中華IT最新事情

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人工知能が電話をかける。宅配業務は大きく効率化

中国の宅配便配達員は、荷物を届ける前に、届け先に電話をして、在宅かどうか、宅配ボックスに入れるかどうかなどを確認する習慣がある。しかし、この電話をかける作業は大きな負担になる。そこで菜鳥科技は、AI会話アシスタントを開発し、宅配便配達員の電話業務を肩代わりすることにした。精度は高く、これが人間だと思い込んでいる人も多いと天下網商が報じた。

 

宅配便からかかってくる電話の主は人工知能

朝8時すぎ、杭州に住んでいる邸晨さんは、寧波からの電話を受けた。女性の声で「おはようございます。私は菜鳥のAI会話アシスタントです。宅配荷物がございます。簡単受け取りをご利用になりますか?」というものだった。邸晨さんは「はい。マンションのフロントに預けてくれればいいです」と答えた。

ECサイトでの買い物好きの邸晨さんは、このような電話を何回も受けて、いつもマンションのフロントに荷物を預けてもらっていた。自分で受け取ってサインをする必要もなく、不在でも受け取ることができて便利に感じていた。しかし、その電話の女性がAIロボットであることには気がついていなかったという。

この電話は、アリババ傘下の菜鳥科技(ツァイニャオ)が開発したAI会話アシスタントで、今年の独身の日セールから、中通や円通、申通、韵達、天天などの宅配便企業で採用された。配達員がこれから届ける顧客に、AIアシスタントによる電話がされ、その結果が配達員にフィードバックされる。今まで、配達員が自分で電話をしていたのと比べて業務効率はまったく変わる。

 

配達員は1日3時間電話に時間を費やす

宅配便企業「中通」の配達員、季周浩さんはその日193個の荷物を宅配する。荷物につけられたQRコードを読み取りながら、自分の三輪車に配達地域ごとに整理をしながら積み込んでいく。中通の業務アプリには、すでにAI会話アシスタントが電話で確認をした、直接配達、宅配ボックス、フロント預けなどの情報が表示されている。

季周浩さんはこの仕事を始めて2年ほどで、毎日約200個の荷物を配達している。以前は、配送先のマンションや建物の入り口で、いちいち配達先に電話を入れなければならなかった。部屋まで上がっていってから不在であるとか、在宅であっても宅配ボックスやフロントに預けてほしいという要望があるからだ。また、最近は事前に電話連絡をすると、ドアの前に置きっぱなしでいいということも増えてきた。電話記録が受け取りサインの代わりになる。

「1回の電話に1分かかるとすると、毎日3時間以上電話をしていることになります。仕事終わりには声が枯れて声が出なくなることもありました」と言う。

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▲配達員の業務アプリの中には、その日配達すべき荷物の一覧が表示される。AI会話アシスタントを導入すると、電話確認の結果、どこに届けるべきかも表示されるようになった。

 

電話にまつわる不在、方言の問題

1ヶ月ほど前、中通は菜鳥のAI会話アシスタントを導入し、業務アプリの中から利用できるようになった。中通は30人ほどの配達員を選んで、試験導入をすることから始めた。季周浩はその30人のうちの一人に選ばれたのだ。

朝、荷物のQRコードを読み取って、三輪車に積み込む時に、裏ではAI会話アシスタントが配達先に電話をかけている。どこに届ければいいのか、その情報は業務アプリに表示される。「電話確認は簡単ではありません。相手が出なければ、時間をおいて何度もかけてみなければなりません。さらに方言の問題もあります。向こうの言うことがよくわからない、こちらの言うことがうまく伝わらないということから電話が長引いたり、行き違いが起きることもありました」。

AI会話アシスタントは、話すのは標準語のみだが、中国各地の方言を聞いて理解することができる。電話の問題は解消され、配達員は自分で電話する必要がなくなり、季周浩さんの仕事の効率は大きく改善された。

 

人間のように会話のキャッチボールができるAI

このAI会話アシスタントは、人工音声で一方的に内容を伝えるだけでなく、先方の人間が話す言葉を理解し、それに見合った言葉を返す。つまり、会話が成立する。季周浩さんは「まったく人間みたいです」と言い、顧客の中には邸晨さんのように人間だと思い込んでいる人も多い。電話の声の女性が配達にくるのだと勘違いして、部屋まで届けてもらうことにした独身の男性が、季周浩さんが届けにきてがっかりするということもあったそうだ。


【智能物流】「菜鳥語音助手」首度登場!

▲菜鳥のAI会話アシスタントは、人間と対話ができる。菜鳥がデモを公開している。このデモは初期のもので、現在はこれよりも洗練されている。以下、対話の内容。

「こんにちは、私は菜鳥会話アシスタントです。あなたに午前中に…」

「(被せるように)こんにちは」

「こんにちは。あなたに午前中に文一西路588号にお届けする中通の宅配便がございます。お受け取りできますか?」

「どちらさま?」

「私は菜鳥会話アシスタントです。宅配配達員に代わってお電話をして、確認をさせていただいています。あなたに午前中に文一西路588号にお届けする中通の宅配便がございます。お受け取りできますか?」。

「午前中は外出しています」

「では、どちらにお届けしましょうか?配送員にお伝えします」

「何の荷物?」

「配送伝票によると、書類となっております。どちらにお届けしましょうか?配送員にお伝えします」

「じゃあ、家のドアの前に置いてくれればいいです」

「ドアの前にお届けでよろしいですか?(返事がない)いらっしゃいますか?ドアの前にお届けでよろしいですか?」

「それでいいです」

「わかりました。ご要望を配送員に伝えます。よろしくお受け取りください。お答え…」

「(被せるように)あ、そうだ。中通の宅配荷物がもうひとつあると思うんだけど、今日届けられますかね?」

「しばらくお待ちください。あなた様宛の宅配荷物がもうひとつございました。お届けは明日になっています」

「明日は出張だからいないな。菜鳥の公共宅配ボックスに入れてもらえる?」

「承知しました。お宅の北門にある菜鳥公共宅配ボックスにお届けでよろしいですか?」

「はい」

「わかりました。よろしくお受け取りください。お答えいただきありがとうございました」

「ありがとう。では」

「失礼いたします」

 

AI会話アシスタントの美人先生

菜鳥AI会話アシスタントは、話すことと聞くことが同時にできるデザインになっている。アシスタントが話している間に相手がかぶせて話すということはよくある。それをまったく問題にしない。これが利用者に人間らしさを感じさせている。また、話すのは標準語のみだが、聞く方は方言も理解ができる。

このAI会話アシスタントには美人教師がいる。菜鳥の方美婷(ファン・メイティン)だ。菜鳥に入社して4年目の彼女は、入社時からこのAI会話アシスタントの開発に携わっていた。目標は、人間のように自然な会話ができるAIで、人間から人間だと思われることを目標としてきた。

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▲AI会話アシスタントの開発した「美人先生」方美婷さん。4年がかりで開発をし、人間と間違えられるレベルまで育ててきた。

 

ニーハオの後の1秒の空白が人間らしさを感じる

それには、音声の抑揚、速度なども重要だが、それ以外にも人間心理に関する試行錯誤が必要だったという。例えば、「ニーハオ、こちらは菜鳥AI会話アシスタントです」と一気に言ってしまうと、電話を切られてしまう確率が高くなる。合成音声だということに気づかれて、セールスかなんかだと思われ、電話を切られてしまうのだ。

試行錯誤の結果、「ニーハオ」の後に、1秒ほどの空白時間を置いて、それから「こちらは…」と続けることが電話を切られる確率が最小になることを突き止めた。こちらの「ニーハオ」の後に、人間は自然に「ニーハオ」と反復する。そこに被せるように「こちらは…」と人間なら絶対にしない。被せるように話してしまうことは、人間らしくない行為なのだ。1秒の間をおくことで、この「人間らしくない」印象を払拭することができる。

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▲アクセントや抑揚だけでなく、現場の声を会話アシスタントに活かす努力を重ねてきた。今年の独身の日セール期間中には毎日100万通以上の電話を人工知能が肩代わりする予定だ。

 

独身の日には人工知能が毎日100万通の電話をかける

菜鳥AI会話アシスタントの試験導入が始まってほぼ半年。85%以上の相手がアシスタントに回答をしてくれ、正確に相手の要望を聞きとれた正解率は95%から97%だという。15%の相手は、電話にでないか、電話に出ても途中で切ってしまったことになる。

この回答率を上げるために、様々な工夫をしている。「こちらの電話番号の問題も改善する予定です。多くの人は、見知らぬ電話番号や、ましてや他都市からの電話番号であると、そもそもでない人がいるのです。そのため、各地域の電話番号を取得し、どの顧客に対しても省内から電話をするようにする予定です」。

ただし、将来は、菜鳥AI会話アシスタントが世間から認知され、ひとつの番号から全国の人に電話をするというのが理想だという。

今年の独身の日セールから、5つの宅配便企業で、菜鳥AI会話アシスタントが導入、試験運用される。このセール期間、菜鳥AI会話アシスタントは毎日少なくても100万通の電話をすることになるという。菜鳥AI会話アシスタントの女性の声は、中国で最も有名な「声」になるかもしれない。