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今回は、ファーウェイのスマートフォンが、技術的には2世代から3世代遅れていると言われながら、性能面でiPhoneと肩を並べることができている理由についてご紹介します。
中国のスマートフォン市場に異変が起きています。調査会社Counterpointの2024年Q1の統計(https://www.counterpointresearch.com/insights/china-smartphone-q1-2024/)によると、市場全体は前年比1.5%の成長で、2四半期連続の増加となりました。
▲2024年Q1の中国市場のスマートフォンシェア。ファーウェイが大幅躍進をし、アップルが急降下をした。
アップルが前年比-19.1%という大きな減少になっています。長引く経済低迷で、エントリーやミドルレンジのスマホの買換え周期が伸びています。これまで2年ごとに買い替えていた人が3年に伸ばすだけで、出荷台数は33%も減少をします。エントリー、ミドルレンジを中心にしてきたOPPO、vivoが精彩を欠くのは致し方のないことです。
しかし、ハイエンドは、ユーザーが高機能、新機能を求めるために、買換え周期はあまり伸びません。そのため、ハイエンドを発売しているファーウェイ、シャオミが増加となりました。しかし、その中で、アップルが最大の減少率を示したのです。
その理由を、Counterpointの記事では「ファーウェイのカムバックがプレミアムセグメントに直接影響を与えたため」と説明しています。中国では、サムスンがほとんど存在しないにも等しい状態になっており、ハイエンド機種はファーウェイとアップルだけに限られていました。米国のチップ封鎖によってファーウェイが市場から消えると、ハイエンドはアップルだけとなりました。小米が食い込もうとし、一定程度の結果は出しましたが、まだアップルとの差は厳然としてあります。これにより、アップルがハイエンドを独占するという状態になっていました。
そこにファーウェイが復活したことにより、アップルがシェアを急激に落としているというわけです。
これはある意味、ファーウェイのカムバックにより、中国市場が元のバランスに戻ろうとしていると言うこともできます。
▲2000年以降の中国市場スマートフォンのシェア。ファーウェイが優勢だった頃、アップルのシェアは20%未満だった。現在の急落は、元の状態に戻ろうとしているだけとも言える。Counterpointの統計より作成。
ファーウェイがチップ封鎖を受ける前、中国市場は完全にファーウェイがリードをしていました。2020年までは、ファーウェイのシェアが30%以上あり、アップルは、新製品の発売時でも20%に届かない水準でした。しかし、チップ封鎖でファーウェイがスマホを製造できなくなり、シェアが落ち始めると、それに代わってアップルが台頭してきたのです。新製品の発売時にはシェアが20%を超えるようになりました。それがファーウェイのカムバックにより、元の状態に戻ろうとしているというのが現状です。
しかし、アップルは相当に慌てているようです。期間限定ですが、最高2000元の値引きをしました。4万円ほどですから、かなり大胆な値下げです。また、Apple TradeInの下取り価格も上昇をさせました。さらに、アップルは世界各国で36ヶ月分割払いの優待オファーを実施しています。これは36回の分割ローンですが、24回以上払ってから、新機種を購入すると、残りのローン残高を免除するというものです。つまり、実質的な支払額は24/36=2/3で済むというものです。このような仕組みを組み合わせると、半額以下で新機種が購入できるようになります。ある意味、なりふりかまわないセールを行なっています。
SNSは荒れています。それはそうでしょう。最近iPhoneを買った人にとってみれば、少し待っただけで、6万円ぐらいはお金を節約できたのですから。SNSでは、「もはやアップルは高級ブランドではない」という声も出ています。アップルはこれまで値引きセールはしてこなかったのです。それでもアップルは、なんとかシェアの下落を止めたいということのようです。
これで、中国のハイエンドスマホ市場は、アップル、ファーウェイ、小米の三つ巴の戦いとなりました。小米も決して悪くありません。特に写真の性能はライカと共同開発をし、ライカの色彩を再現するということに挑戦をしています。オリジナルライカに近い味わいが楽しめる「ライカクラシック」、ライカの味わいでありながらデジタル写真的な鮮やかさも楽しめる「ライカモダン」の2つのモードを搭載するなど、写真を楽しみたい人にとっては面白い機能を追求しています。
一方、アップルのiPhoneは隙がありません。使いやすさという点ではAndroidを大きく上回りますし、MacBookなどの他のアップルデバイスとの連携は一度使ってしまうと便利すぎて、もう手放せなくなります。
そして、Proでは動画撮影で素晴らしい性能を実現しました。中国でも日本でも、さまざまなメディア、インフルエンサーが比較検証を行なっていますが、iPhone Proは、手ブレの補正が素晴らしく、また、カメラをパーン(横移動)しても画面がカクカクしません。映像のリアルタイム処理の能力が非常に高いことは間違いありません。
「vol.199:映画、ドラマはスマホで撮影されネットで公開される。中国の優れた映像コンテンツ」では、中国の巨匠と呼ばれるチャン・イーモウが制作したスマホ動画「竪屏美学」や、アップルが毎年、春節の時に公開をしている短編映画を紹介いたしました。アップルの短編映画は、すべてiPhoneで撮影したというものです。2024年の短編映画は「小蒜頭」(Little Garlic)でした。「アメージング・スパイダーマン」などのマーク・ウェブ監督による作品です。
https://www.youtube.com/watch?v=U1unmE6OlYM
▲「小蒜頭」(Little Garlic)。アップルが毎年の春節の時期に、中国市場で無償オンライン公開している短編映画。今回は、マーク・ウェブ監督の作品。すべてiPhoneで撮影されている。中国語音声、英語字幕。
ストーリーは、子どもの頃から鼻が丸いことを気にしている女の子の話です。女の子はその見た目のため、学校でもいじめられていると信じ込んでいますが、一緒に住んでいる祖父はその鼻を「ニンニクちゃん」と呼び、愛らしいと可愛がっています。主人公の女の子は、いつも自分ではない別の人間になりたいと思い、成人をして上海で一人暮らしを始めると、別人になる能力が目覚めてしまうというファンタジーなお話です。しかし、今度は元の自分に戻ることができなくなります。SNSでいろいろな人に憧れ、いろいろな人を演じているうちに、自分自身がわからなくなるという現代人の生活をシニカルに描いています。
この映画の1分30秒あたりに、女の子が学校のグラウンドを疾走するシーンがあります。疾走する女の子を前から撮影しているのですが、普通は画面がぶれないように、カメラを台車に乗せて撮影をします。しかし、驚くことに、このシーンは、iPhoneを手持ちして、女の子と一緒に走りながら撮影されているのです。さらに、二重に驚くことには、走りながら撮影しているのはマーク・ウェブ監督自身なのです。ハリウッド大作も撮った監督が、中国で手づくり感あふれる映像を撮っていることにも心が動かされます。
もちろん、撮影後にMacBookの編集ソフトで後処理はしているとはいうもののの、手持ち撮影でここまで安定した絵がつくれるのはすごいことです。マーク・ウェブ監督はインタビューで「iPhoneの手ぶれ補正が凄すぎて、逆に困った。躍動感を出すために、微妙なブレが欲しかった。その調整に何度も試行錯誤が必要だった」というようなことを語っています。
日本でも、テレビカメラ、ビデオカメラから撮影機材をiPhoneにする人が増え始めています。それはアマチュアだけではなく、プロでもそのような流れが起き始めています。「iPhoneの進化は止まってしまった」と言う人は多く、私も時々うっかりとそのような表現を使ってしまうことがありますが、とんでもありません。iPhoneは映像の世界に密かに革命を起こしている最中です。
では、ファーウェイのスマホにはどのようなセールスポイントがあるのでしょうか。ひとつは、鴻蒙系統(HarmonyOS)によるさまざまなデバイス間の連携です。しかも、アップルの先を行く機能を実現しています。ただし、HarmonyOS対応のPCやタブレットなど、ファーウェイとその関連商品で揃える必要があるため、その恩恵を受けているのは中国のごく一部のユーザーにすぎません。
それでも、ファーウェイを選ぶ人が多いのは、際立った特長はないものの、あらゆる面でレベルが高いからです。デザインは好き嫌いがあるのもの、製品としての仕上がりは相変わらず一級品です。カメラも小米やアップルのような頭抜けた特長まではないものの、じゅうぶんすぎるほどの水準です。小米は静止画には強いけど動画には不満が残る、アップルは動画には強いけど静止画には物足りなさがある。ファーウェイはどちらも頭抜けてはいないけど、高い水準です。そのため、写真を楽しみたい人は小米、ビデオ撮影を楽しみたい人はアップルと、目的がある人はそれにあったブランドを選びますが、特定の目的はなく、快適で上質なスマホが欲しいという人はファーウェイを選択することになります。
ところが、ファーウェイはチップ封鎖により、アップルのAシリーズと競い合っていたSoC「麒麟」(Kirin)の開発をいったん中断せざるを得なくなりました。SoC(System on Chip)とは、スマホのすべての処理を行う頭脳の部分のことです。
麒麟は、ファーウェイ子会社の「海思」(HiSilicon)が設計を行ない、台湾の「積体電路」(TSMC)が製造をしていました。しかし、米国は、麒麟の製造に関わる企業に対しては、米国の製造装置や製造技術を使わせないというチップ封鎖を行ないました。これにより、TSMCが麒麟の製造をできなくなってしまったのです。もし、TSMCが麒麟の製造を続けると、米国の製造技術が使えなくなり、アップル向けのSoCなども製造ができなくなり、TSMCは倒産をしてしまいます。麒麟の製造を放棄する以外の道はありません。
ファーウェイは、米国の技術を使わず、独自技術でSoCを製造するしか道がなくなりました。この体制づくりのため、ファーウェイの空白期間が生まれます。
問題は、プロセスルールでした。このプロセスルールという呼び方は日本独特で、海外ではプロセスサイズという呼び方が一般的です。これは半導体の最小加工精度のことで「A16は4nm(ナノメートル)のプロセスルールで製造された」などという使われ方をします。
これは、半導体の回路の細さだとイメージしてください。細い回路がつくれるということは、同じ面積の半導体の中にたくさんのトランジスターを詰め込むことができます。つまり、それだけ高性能のSoCが製造できるということになります。
また、半導体をつくるときは、円盤のような大きなシリコンウェハに、回路図を写真露光のように転写をします。この時、1個分の回路図を転写するのではなく、シリコンウェハに、小さな半導体であれば数百個以上の回路図を転写し、一気に数百個の半導体を製造します。このシリコンウェハの製造や転写に大きなコストがかかるので、プロセスルールを進化させて同じサイズの半導体に回路を密に詰め込むことができれば、コストはそのままで高性能のSoCが製造できるということになります。
つまり、プロセスルールの追求は、世界最先端技術を追求するだけでなく、コストをあげずにSoCの性能をあげる決め手にもなるわけです。そのため、TSMCやサムスンは、プロセスルールを小さくする競争をしています。
2020年当時、TSMCは5nmのプロセスルールを実現し、アップルのSoC「A14」を製造していました。しかし、中国の半導体製造企業の最先端は14nmという遅れたものでした。これではファーウェイは勝負になりません。
そこで、中国の中芯国際(SMIC)が7nm相当の製造技術を開発、これで麒麟が製造できるようになり、ファーウェイ復活の決め手となりました。
しかし、アップルは5nmであり、すでに4nm時代に入ろうとしていました。7nmでも2世代=3年から5年は遅れていると言われています。それなのに、ファーウェイのスマホは、なぜ最先端のiPhoneと比べられるほどの性能を示すのでしょうか。
ファーウェイはこの遅れを取り戻すために、さまざまな技術的工夫を行なっています。今回は、その工夫についてご紹介をします。半導体製造の専門用語がちらほらと混ざるために難しく感じられる方もいるかもしれませんが、考え方を理解するだけであればさほど難しい話ではありません。
しかも、このファーウェイの工夫は、半導体の将来をも変える可能性があるものです。プロセスルールを小さくしていくのはいいとしても、いずれどこかで限界に突きあたります。一方で、対話型AI、ディープラーニングなど、SoCに求められる演算能力は飛躍的に増加をしています。このままでは袋小路に入ってしまうため、プロセスルールとは別の進化の方向が模索されるようになっています。ファーウェイの工夫は、その新たな進化の方向を探るものにもなっています。
ファーウェイが麒麟で行なった工夫を理解しておくことで、今後5年ぐらいのスマホの進化がどのような軸で進むのかも理解できるようになります。それが、今回ファーウェイの工夫をご紹介したい理由です。
今回は、麒麟に秘められたファーウェイの工夫についてご紹介します。
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