中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

リストラ効果で早くも高収益達成の中国テック企業。リストラは高度人材を獲得できるチャンス

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今回は、中国テック企業のリストラについてご紹介します。

 

2023年も残りがあと1/3となり、2023年前半のさまざまな統計情報が公表されるようになってきています。その中で、多くの人が驚いたのが、大手テック企業の業績です。営業収入は以前と大きくは変わらないものの、各社とも純利益が大幅に伸びています。

▲2023年上半期、テック企業純利益ランキング。アリババと京東は驚異的に純利益を伸ばした。

 

2022年上半期は、新型コロナ感染の再拡大などで利益が大幅に減少したこともありますが、各社とも大幅に純利益を伸ばしました。アリババに至っては、前年比2733.38%増、京東(ジンドン)は2468.1%増という常識外の数字になっています。その他の企業も50%以上の伸び率で、美団(メイトワン)、微博(ウェイボー)、快手(クワイショウ)は赤字から黒字に転換をしました。ここ数年厳しい状況に陥っているビリビリも赤字幅を半分程度に圧縮しています。テック企業には明るい兆しが見えてきました。

 

この一覧は上場企業のものであるため、未上場のバイトダンス、ファーウェイの業績は公開データがありません。しかし、各社報道によりほぼ明らかにされています。それによると、バイトダンスの2023年上半期の純利益は150億元前後で、昨年同時期から67%増となり、ファーウェイの純利益は456.23億元で318.1%増となっています。

2021年頃から進めている各社のリストラの成果が出て、営業収入が増えなくてもコストが下がり、利益が生まれる体質になってきました。

 

では、主要テック企業はどのくらいのリストラを行なったのでしょうか。アリババは、2022年3月末時点で25万4941人の従業員がいましたが、2023年3月末時点では23万5216人に減っています。差引き1万9725人が減っています。

▲アリババの従業員数。2023年3月時点で、1年前より2万人近く減っている。

 

アリババは約2万人規模、従業員全体の7.7%のリストラとなりました。

しかし、実際のリストラ対象者はもっと多いはずです。なぜなら、この間にも数は少なくても採用を行っているからです。

 

百度バイドゥ)のリストラぶりを見てみましょう。

百度の従業員数。2022年は、ロボタクシー事業に必要なオペレーション部門を除き、すべての部門で従業員数が減っている。

 

2021年には4.55万人だったものが、2022年には4.13万人となり4000人規模、従業員全体の9.2%のリストラとなりました。部門別に見ると、Operation and Serviceのみ5100人から5600人に増員されています。ロボタクシーが正式営業を始め、拡大をする関係から、この部門には増員が必要だったことが伺われます。その他の部門は全面的に縮小しています。

 

しかし、中国のテック企業のリストラの仕方は、「各部門から○○%の人員を削減」という形は取りません。事業の売却、中止、さらにはプロジェクトの中止を考え、まず事業の形をリストラします。当然ながら、そこで成長戦略の組み直しが行われます。そして、中止になった事業、プロジェクトに従事する人がまるまる解雇されるというのが一般的です。もちろん、全員解雇ではなく、面接をして当人のスキルと既存事業のマッチングを考え、再雇用(異動)されることもあります。

打ち切られた事業、プロジェクトのチームが全員解雇というのは厳しいようにも見えますが、その方が従業員にとっても活路が見出しやすくなります。最も多いのは、投資家を見つけて、チームがそのままスタートアップ企業として生まれ変わるケースです。事業内容によっては、元の企業が投資をすることすらあります。もうひとつのパターンは、チームごと他企業に移籍をするケースです。元企業との保秘契約などの交渉がやっかいですが、元企業が完全にその事業を放棄するのであれば可能性はあります。

チームがばらばらになって、他の部署に異動となり、吸収をしてしまうというやり方が取られることもありますが、従業員は自分にとっては慣れてもなく、好きでもない仕事に従事をしなければならなくなり、パフォーマンスがあがらず、結局は転職を考えることになります。ばっさり解雇というやり方は、冷たいようでありながら、実はメリットも多いのです。

 

次は、EC「京東」(ジンドン)のリストラを見てみます。京東は、創業者の劉強東(リュウ・チャンドン)が親分肌の人情の厚い人で、かつて京東が経営危機に陥った時も「京東兄弟の一人もリストラしない」と言って乗り切ったことがあります。

▲京東の従業員数。全従業員数は増えているが、当日配送エリアを拡大するために配達スタッフが大幅増員されたから。その他の部門は削減されている。

 

人数だけを見ると増えていて、今回もリストラなどなかったように見えます。しかし、それは、Delivery(配達)の人数が22万人から30万人に増えているためです。京東は、自社仕入れ、自社販売、自社配達のECですから、従業員数の半分以上が配達スタッフです。当日配達のエリアを増やすために大幅増員を行ったため、全体の従業員数も大きく増えています。

しかし、Procurement(調達)、Warehouse(倉庫)、Research and Development(研究開発)の分野では、自動化を進めたりプロジェクトを整理することで大幅なリストラを行いました。

▲京東のリストラされた3つの部門の従業員数。調達、倉庫、研究開発の従業員が削減された。

 

中国テック企業のリストラは、人のリストラではなく事業のリストラです。不採算である事業、将来性のない事業、企業戦略に合わない事業を放棄し、そこに従事していた従業員を解雇するという形です。

ですので、人件費が節約できたから利益が増えたというよりは、不採算な事業、投資段階になっている事業を整理することにより、そこにつぎ込んでいたコストが不要になるため利益が出てきたということになります。そのため、リストラがすぐに業績にいい影響を与えたわけです。

 

このような大手テック企業のリストラは、業界や社会にとっても、好ましい影響を与えます。人材の流動性が高まるからです。大手テック企業がリストラを行うということは、優秀な人材が大量放出されるということで、中堅企業やスタートアップ企業にとっては人材獲得の大きなチャンスになります。

実際、景気低迷により大手テック企業が採用を絞り込むようになり、そこにコロナ禍がやってきて、人材関連企業は経営が非常に苦しくなっていました。それが今は完全に息を吹き返しています。中堅企業が積極的に人材獲得に動いているからです。

 

そこで、今回は、中国のテック業界でどのような人材移動が起きているかをご紹介します。

 

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