中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

中国主要IT企業が縮小モード。米国との貿易摩擦が影響か

中国主要IT企業で、リストラ、求人縮小が10月から続いている。SNS上の噂レベルのものもあるが、多くの人材企業が「求人が絞られている」と感じていると、新京報が報じた。記事には触れられていないが、米国との貿易摩擦が影を落としていることも大きいようだ。

 

IT業界の求人数は51%減少

中国IT企業のリストラ、求人縮小が続いている。アリババ、京東はリストラを行ったと報道され、さらにファーウェイは、求人を全面停止する旨の内部文書の存在がメディアで報道され、すぐに反応して否定し、世界中で優秀な人材を求めているとコメントする事態になった。

個々の企業のリストラ、求人停止については、誤報SNSでの噂話に過ぎないものもあるが、中国IT企業全体の人員縮小が始まっていることは明らかだ。人材企業の猟聘によると、IT企業の求人数は10月に入って急速に落ち込んだという。さらに、人材企業の智聯招聘によると、2018年第3四半期のIT業界の求人数は、昨年度同時期よりも51%も減少したという。

f:id:tamakino:20181113112730j:plain

▲中国で開催される会社説明会の様子。大量の人材を成長する企業が吸収をしてきた。調整期に入ると、このような人々の行き場が失われる。

 

二次試験に進めるのは100人に1人。狭くなるIT業界への「門」

アリババに毎年、卒業生を送り出している杭州電子科技大学の某教授が新京報の取材に匿名で応えた。「毎年、アリババには30名から40名の卒業生が就職をしますが、今年は10名程度でした」。

一方で、北京理工大学計算機科学系の某教授によると、百度、テンセント、美団、アリペイなどの大手IT企業のエンジニアの求人はさほど減少していないという。

ただし、狭き門になっていることは間違いない。テンセントの一次筆記試験は30万人もの学生が受験をするが、突破して二次試験の面接に進めたのは3000人にすぎなかった。アリババも同様だが、SNS上では「本当に二次試験に進めた人はいるのか?」という書き込みが見られるほど狭き門になっている。

 

頭打ち感とスタートアップの整理期がシンクロした

中国就業研究所の曽湘泉所長は、このような現象には2つの理由があると解説している。これまでIT企業は、モバイルインターネット人口の拡大とともに成長をしてきたが、スマートフォンが行き渡り、頭打ち感が出てきたこと。もうひとつは、膨大な数のスタートアップが創業したが、その多くが退場する生存周期がシンクロをして、ちょうど今年に撤退するベンチャー企業が重なることがあるという。

インターネット人口が頭打ちになることによって、特にソフトウェア、アプリ、ゲームといったビジネスが壁に直面しており、今後は各企業間の競争が熾烈になる。その競争に耐える体力を蓄えるために、人員の数を絞り始めているのではないかという。

 

産業全体が縮小モード、投資資金不足を懸念

北京理工大学企業管理研究センターの張永冀主任は、別の角度から解説している。求人が縮小しているのはIT企業だけでなく、程度はゆるいもののほぼ全産業に及んでいるという。2018年第4四半期の求人数の減少はさらに厳しくなるものと予想され、猟聘の分析によると、2019年の求人数減少がさらに厳しくなる可能性を排除できないという。

そのため、中国企業の多くが株価の低迷に至っている。張永冀主任は言う。「外部資本の株価低迷が、負の空気感を形成してしまいました。上場企業はどこも今までの拡大政策を続けることが妥当なのかどうか、調整政策に舵を切るべきではないかと考え始めています」。

アリババ、テンセント、京東、百度の株価は下がり続けている。香港市場など中国街の市場に上場している美団、シャオミーなどは今のところ安定しているが、株価低迷は免れないだろうと見られている。

 

米国との貿易摩擦の影響も否定できない

記事では触れられていないが、米国との貿易摩擦で、中国の輸出関連企業の業績が悪化しているのは紛れもない事実で、動きの速いIT企業がいち早く不況感を感じ取って、自社を守るために調整政策に舵を切っているというあたりが真相のようだ。

しかし、無謀とも言える拡大政策を進めて、夢のある話題で消費者を惹きつけることが中国IT企業の成長力の源泉になっていた。調整政策をとることで、中国IT企業の魅力が一気に失われてしまう懸念もある。この調整期をどう乗り越えるか。中国IT企業の底力が試されることになる。