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先に高い目標を設定し、課題を抽出する。わずか10年で全国24時間配送を達成した京東のやり方

アリババに次ぐ第2位のEC「京東」(ジンドン)は、個別配送までを自社で行う。全国200都市で半日配送、中国全土のほぼすべてで24時間配送を実現している。わずか10年で実現できたのは、先に高い目標を設定して、それが実現できない課題を抽出し、解決するということを繰り返してきたからだと毎日経済新聞が報じた。

 

主要都市で半日配送を実現しているEC「京東」

今年2020年11月1日、独身の日セール期間が始まった当日の朝方、黒龍江省のある女性が、京東(ジンドン)で予約購入していた口紅の代金の支払いをした。すると、わずか6分後に商品が宅配されたということが話題になっている。

京東は、セール期間の11月4日には、「京東輸入スーパー」をオープンした。化粧品などの輸入品が購入でき、北京、天津、広州、重慶鄭州などの都市では、「211限時達」と呼ばれる半日配送に対応をしている。211限時達とは午前11時までに注文をすれば当日配送、午後11時までに注文すれば翌日午後3時までに配送という半日配送で、現在200以上の都市で提供されている。京東はこの配送スピードで多くの消費者の心をつかみ、ECではアリババの「淘宝網」(タオバオ)「天猫」(ティエンマオ、Tmall)のライバルに成長をした。

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無人カートも、企業、施設などの配送に活用されている。コロナ禍で武漢市が都市封鎖された時期は、病院に医療物資、医療従事者の食料を配送するインフラとして無人カートが活用された。

 

独自の物流網、配送網を構築した京東

2000年代、中国の宅配物流は戦国時代だった。中国郵政以外、全国をネットする宅配物流は存在しなかった。管理のレベルも低く、荷物の紛失、破損、遅延は日常茶飯事だった。アリババや京東などのECが登場したが、成長の壁となっていたのは宅配物流の質の低さだった。

その中で、京東は2007年から自社の物流網の構築を始めた。そして、2010年には211限時達サービスを6都市で提供して、成長軌道に乗った。しかし、その実現は簡単なことではなかった。

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▲農村部ではドローン配送が利用されている。災害時には緊急援助物資を配送するインフラとして転用することで、社会貢献にもなっている。

 

配達員の努力で構築された京東配送網

楊芳穎は、京東物流で初めて女性のステーション長となった。「私が京東物流に入社したのは2007年8月20日です。北京市馬連道ステーションの長になりました。当時、北京市には5つしかステーションがなく、その多くは民家や地下室を借りたものでした。私のステーションの配送員も7人ほどで、毎日1人が20から30の荷物を配達していました。配送数は少ないですが、担当する地域は広く、たいへんな仕事でした。ある年の独身の日セールでは、ちょうど私が2人目の子どもを出産したばかりで、私は自宅で寝ていたのですが、携帯電話がひっきりなしに鳴りました」。普段でも受け持ち地域が広く配達はたいへんなのに、独身の日セールになると荷物の量が通常の3倍以上になる。当初の京東物流は、このような配達員の努力によって支えられていた。

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▲京東の配送網が短期間で成長できたのは、現場の力が大きい。現場から問題点が続々と上がってきて、本社のスタッフがそれを解決するという形で、配送網を整えてきた。

 

人の努力だけでは限界があった半日配送

京東物流の自社配送網の構築スピードは速く、2010年には北京市五環路内(東京の山手線内の感覚)をカバーし、211限時達サービスを始めた。

「しかし、当初はほとんど半日配送を達成できませんでした」と、現京東物流CEOで、当時河北地区の物流責任者だった王振輝は言う。「しかも、どのようにすればいいか参考になるものがなにもありません。自分たちで考え、失敗をしながら試行錯誤をしていく他なかったのです」。

例えば、倉庫の中から211限時達に指定されている荷物をピックアップして、優先的に配送しなければならない。しかし、ピックアップする方法は、スタッフが倉庫の中で1つ1つ目でラベルを見て見つける以外方法がなかった。ピックアップ漏れが起こり遅配が発生する。遅配を起こさないように、丁寧に荷物をチェックしようとすると、今度はすべての荷物の遅配が始まる。人の努力では限界を超えていた。

 

システム負荷の限界も超えていた半日配送

京東物流の最初の女性エンジニアである毛衛娜は当時を振り返る。「あの頃、京東物流には物流システムの開発部はありませんでした。研究開発部の4、5人のエンジニアチームが物流管理システムの開発をしていたのです」。開発は2009年後半から始まり、2010年2月に最初の管理システムであるWMS1.0が始動した。

配送員全員がハンディ端末を持ち、荷物ラベルのQRコードを読み込む。ハンディ端末にはGPSが装備されていて、配送員の現在位置を把握することができる。また、受け取りをする利用者は自分の荷物が現在どこにあるかをリアルタイムで見られるようになった。

しかし、問題も発生した。211限時達では、前日の午後11時までに注文した荷物を午後3時までに配達しなければならない。午後3時になって配送が終わると、そこから次の配送が始まる。そのため、午後3時になると全国の配送員が一斉にハンディ端末を使うため、システムの負荷がピークに達し、処理の遅延が起こる。配送員たちの不満は大きく「暗黒の3時」と呼ばれるようになっていた。

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▲京東の配送管理システムWMSを開発した最初の4人。わずか10年前のことだが、遠い昔のことのように感じているという。10年で、京東の配送網は大きく成長した。

 

効率を考えて置き配。しかし、盗難が多発

配送の現場でも問題は起きていた。配送の効率を上げるために、京東では当時から置き配を行なっていた。中国の都市部は集合住宅が多く、しかも、古い住宅ではエレベーターがない集合住宅も多かった。7階の家に階段を登って届けたら不在だったということが多く、配送員の疲弊が問題になっていた。

そこで、利用者の同意がある荷物から置き配を始めた。しかし、今度は盗難が相次ぐようになった。京東は、そもそもが電子機器と家電製品のECから始まったため、商品単価が大きな商品が多い。泥棒は、京東の荷物を狙って盗むのだ。盗難事件が起きると、配送員は警察に行って状況を説明しなければならない。もちろん、その間は配送業務ができない。

現在は、宅配ロッカーの利用や、不在確認をスマホから可能にしたことで、盗難の問題は解決できている。

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▲京東の配送員は、全員がGPS内蔵のハンディ端末を持ち、荷物はすべてシステムにより管理される。京東の利用者は、自分の荷物がどこにあるのかを地図上でリアルタイムに知ることができる。

 

先に高い目標を設定して、課題を克服する

2010年2月にリリースされたWMS1.0は、7月に2.0にアップグレードされた。それ以来、改良が進み、現在はWMS5.0が利用されている。

京東の211限時達サービスは、先に実現可能なリソースを揃えてから提供したサービスではなく、何もないところから先にサービスをスタートさせてしまい、現場で無理な理由を抽出して改善していくという手法で達成をしてきた。当初は、利用者からは時間どおりこないというクレームが多発し、現場は膨大な作業に疲弊をし、開発チームは終電に間に合わずタクシーで帰宅するのが常態化をしながら、改善をしてきた。現在では、ドローン配送、無人カート配送も使われるようになっている。

京東は、自社物流網すらない状態からわずか10年で、211限時達を200以上の都市で提供し、全国24時間配送をほぼ達成している。2020年11月11日の独身の日セールでは、92%の県向け荷物、83%の郷鎮向け荷物で24時間配送を実現した。

この急成長は、システムやリソースを揃えてからというやり方では達成できなかった。先に半日配送、24時間配送というサービスを始めてしまい、現場が混乱しながら達成をしてきたものだ。中国的なやり方で、人によっては無茶なやり方に見えるが、このような手法で京東は短期間で物流網を構築してきた。負荷をかけることで成長が促される。それが京東のやり方だ。