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京東の成長に貢献したベンチャーキャピタル。投資家の仕事はお金を出すことではなく、知恵を出すこと

京東は、家電製品を主力製品として、自社配送するECで、京東物流という配送会社により全国物流網を確立している。しかし、この物流網を構築している最中にリーマンショックが起こり、京東は経営危機に陥った。そこに手を差し伸べたのがベンチャーキャピタル「高瓴資本」だった。投資家が企業の成長に貢献ができた素晴らしい事例のひとつだと南方報が報じた。

 

中関村の小売店から巨大ECに。成長に貢献したベンチャーキャピタル

中国のECサービスは、アリババ(淘宝網+天猫)、京東(ジンドン)、拼多多(ピンドードー)が売上高トップ3。しかし、この3つのECはまったく同じではなく、それぞれに色合いがある。アリババは「なんでも買える」総合EC、拼多多は激安商品。そして、京東は家電製品だ。

元々、北京市の中関村で、CD-Rなどの記憶メディアを販売する店舗「京東マルチメディア」からスタートした。2003年のSARSの感染拡大により、来店客がこなくなり、ネットを使った通信販売を始めたのがきっかけだ。

しかし、それだけで京東が今日の規模に成長できたわけではない。成長の影には、投資会社「高瓴資本」(ガオリン、ヒルハウスキャピタル)の創業者、張磊(ジャン・レイ)の知恵があった。投資会社は、有望な企業に出資をして、成長後に値上がりをした株を売却して利益を出すビジネスだが、お金を出すだけでなく、創業者と一緒になって成長の道を模索する。京東の成長は、投資会社にとっても、後々語り継がれる素晴らしい仕事として知られている。

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▲京東を作り上げた人たち。中心にいるのが創業者の劉強東。左隣がテンセントの創業者の馬化騰(ポニー・マー)。その左隣が高瓴資本の創業者、張磊。

 

物流網の構築とリーマンショックで経営危機に

2008年、リーマンショックが起きると、京東は経営危機に陥った。京東は、小売店から出発をしたため、ECを始めても、ごく自然に商品は宅配便に委託をするのではなく、自社で配達をしていた。

それが北京市上海市という大都市だけであれば問題はなかったが、ECでは全国に配達できなければ意味がない。しかし、自社で全国に配達をするには、全国規模の物流網を構築しなければならない。それは、何もないところから、全国規模の宅配便企業を立ち上げることに等しい。

リーマンショックにより、京東は売上が落ち込み、資金不足に陥り、従業員の給料の遅配も始まってしまった。物流網の構築計画も、事実上の停止となってしまった。

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リーマンショックの頃、劉強東の頭に白髪が見えるようになった。ネット民からも注目され、京東は相当に難しい局面にあると言われた。

 

中国のアマゾンを探せ

その頃、高瓴資本の創業者、張磊は、こういう時だからこそ投資の好機だと考えた。中国のEC業界は、アリババが80%以上のシェアを握っているが、アリババは配達をしない。購入業者と消費者をマッチングするだけで、配達は購入業者が宅配便に委託をしてもらうという方式で、アリババは原則配達に関知をしない。

このため、アリババの成長速度は早かった。ネットの中のリソースだけを拡充すればよかったからだ。

しかし、米国ではアマゾンが大きなシェアを握っている。アマゾンは、配送も自社で行う。それが、商品が確実に到着するという安心感につながっていた。張磊は、中国でアマゾン型のECを目指している企業を探した。それが京東だった。しかも、創業者の劉強東(リュウ・チャンドン)は、自分と同じ中国人民大学を卒業している。張磊はすぐに連絡をし、劉強東と面会をした。

 

7500万ドルなら投資はしない。3億ドルなら投資をする

劉強東は、天の助けだと思い、7500万ドルの投資をしてくれないかと持ちかけた。それだけあればリーマンショックを乗り切れる。しかし、張磊はその金額では投資はできないと拒否をした。張磊は「3億ドル(約330億円)なら投資をする。1ドルでも欠くことはできない」と強い口調で主張したという。

つまり、経営危機に陥っている京東を助けるだけのための投資には興味はない。しかし、全国物流網を完成させて、中国のアマゾンになるための投資には大きな興味があるということだった。

 

投資条件が全国物流網を構築すること

張磊は、2つのことを京東に要求した。

ひとつは全国物流網の構築だ。米国のアマゾンも自社で物流網を整備をしているが、それは簡単なことではない。なぜなら、UPSFedEXという物流企業があり、競争をしなければならないため、物流で利益を出すことが難しい。しかし、中国ではまだ全国規模の物流企業が存在しない。京東が先駆けて全国物流網を構築できれば、京東の商品の配達だけでなく、物流企業としても利益を得ることができる。

張磊は、劉強東を連れて、米国のウォルマートを訪問した。ウォルマートの物流の仕組みを見学して、2人は「最終的にはすべてのプロセスを自動化する物流」を目指すようになる。これにより、「倉庫、配送センター一体化」という京東特有の物流網が構築されていく。

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▲京東の自動化された倉庫兼配送センター。ロボットが荷物を乗せ、配送先別の穴に落としていく。下には袋が用意され、配送先別のトラックに載せられる。

 

テンセントとの提携

もうひとつが、騰訊(タンシュン、テンセント)との提携だ。テンセントは拍拍網(パイパイ)というECサービスを運営していたが、まったくアリババのライバル足り得ていなかった。QQやWeChatというSNSを利用して、商品情報を拡散させ、購入を刺激するというアイディアはよかったものの、肝心の商品の調達や物流が整わず、商品は少なく、配達も遅いECとして、消費者から避けられていたのだ。

テンセントはECの運営は苦手だが、商品情報を拡散させることができるSNSを持っている。企業のデジタル化を進める技術と経験も持っている。張磊は、京東に全国物流網を構築させた上で、テンセントと提携させてSNSとデジタル化を活用することで、アマゾンを超えることができる。アリババに対抗できるだけでなく、アマゾンが中国に本格上陸をしても対抗できると考えた。

こうして、京東は、アリババに対抗できるだけのECに育った。その影には、張磊がいた。高瓴資本は、大きな利益を得ただけでなく、投資機関として優れた仕事をした。