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EC大手の京東がフードデリバリーに参入。その背後にある物流戦略

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今回は、EC大手の京東がデリバリー参入した背景の戦略についてご紹介します。

 

中国ではしばしば「焼銭大戦」が起こります。新しいサービスが大量のクーポンを配布してシェアを取りに行くというもので、際限のないクーポン合戦になることがあります。

最も激しかったのは2014年の滴滴(ディディ)と快的(クワイディー)によるタクシー配車アプリ大戦です。米国のウーバーがライドシェアというビジネスモデルで中国に上陸することを表明したのがきっかけとなりました。中国の滴滴と快的はまだ規模が小さく、ウーバーには対抗するのが難しいため、早く相手を打ち負かして市場を独占し、ライドシェア事業に乗り出す必要がありました。

このため、滴滴がクーポンを配布すると、翌日には対抗して快的が配布するなどエスカレートしていき、一時期はタクシーが無料で乗れるようなところまでいきました。最終的に滴滴と快的が合併をすることでこの大戦は終結しました。

2017年に起きたofo(オッフォ)とMobike(モバイク)の焼銭大戦では、過剰な数のシェアリング自転車が街中に投入され、歩道が自転車で埋めつくされ、まともに歩けないというところまでいきました。これはofoの破綻により終結しました。

 

そして、今年2025年2月に、突如としてEC大手の京東(ジンドン)がフードデリバリーに参入し、焼銭大戦を仕掛けていきました。デリバリー業界は、美団(メイトワン、黄色)とウーラマ(青)の他に、中国版TikTok「抖音」(ドウイン、黒)も独自のデリバリーネットワークの構築を始めています。完全にレッドオーシャンの市場だと見られていました。そこに京東(赤)が参入したのです。

京東の創業者、劉強東(リュウ・チャンドン)氏は、自らライダーとなって電動自転車で配達をしました。劉強東氏がすごいのは、プロモーション用に写真を撮っておしまいではなく、1日だけですが、本気で配達業務をやったことです。そして、1日に97件を届けるという普通の人はできない記録を打ち立てました。これで、ライダーチームの士気が高まりました。

京東は先行する美団(30分配送)に対抗して、「20分で配送。遅れたら料金は無料」を打ち出しました。4月22日、京東にコーヒーやミルクティー、食事を注文する人が殺到し、システムがダウンするという事態になります。その影響で20分で配達できない注文が多発し、ほぼ全員が無料となり、お祭り騒ぎになりました。

京東は「ご迷惑をおかけした」として、注文をした人に25元のクーポンを3枚ずつ配布しました。食事には不足ですが、ドリンクであれば無料で飲むことができます。これがきっかけとなり、美団もクーポン配布を始め、エスカレートが始まっていきます。

 

7月に入ると、京東は100億補助キャンペーンを始めます。京東が指定する商品に補助金を出し、実質的に無料で注文できるというものです。これに呼応して、美団も大幅割引キャンペーンを始めます。これまでフードデリバリー全体の記録は1日1億件というものでした。ところが、7月の第2土曜日には2.5億件の注文が入り、記録をあっさりと塗り替えることになりました。

被害を受けたのは飲食店です。飲食店が割引をするのではなく、何を割引するかはプラットフォームが勝手に決めます。多くの場合、誰もが飲むミルクティーなどが選ばれました。

ミルクティースタンドからすると、ある日突然、注文数が桁違いに増えることになります。デリバリー注文のチケットを出すプリンターは、朝からシールチケットを吐き出し続けます。このシールをカップに貼って、包装してデリバリーライダーに渡すようになっています。最初は壁一面にチケットロールを貼っていましたが、壁も埋め尽くされてしまい、チケットが床に吐き出されるままに放置してしまった店舗も少なくありません。

カウンターには数十人のライダーが押し寄せます。店舗スタッフは朝からミルクティーをつくってもつくっても追いつかず、むしろバックオーダーが増えていってしまいます。本部は原材料を緊急配送し、ヘルプスタッフを送り込みます。まさに修羅場となりました。

▲補助の指定商品となった飲食店では、桁違いの注文が入り、パニック状態となった。

 

7月18日には、市場監管総局が問題視し、美団、ウーラマ、京東を呼び出して会談をします。そして、8月1日、3社は京東で「無秩序な競争はしない」宣言を出すことにより、この焼銭大戦は終結します。

 

この騒動で、誰もが疑問に思うのが、「京東はなぜこの時期にデリバリーに参入したのか」ということです。デリバリーサービスは、もはや5線都市と呼ばれる地方郊外都市にも普及をしていて、これ以上の成長空間は残されていないと言われています。そのため、美団は2023年5月から香港でKeeTa(https://www.keeta-global.com/HK/en)としてサービスを始め、これを足がかりに海外展開を進めています。

このような成長がもはや厳しくなっているフェーズに、どうして京東はわざわざ国内市場にかなり強引な形で参入をしたのでしょうか。これが第1の疑問です。

もうひとつは、京東から見ればデリバリー市場は小さな市場です。京東の2023年の流通総額(GMV)は3.5兆元、アリババのGMVは7.2兆元です。その他のプレイヤーも合わせて、ECの市場規模は15兆元程度だと見られます。一方で、フードデリバリーの市場規模は3.5兆元程度です。ECもデリバリーもレッドオーシャンとなって伸び悩んではいますが、京東としては小さなデリバリーに参入するよりは、アリババの牙城を崩すことに集中した方が賢いように思えます。なぜ、デリバリーなのでしょうか。これが第2の疑問です。その答えは、京東のビジョンに関わるものです。

 

中国のEC大手と言えば、みなさんよくご存知のアリババ(Tmall+淘宝網)、京東、拼多多(ピンドードー)が3強です。

この3社は、マッチングプラットフォーム型、オンラインストア型、SNSマッチング型に分けることができます。アリババのTmallと淘宝網タオバオ)は、販売業者が出店をし、消費者とのマッチングを行います。日本で言えば、楽天に近いモデルです。これがマッチングプラットフォーム型です。

京東はオンラインストア型です。販売する商品は京東が仕入れを行い、京東が販売と配達をします。日本で言えば、ヨドバシ.comやアマゾンに近いモデルです。

また、拼多多は独特で、SNSで販売業者と消費者のマッチングを行います。SNSですから拡散をすることがあるために、爆発的な販売力があります。日本ではあまり見かけないモデルです。

 

このような分類が一般的ですが、今回は視点を変えて、物流方式で分類することを考えてみます。なぜなら、ECというのは「ソフトウェア+物流」が構成要素になっているからです。

物流は大別して「長距離物流」「中距離物流」「短距離物流」に分けることができます。

長距離物流の主役は宅配便ネットワークです。日本で言えば、佐川急便やヤマト運輸と同じで、中国では「三通一達」(申通、円通、中通、韻達)の4社が主流で、さらに海外宅配にも対応している順豊(SF Express)、FedExなどがあります。このような宅配便ネットワークは、幹線と支線網から構成されています。

今、北京に住んでいる人がタオバオで商品を買いました。その商品の販売業者は広州市にあります。販売業者は広州市で商品を宅配便で送ります。その荷物は支線網を通じて、広州市の集配センターに送られ、そこからは幹線を使って北京市の集配センターに送られます。北京市では支線網に送り込まれ、購入者の家に届けられます。

この長距離物流のポイントは、各エリアを支線網がカバーをし、このエリア同士を幹線で結んでいるということです。そのため、支線・幹線・支線と、荷物は何回か乗り換えるため、幹線の便とのタイミングが合わないと配送時間が延びることになります。通常、3日から7日で中国の全土に届けられます。日本は、国土が狭いということはあるものの、同じ仕組みで翌日から長くても4日ぐらいで届けてくれるので、日本の宅配便は非常に優秀なのです。

 

京東の物流は、これとは違っていて、中距離物流になります。京東は全国に数百カ所の倉庫を持っていて、注文が入るとその倉庫から出荷をします。

その代わり、北京で購入をした消費者には北京の配送センターから出荷されるため、時間がかかりません。京東の211限時達では、午前11時までに注文すれば当日着、それ以降は翌日着となっています。

メリットは地域倉庫からの配送なので早いということです。日本では、ヨドバシ.comがEC倉庫と店舗在庫をうまく組み合わせて短時間の配送を行っています。もちろんデメリットもあります。それは幹線物流がないために、地域倉庫で在庫切れを起こすと、納品があるまで販売を停止しなければならなくなることです。タオバオの長距離物流のように広州の販売業者が北京の購入者に直接商品を届けることはできません。幹線物流がないからです。販売業者は自力で各地の倉庫にあらかじめ商品を納品しておく必要があります(実際は京東の物流がこの仕事を代行します)。

京東は、中国の人口カバー率90%以上で、当日/翌日配送の211限時達を提供して、中国の物流を変えたと言われています。しかし、仕組みは全国物流ではなく、地域物流をモザイク状に組み合わせ、在庫に余裕を持たせておくというシンプルで賢い方法で実現しています。

 

短距離物流はデリバリーです。在庫は半径5km以内の店舗であり、店舗在庫を電動自転車に乗ったライダーが30分で届けます。

つまり、中距離物流を主軸にしていた京東が、短距離物流に進出したというのが、今回のデリバリー参入の本質なのです。では、なぜ、京東は中距離から短距離に進出する必要があるのでしょうか。

今回は、この疑問を解きながら、ECがどのようなモデルを目指しているのかをご紹介します。

 

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