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優良企業「京東」のリストラショック。リストラをしない京東の賢い戦略

「京東兄弟の一人たりともリストラしない」と創業者が宣言をしていた京東がリストラを行ったことが波紋を呼んでいる。しかし、京東がなぜリストラをしてこなかったのか、なぜ今回はリストラをしたのか、その背後には京東の賢い戦略があったと東哥解読電商が報じた。

 

卒業という名のリストラを始めた京東

中国テックジャイアントが軒並み大型のリストラを実行している。滴滴、アリババ、テンセントに続いて、EC大手の「京東」(ジンドン)までがリストラを行い、業界はショックを受けている。

なぜなら、京東の創業者、劉強東(リウ・チャンドン)は、2018年に「京東兄弟の誰一人とも永遠にリストラはしない」と宣言をしているからだ。実際、京東は事業の組み替えなどを除き、業績悪化を理由にしたリストラは行ったことがない。その京東までが「卒業」という言葉を使い、リストラを行ったことが波紋を広げている。

▲京東の創業者、劉強東。2018年に公の場で、「私たちは京東兄弟の一人たりともリストラをしない」と宣言をしていた。

 

社区団購部門がリストラの中心

しかし、京東でリストラが行われたのは本体ではなく、京喜(ジンシー)事業グループだ。このグループの従業員は4000人前後で、400人から600人規模のリストラが行われる予定だ。

京喜事業部の事業内容は、拼多多に対抗する共同購入サービス「京喜」、社区団購「京喜拼拼」、短距離宅配サービス「京喜達快逓」、店舗向けEC「新通路」の4つだ。いずれも地方都市や農村の下沈市場を対象にしたビジネスを展開している。

この中で、リストラは社区団購である「京喜拼拼」に集中をしている。

 

総崩れとなった社区団購ビジネス

2021年は、京東だけでなく、社区団購が総崩れとなった。社区団購は生鮮食料品などを前日までにスマートフォンなどで注文をしておき、翌日、拠点に受け取りにいくというサービス。前日に注文が確定をするため、配送に無駄が出ない。通常は、生産地からいったん卸業者に入れ、需要を見て、卸業者が調整を行い再配送をする。それでも、過不足は生じ、あるスーパーでは欠品が起きたり、あるスーパーでは食品ロスが生まれたりしてしまう。

社区団購では、購入量が事前に確定をするため、卸業者による調整は不要で、生産地から直接配送することができる。卸業者が不要、食品ロスが出ないため、販売価格は大幅に安くすることができ、そこが社区団購の魅力になっていた。さらに、テック企業が参入したことにより、低価格キャンペーンによる競争も行われた。

このような社区団購に2021年は規制が入るようになった。社区団購が卸業者を不要とするのはいいとしても、卸業者の経営が成り立たなくなると、通常の生鮮食料品物流も成り立たなくなる。また、実質的な販売価格も不当廉売に近いもので、ここに調整が入り、極端な割引などが規制をされるようになった。

ところが、社区団購が常識的な販売価格になってみると、多くの消費者が価値を感じなくなってしまった。スーパーで買えばいいし、生鮮ECなどで注文をすれば宅配もしてくれる。これにより、滴滴の「橙心優選」は店舗向けECに業態転換をし、アリババが投資をした「十薈団」は倒産をし、「美団優選」「多多買菜」は大幅縮小をしている。

 

アリババと京東はビジネスよりも新規顧客の獲得をねらった

2021年6月の規制が始まる直前の段階で、美団優選と多多買菜が1日の注文量2500万件前後でトップグループを形成していた。橙心優選、興盛優選、十薈団が1000万件程度で第2グループ。アリババ直営の「盒馬集市」が300万件程度、「京喜拼拼」が200万件程度。アリババと京東は、この社区団購ビジネスに深入りをしていなかった。

では、両社は何を目的に社区団購ビジネスに参入をしたのか。売上ではなく、利用者数の拡大だ。アリババ、京東ともにECビジネスは都市部で浸透をし、利用者数が頭打ちになっているため、地方都市と農村の下沈市場への浸透を図っている。

特に京東は、京喜拼拼を京東のアカウントと共通化し、京喜拼拼の利用も京東のアプリ、ミニプログラム内の一コーナーという位置付けにした。2019年から京喜事業を始め、京東全体の利用者数を30%伸ばすことに成功した。新たに増えた京東の利用者の80%は、下沈市場の消費者になっている。2021年Q4の段階でも、四半期で1800万人の新規会員を獲得しているが、そのうちの70%は下沈市場からのものだという。

つまり、京喜は、ビジネスそのものがねらいではなく、新規顧客を獲得するための仕掛けだったのだ。京東の場合は、想定した下沈市場の消費者を獲得し、政府による規制も始まったため、ビジネスを縮小させると判断したものだと見られている。

▲京喜は、地方や農村の消費者向けのサービスだが、京東ミニプログラムの一コーナーという位置付け。低価格商品で新規顧客を獲得し、京東全体の利用者数を増加させることがねらいだった。

 

従業員数と営業収入がきれいに比例をする京東

京東のリストラは各方面にショックを与えているが、京東のリストラがこれ以上広がる可能性は少ないと見られている。

なぜなら、京東は小売店をそのままオンライン化したECであり、自社で商品を仕入れ、自社で販売をし、自社で配達をする。これには巨大な倉庫、物流網、配送網が必要になる。大量の人手を必要とするビジネスで、従業員数も多いが、従業員数が増えると営業収入も増えるというきれいな比例関係にある。鶏とたまごの関係にあり、従業員を増やせば業績があがるというわけではないが、本体の大規模リストラをすれば業績が悪化することは確実で、悪いスパイラルに入ってしまうことになる。

2022年通年は、社会全体の景気悪化の影響で、京東の成長も停滞するのではないかと見られている。2018年から2021年までは、毎年20%台後半の成長をしてきたが、2022年は20%を割り込み、15%から20%程度の成長にとどまると見られている。しかし、緩慢にはなるものの成長はする。つまり、京東は例年ほどではないにしても、今年も新たな従業員を必要としている。

京東の本体が大型リストラをすることは考えづらく、もしそんなことが起きるとしたら、それは京東のビジネスが縮小をする時だ。

▲京東の営業収入と従業員数の関係は、きれいな比例関係にある。リストラをしてコストダウンをすることは営業収入の減少につながり、悪いスパイラルに入ってしまうことから、京東はこれ以上のリストラはしないと見られている。