中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

顧客数、客単価とも頭打ちの中で、独身の日セールはなぜ記録を大幅更新できたのか

アリババの顧客数、客単価はすでに頭打ちになっている。中国のネット人口9.4億人のほとんどは、スマホ決済「アリペイ」などのアリババの何らかのサービスを利用をしているため、新規顧客を増やしようがなくなっているのだ。それなのに、なぜ独身の日セールで記録を大幅更新できたのか。セール期間を伸ばしたことにより、今まで不参加だった利用者の掘り起こしに成功したのだと創事記が報じた。

 

昨年を大幅に記録更新した独身の日セール

今年2020年11月の独身の日セールは、アリババだけで4982億元(約7.9兆円)という桁外れの成績となった。今年の独身の日セール「双11」は、11月11日の1日だけではなく、11月1日から11日までの11日間おこなわれた「双11+11」となったたが、11日だけの流通額を見ても、3723億元(約5.9兆円)となり、昨年の2684億元から39%も増加した。

f:id:tamakino:20201223171039j:plain

▲今年のアリババの独身の日セールは、全期間で4982億元(約7.9兆円)という桁外れな成績になった。新規獲得顧客、客単価も伸び悩む中で、昨年の成績を大幅更新した。

 

複雑になる一方の割引クーポンの仕組み

今年の独身の日セールは、セール期間の延長も異例だったが、割引施策の複雑さも異例だった。定番となっている「満減券」(300元以上購入で40元割引などの利用条件付き定額割引クーポン)の他、各店舗ごとのクーポン、裂変券(自分だけでなく、指定した知人も割引になる仕組み)、事前予約割引、決済時にランダムに割引額が決まる割引などがあり、さらに還元ポイントもさまざまなタイミングで行われる。

このような優待をうまく利用とすると、複雑なパズルを解かなければならなくなる。多くの人がクーポン疲れを起こしてしまっている。

f:id:tamakino:20201223171042p:plain

▲11月11日単日の成績の推移。12年前の2009年には0.5億元だった。12年間で、約1万倍に成長したことになる。

 

新規顧客数は伸び悩んでいるのに39%増の不思議

今年の独身の日セールは、以前から流通額が頭打ちになるのではないかと囁かれていた。なぜなら、流通額を伸ばすには「利用客数の増加」「客単価の増加」の2つが必要になるが、以前から新規顧客数は頭打ちになっていることが明らかであり、客単価もアリババは公開をしていないが、伸び悩んでいることは明らかだったからだ。

いったい、39%の増加はどこからきたのだろうか。

f:id:tamakino:20201223171046p:plain

▲アリババ全サービスの新規獲得顧客数。この1年は明らかに伸び悩んでいる。

 

アリババの新規顧客獲得コストはいよいよ1000元を突破

客単価が増加をしていないのであれば、利用者数が39%伸びていなければ計算が合わない。しかし、アリババ全体の会員数(ECだけでなくすべてのサービスの新規利用者数)は、明らかに伸び悩んでいる。セール直近の2020Q3ではわずか700万人と、かつてないほどの低迷ぶりとなった。

しかも、新規顧客獲得コストはそれに反比例するかのように上昇し続けている。1人の新規利用者を獲得するために必要な広告費、優待費用などは、2018年は400元以下であったものが、2020年になると800元を突破、直近の2020Q3では1158元(約1.8万円)にまで上昇をしている。

直近4つの四半期、つまり1年分の増加利用者数は9600万人であり、しかもこれはECだけではなく、アリババのサービスすべての増加数だ。アリババの利用者数は現在8.81億人であり、増加分は10%程度でしかない。39%の増加にはまったく足りないのだ。

f:id:tamakino:20201223171050p:plain

▲アリババの新規顧客獲得コストの推移。年々上昇して、ついに1000元を突破した。ネット人口9.4億人のほとんどは、アリババのユーザーになってしまったため、伸び代がほとんど残っていないことによる。深燃財経の調査データより作成。

 

セール不参加顧客の掘り起こしを行なったアリババ

ところが、天猫(Tmall)運営事業部責任者の劉博は、メディアの取材に対して、「今年の独身の日セールには8億人の人が参加をし、昨年よりも3億人増えた」という趣旨の話をしている。これであれば、増加分は37.5%となり、流通額の39%増加と計算が合う。

この3億人はいったいどこからやってきたのだろうか。

その答えは、意外に簡単だ。アリババの利用者でありながら、セールに参加をしない人が昨年まではかなりの人数いたのだ。天猫の劉博の話の中の数字が正確だとすると、昨年のセール参加率は63.7%であり、今年は90.8%まで上昇している。

このセールの新規参加者が流通額39%増加をもたらした。

この参加率の上昇は、偶然ではなく、アリババが戦略的に上昇させたと考えるべきだ。独身の日セールは確かに大幅割引となり、お得に買い物ができる日ではあるが、1日しかないため参加をためらう人もかなりいた。近年はクラウドが増強されて改善されてきたが、数年前までは大混雑により、自分が欲しい商品ページを表示するのにも待たされることが頻発した。さらにクーポンをうまく組み合わせて買い物をしないと大きな得はできない。また、11月11日が週末とは限らず、平日であれば仕事があるので買い物などしていられないという人も多い。

経済的にゆとりのある都市生活者は、なにも苦労をして割引を得なくてもいいと考えるし、地方や農村の経済的にゆとりのない人たちは、低価格が売りのソーシャルEC「拼多多」(ピンドードー)のセールに参加をしてしまう。そのような人が昨年までは3億人もいたことになる。

 

セール期間を伸ばすことで、参加しやすくした

この「アリババ離れ」を阻止する施策が、今年のセール期間の長期化だった。セールそのものは11が1日から11日までの11日間だったが、予約期間は10月21日から始まっている。この予約期間に購入予約をしておけば、11月1日になった時に購入が確定をして配送される。つまり、セール期間は実質20日間もあったことになる。

これにより、11月11日になって焦って購入をする必要は薄れ、自分の余裕のある時間に予約購入ができるようになった。さらに、拼多多対策として、低価格商品の大幅導入、都市居住者のための越境商品(輸入品)などの品揃えに力を入れた。これにより、アリババは内部の利用者の掘り起こしに成功をした。これが39%の増加につながっている。

毎年のことながら、最後には目標数字を達成するアリババの戦略は見事と言うしかないが、では、来年はどうするのだと考えると、うまい方法が誰にも思いつけない。外部からの新規流入は期待できず、内部の利用者の90%をセールに参加させることに成功した。伸び代の余地はもうなくなっている。

東南アジア最大のEC「Lazada」(ラザダ)は、2016年からアリババ傘下となり、11月11日には独身のセールを行なっている。このような海外ECを活用して、独身の日セールは中国だけのものではなく、アジア全域のセールになる可能性もある。2021年から、新たな形の独身の日セールが始まることになるのかもしれない。

 

ZERO ウイルスセキュリティ 1台 (最新)|ダウンロード版

ZERO ウイルスセキュリティ 1台 (最新)|ダウンロード版

  • 発売日: 2019/11/15
  • メディア: Software Download