投げ銭などの収入も、このウォレットに溜まっていく。
ライブコマースに本格参入したTik Tok
バイトダンスのねらいは、短期的にはライブコマースの成長であり、長期的にはTik Tokのスーパーアプリ化であると見られている。
バイトダンスは、2020年6月にEC部門を設置し、Tik Tokでのライブコマースに本格的に力を入れている。2020年11月の独身の日セールに初参入し、187億元(約3000億円)という初年度としては驚異的な成績をあげた。このライブコマースを拡大していくために、抖音支付が大きく貢献する。抖音支付を利用する場合だけに割引をするなどの施策も取れるようになり、また、返金処理もスムースにいくようになる。すでにECでは、余計に買って返品するという習慣が広がっていて、これが購入のハードルを下げているため、スムースな返品処理、スムースな返金処理はECの購買行動を高めるひとつの手段にすらなっている。
▲Tik Tokでは、ライブコマースに本格参入をし、新しい買い物スタイルとして人気が出ている。
バイトダンスの真のねらいはWeChat並みのスーパーアプリ化
もうひとつがスーパーアプリ化だ。Tik Tokの莫大な流量を活かして、アプリ内ミニプログラムから他のサービスを利用させる。アリペイ、WeChatペイはこのスーパーアプリ化によって成功をした。アリペイ、WeChatペイでは、フードデリバリー、モバイルオーダー、タクシー配車、チケット購入などがタップするだけ利用できる環境が整っている。ログインや決済方式を指定する手間は不要だ。
Tik Tokもこのようなスーパーアプリ化に向けて動き出すのだと見られている。ただし、アリペイやWeChatペイと同じような生活系サービスを充実させていくのではなく、Tik Tokのユーザー層を考えたサービスを充実させていくことは明らかで、映画、旅行などのエンターテイメントサービスに特化したスーパーアプリになるのではないかと見ている人もいる。
▲2020年11月の独身の日セールでは、初参加でありながら、187億元(約3000億円)という売上をあげた。
スーパーアプリは、WeChat、アリペイ、Tik Tokの三極化をするのか?
Tik Tokは瞬く間に世界中に広がったが、本格的な成長はこれからだとも言える。その成長をするための基本となる道具が決済機能だ。Tik Tokはその決済機能を手に入れた。
バイトダンスは、機械学習や人工知能技術に長けているだけでなく、強運も持っているようだ。2021年の春節の前の晩、大晦日にあたる日には「春晩」と呼ばれるテレビ番組が放映される。日本の紅白歌合戦にあたる視聴率30%越えの国民的番組だ。
この番組では公式紅包スポンサーがいる。番組を見ている人に電子お年玉である紅包を配布する役割で、テック企業にとっては大量の新規ユーザーを一気に獲得できるチャンスになっている。2015年には、それまでシェアの低かったWeChatペイがこの紅包で、一気にアリペイのライバルとなった。
今年は、ソーシャルECの拼多多(ピンドードー)がこの公式紅包の座を獲得していた。しかし、昨年暮れから今年にかけて、労働環境の過酷さから従業員が死亡をしたり、飛び降り自殺をするという事件が相続き、公式紅包の座を辞退した。
それに代わって公式紅包の座を射止めたのが、バイトダンスだった。当然、抖音支付の紅包が配られた。Tik Tokの新規ユーザー、ウォレットの開通率などが大きく上昇したことは間違いない。
アリペイ、WeChatペイとはまた違った形で、バイトダンスは独自の経済圏をつくっていくことになる。