中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

世界でトップシェアでも、中国市場では1%以下のサムスン。中国市場で売れない理由

現在、スマートフォンの世界シェアでトップなのはサムスン。しかし、中国市場ではわずか0.8%と風前の灯になっている。なぜ、サムスンは中国市場で売れないのか。それはサムスンが中国市場を軽視してきた結果だと騰訊網が報じた。

 

世界でトップシェアのサムスン、中国では1%以下

混沌とするスマートフォン市場。ファーウェイは米中貿易摩擦により、チップセットのグループ内調達が難しくなり、しばらくの間はパフォーマンスを落とさざるを得なくなっている。アップルは、懸案だったローエンド市場の獲得に対する対応に手をこまねいていて、シェアを伸ばし切れない。

その状況下で、漁夫の利を得るかのようにシェアを伸ばしているのがサムスンだ。Counterpointの統計によると、ワールドワイド市場でのサムスンは、1位の座を安定して確保している。2020Q2ではファーウェイに追いつかれたが、これはコロナ禍により世界的にスマホの需要が低迷する中で、中国ではいち早く需要が回復したことによる。今後、ファーウェイはシェアを落とさざるを得ないため、再びサムスンが安定の1位となる見込みだ。

しかし、サムスンは以前は中国市場でも20%以上のシェアを取り、最も売れている携帯電話だったが、現在は1%以下にまで落ち込んでいる。なぜ、サムスンは中国市場で、ここまで売れないのだろうか。

f:id:tamakino:20201110100036p:plain

▲Counterpointの調査によるスマートフォン世界シェアの推移。サムスンは圧倒的に強い。

 

フィーチャーフォン時代に人気機種だったサムスン

サムスンが中国市場で最も高いシェアを取っていたのは2013年。この時、中国の国産メーカーは「中華酷聯」時代と言われていた。中興(ZTE)、華為(ファーウェイ)、酷派(クールパッド)、聯想レノボ)が強かった時代だ。

この頃は、まだスマホがさほど普及していないフィーチャーフォンが主力の時代。フィーチャーフォンはほぼ電話だけの機能しかないので、品質の差があまり気にならなかった。電話させきちんとできれば、安い方がいいというのが一般的な考え方だった。また、携帯電話そのものも構造が単純であったため、数人のチームで携帯電話を製造し、電気街で売る「山寨機」も多くの人が利用していた。

当時の中国人にとって、中国メーカーの携帯電話は「性能はそこそこ、安い」というイメージで、海外メーカーの携帯電話が高級機=ハイエンドだった。サムスンモトローラソニー、HTCなどに人気が集まっていた。その中で、サムスンはハイエンドからローエンドまで多彩な機種を中国市場にも投入していて、中国でも人気が高まっていた。

 

スマホ時代になると小米、ファーウェイが台頭

しかし、フィーチャーフォンからスマホに主役が移ると、サムスンの地位が危うくなってきた。小米(シャオミ)やファーウェイなどの中国メーカーが、スマホを投入してきたからだ。サムスンもハイエンドのGALAXYシリーズ、ローエンドのAシリーズを投入してきたが、いずれも苦戦をした。

中国のスマホ市場の転換点となったのは、間違いなくシャオミの登場だ。価格は従来の中国携帯電話と同じく安く、一方でスマホとしての性能は高かった。ただし、シャオミはスタートアップ企業であったため、大量生産ができなかった。そのため、シャオミに刺激をされた消費者が、シャオミを買うことができず、他メーカーのスマホを買い求めるという現象が起きた。ここで、「シャオミからのおこぼれ」をうまく拾って、シェアを伸ばしたのがファーウェイだ。特に2014年のmate7は評価が高く、よく売れ、ミドルレンジ市場でのサムスンの居場所を奪ってしまった。

サムスンのGALAXYはシャオミとじゅうぶん対抗できる製品だったが、価格の点でシャオミとの競争力は弱かった。シャオミも製造体制を整え、大量に供給ができるようになると、ミドルレンジ市場でのサムスンの居場所を奪っていった。

 

ハイエンド市場ではiPhoneが圧倒的に強い

GALAXYは性能が高く、本来はハイエンド市場向けの製品だ。しかし、ここにはiPhoneという強敵がいる。iPhoneは、グローバルシェアでは3位だが、ハイエンド市場に偏っているため、ハイエンド市場でのシェアは圧倒的だ。中国でも2011年のiPhone4がよく売れ、以降、中国のハイエンド市場はiPhone一色となっている。ここでもサムスンの居場所はなくなっていった。

唯一、売れていたのが大画面を売りにし、タブレットスマホの中間を狙ったnoteシリーズだったが、これも2014年に大画面のiPhone6 Plusが投入されると、居場所を失っていった。

f:id:tamakino:20201110100041j:plain

サムスンGalaxy Note7は、連続して発火事故を起こし、回収をする事態となった。

 

発火事故で中国市場対応を誤ったサムスン

さらに決定的になったのが、2016年のNote7の発火事故だった。中国市場に対しては、明らかに対応を誤った。

8月24日に最初の発火事故が明らかになり、その後も発火事故が続いたため、9月1日に韓国市場での全面回収を発表した。しかし、中国市場ではそのまま販売を続けた。9月2日には、海外市場での全面回収を発表したが、この時も中国市場での回収は発表されなかった。

結局、発火事故は70件以上も起こっていることが明らかになり、多くの航空会社がNote7の飛行機内への持ち込みを禁止する事態になった。それでも、中国市場では回収をせず、そのまま販売を続けていたのだ。9月14日に、中国国家質量監督検験検疫局がサムスン中国と会談し、ようやく中国市場での回収が発表された。

その直後の9月18日に、中国国内でも発火事故が起きてしまう。

ところが、サムスン中国は、この事件に対して、「製品に問題はなく、外部からの加熱による事故」と発表した。これに中国のネット民が不満を述べると、韓国のネット民が反論するコメントをつけ、ネットは炎上状態となった。

さらに香港でも発火事故が起き、10月になって米国の販売店がNote7の販売を自主的に停止するに至り、サムスンはようやくNote7の全面販売停止に踏み切った。

なぜ、グローバル市場と中国市場で、サムスンの対応が異なっていたのかはよくわからない。それがサムスンの戦略上の問題なのか、サムスン中国の問題なのかはともかく、サムスンが中国市場を軽視していることは明らかであり、しかも発火をする危険性のある製品を販売し続けていたという事実が中国の消費者の記憶に刻まれた。

f:id:tamakino:20201110100045j:plain

発火事故を起こしたNote7。世界市場からは回収をしたが、なぜか中国市場では販売を続けていた。これにより、中国の消費者からの信用を失ってしまった。

 

なぜか中国市場を軽視するサムスン

それ以降も、サムスンは中国市場を軽視し続けている。例えば、新製品の予約販売を行うときに、サムスンは予約金として代金の一部を徴収する。購入をキャンセルした場合は返金がされるが、消費者としては面倒このうえない。

サムスンは、ローエンド、ミドルエンド、ハイエンドと市場のすべてのレイヤーで、中国メーカーやアップルに押され、居場所を失おうとしているところに、Note7発火事件で消費者の信頼を失った。それ以降も、中国市場軽視の姿勢を変えようとしない。

かつて20%以上のシェアを占めていたサムスンの現在のシェアは0.8%であり、多くの統計で「その他」に含まれてしまう状態になっている。しかし、それは、サムスンがそうなるように中国市場で行動をしてきた結果なのだ。