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シャオミがハイエンド市場で善戦。それでも埋まらないアップルとの差はどこにあるのか?

2022年最終週のハイエンド市場販売シェアで、シャオミがアップルに次ぐ2位に食い込む善戦ぶりを見せた。しかし、プロダクトとしてはiPhoneとはまだまだ差がある。その差は両社の考え方にあると商隠社が報じた。

 

iPhoneを照準に定めているシャオミ

中国のハイエンドスマホ市場で、小米(シャオミ)の小米13が好調な動きを見せている。市場調研機構のデータによると、2022年第52週のハイエンド市場(価格4000元から6000元)で、小米の販売額シェアが初めて20%を超えた。ファーウェイが米国による規制により生産数を落としている中、ファーウェイの抜けた穴を小米が埋めようとしている。

しかし、それでもアップルとはダブルスコアになっている。小米13の発表会で、創業者の雷軍(レイ・ジュン)は、改めてiPhoneに照準を定めることを宣言した。

1年前、私がiPhoneを照準にすると言った時、ネットでは多くの人が私のことを笑いました。しかし、iPhoneを標的にするという勇気と決断がなければ、ハイエンドスマートフォンをつくれるわけがありません。

小米がハイエンド市場に参入することを宣言して3年が経つ。小米11、小米12、小米13と3機種のハイエンドスマホを発売し、市場からは評価をされた。しかし、iPhoneと比較して、iPhoneに勝っていると感じた消費者はとても少ない。小米には何が足りないのだろうか。どこがiPhoneに追いつけていないのだろうか。

▲2022年第52週(12/26-1/1)の中国ハイエンド市場の販売台数シェア。小米が2位に食い込んだが、アップルとの差はまだまだ大きい。

 

シャオミが離れられないコスパのイメージ

ひとつは創業以来のブランドイメージの差だ。iPhoneは、スマートフォンという概念が存在しない時代にスマートフォンを発売し、それ以来、数々のテクノロジーを取り入れ、ハイエンド市場をつくってきた。一方、小米の創業のビジョンは「iPhoneと同等のスマホを、iPhoneの半分の価格で」というもので、コストパフォーマンスから出発している。中国では、「OPPOはカメラ、意識の高い人はアップル、ビジネスパーソンはファーウェイ、小米はコスパ」というイメージが定着をしている。

このようなブランドイメージを途中から変えるというのは簡単なことではない。アップルは最初からハイエンドで現在でもハイエンドだが、小米は最初はコスパで現在はハイエンドにシフトしようとしている。しかし、それはどこまで行っても、「コスパのいいハイエンド」という「準ハイエンド」であり、これを打破するにはよほど強烈な印象を与えるプロダクトが必要になる。

▲小米の最初のプロダクト「小米1」。iPhoneと同等の性能をiPhoneの半分の価格でを目指したもので、熱狂的に支持をされた。しかし、コスパのイメージがついてしまい、ハイエンド進出に苦しむことになった。

iPhone 3G。見た目は小米1と変わらないが、そこにはアップルが積み重ねてきたユーザー体験のノウハウが詰まっている。

 

アップルの究極のユーザー体験至上主義

もうひとつはアップルと小米に共通をする「ユーザー体験至上主義」だ。両社は、いかに快適なユーザー体験を与えるかを考え続けている。アップルはこのユーザー体験を究極まで追及している。例えば、時計アプリでアラームをセットするために時間が表示されているドラムを回転させると、カチカチと歯車が回転するようなサウンドと触覚フィードバックが返される。ドラムの回転も、あえて滑らかにせずに、歯車の抵抗で回転速度が遅くなっていく。

また、懐中電灯のアイコンは、オンにすると明るく点灯をし、さらに懐中電灯のアイコンに描き込まれている小さなスイッチがオンの状態になる。

このような細かい工夫は、機能だけを考えればなくていいと言えばなくてもいい。しかし、アップルにはなくてはならないものだ。このような細部にこだわることで、ユーザーは道具を使っているという感覚を得ることができ、深い満足感を感じることができる。しかも、この満足感は、意識層ではなく、無意識層に訴えかける。切れ味のいいナイフ、手になじむ工具と同じで、世界の高級品と呼ばれるプロダクトが共通をして持っている特徴だ。だからこそ、アップルはハイエンドというブランドイメージを維持し続けている。

iPhoneの懐中電灯のアイコン。点灯するとアイコンのスイッチの部分がちゃんとオンになる(右)。

 

ユーザーに聞くシャオミのユーザー体験至上主義

小米も究極のユーザー体験至上主義を貫いている。小米は、小米1を発売する前からユーザーコミュニティーを構築し、参加するファンたちに、小米のOSであるMIUIのβ版を配布し、使ってもらい、意見を求めるという活動をずっと行なっている。毎週金曜日に新しいバージョンが配布され、週末の間にファンたちが使い、翌週の金曜日には改善をした新しいバージョンを配布するということを行い続けている。

それにより、MIUIはカスタマイズできる範囲がどんどん広がっていった。例えば、懐中電灯を点灯する操作は、少なく見積もっても5通り用意されている。それぞれのユーザーが自分のいちばん使いやすい方法を選んでもらうことによって、一人一人に最高のユーザー体験を提供しようとしている。

 

両者のユーザー体験至上主義には違いがある

かつて、スティーブ・ジョブズは1998年5月25日号のビジネス・ウィークのインタビューでこう語った。

往々にして、人々は、それを見せられるまで自分が何が欲しいかわからないものだ。

A lot of times, people don't know what they want until you show it to them.

この発言は一部の消費者から批判をされた。ユーザーを愚かな存在と見た上目線の発言だという批判だ。しかし、これには誤解がある。

ユーザーはさまざまなことについて、望むことを持っている。しかし、それを言語化したり、可視化したりすることはできない。そのため、多くの人がすでにあるものを見て「こうじゃない」と言うことはできる。しかし、「こうしてくれ」と具体的な提案をすることは難しい。だから、アップルはユーザーを先回りして、優れた機能を実現し、そしてユーザーに「こうじゃない」あるいは「ずっと前からこれが欲しかった」と言ってもらうことが必要だと言う意味だ。そのため、iPhoneのユーザー体験には失敗も多い。その代わり、ユーザーの心を惹きつけるものも生まれる。そうしてiPhoneは進化をしてきた。

一方、小米のやり方では、ユーザーが「こうしてくれ」と言語化したものに関しては対応ができる。しかし、高級品の本質である「無意識に訴えるユーザー体験」を現実化することは難しい。ここがアップルと小米の大きな差になっている。

 

埋められない歴史と体力の差

また、アップルと小米では、その歴史と体力に埋められない差がある。iPhoneは、その前段階として、音楽プレイヤー「iPod」、「iPod Touch」というプロダクトがあり、ユーザー体験に関してはそこからの積み重ねがある。一方、小米は、携帯電話をつくったことのない、ソフトウェア畑出身の雷軍を中心とした素人集団の挑戦だった。

さらに、iPodは世界的に成功をしたため、アップルはサプライヤーに対して有利な立場を築いた上で、iPhoneの発売に乗り出している。例えば、ディスプレイにはアップルも小米もサムスンの製品を採用している。アップルはMシリーズと呼ばれるディスプレイを採用している。これはアップルとサムスンにのみ供給されるディスプレイだ。一方、小米は同じサムスンでもEシリーズが供給され、これはMシリーズから比べると性能はやや落ちる。それは多くのユーザーが気がつかないレベルの差でしかないが、そこが無意識に訴えかける高級品とそうでない製品の差になってしまう。

 

アップルにかなわないストレス検査の水準

小米10では、ディスプレイのカメラ用ピンホールの横にムラが生じて、ひょうたん穴のように見えるという不具合が生じた。この原因は、ディスプレイの中の有機物発光体が酸化をして黒斑となったものだ。このような不具合は、徐々に進行をするために、出荷前検査では発見しづらい。

そのため、アップルではストレス検査を行なっている。それは俗に8585基準と呼ばれるもので、温度85度、湿度85%の環境に240時間入れてみて、劣化による不具合を検出し、そのような問題を解消するように設計や製造を見直すというものだ。この方法の最大の欠点は、時間とお金がかかるということだ。そのため、他のメーカーではストレス条件を下げたり、時間を短縮せざるを得ない。このため、小さな不具合が出荷後に発覚するということがしばしば起きてしまう。

▲小米は、小米10で、いち早くノッチを排除したピンポール方式を採用した。しかし、そこから水分が侵入してディスプレイが腐食をするという、俗に言う「ひょうたん」バグを発生させてしまった。ストレステストが不足をしていたせいだが、ストレステストには時間とお金がかかる。

 

差があることをわかった上での挑戦

さらに、アップルは自社開発のSoC「Mシリーズ」を開発し、アプリ開発用の言語「Swift」も提供をしている。この点でも、小米は差をつけられている。小米も、独自のSoC「澎湃S1」を2017年に発表したが、S2はなかなか発表されず、結局、小米は画像信号チップやバッテリー管理チップなどの専用チップに転換をしている。体力的に、SoCの自社開発は厳しかったのだと思われる。

この企業としての歴史と体力の違いを言ってみたところで仕方のないことで、小米はそのようなことはわかった上で挑戦をし、iPhoneに追いつこうとしていることは間違いない。しかし、小米はこの差を埋める手段を打ち出せないままにいる。

小米は、小米13の好評ぶりを糧に、ハイエンド市場にくさびを打つことができるだろうか。小米にとって、勝負の時期がきている。