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女子大生が家族と一緒に宅配ステーションを起業。コロナ禍で変わる起業のあり方

コロナ禍で、多くの人が休業状態となり困窮をしている。その中で、宅配便需要が急増した菜鳥では、3万カ所の宅配ステーション新設計画を進めている。急増する宅配便需要に応えるとともに、困窮者の支援も目的になっている。家族で起業する例が多く、家族で一緒に働ける喜びを与えることにもなっていると中国新聞網が報じた。

 

コロナ禍で生まれた数々の民民の助け合い

新型コロナウイルスの感染拡大による商店の休業でも、中国では政府からの休業補償などは特にない。みな、自分でどうにかしなければならないというのが原則だ。

しかし、政府からの補償はなくても、民民での助け合いはさまざま行われている。多くの金融機関は、オンライン申請による低利子融資を行っている。その多くの審査が人手ではなく、人工知能による自動判断または補助により、瞬時に貸付が実行される。

また、感染拡大期に需要が高くなる企業もあった。生鮮食料品を宅配する新小売スーパー、生鮮EC、飲食品を宅配する外売(フードデリバリー)、宅配便などだ。このような企業では、猛烈な人手不足ということもあり、大規模な人材募集を行い、失業者の吸収に役立っている。

また、アリババの新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)が始めたシェアリング従業員も多くの業界に広まった。これは、休業をして従業員が自宅待機になっている飲食チェーンなどから、従業員を借りてスーパーで働いてもらうというものだ。レンタル期間中の給料は、フーマフレッシュが支払うため、レンタル元の飲食チェーンはその間の給与負担がなくなるため、事業を継続させることが可能になる。従業員にとっては、給料が減額されて自宅待機をするよりも、フーマで働いて満額の給料をもらった方が生活の不安は少なくなる。

この仕組みは好評で、終息後も季節性の高い業種をうまくマッチングさせて、従業員をレンタルし合う仕組みが生まれようとしている。

このような民民によるさまざまな工夫が生まれた。

 

コロナ禍の最中に起業をした女子大生

その中で、四川省成都市の大学3年生が、感染拡大期に起業をして話題になっている。ECビジネスを専攻する大学3年生、馬海燕さんは、アリババ系の宅配企業「菜鳥」(ツァイニャオ)の宅配ステーションを開業した。

大学は休校となり、講義はすべてオンラインになっている。両親は農業を営んでいるが、毎年春節休み明けから山西省に出稼ぎに行っていた。馬海燕さんの学費を稼ぐためだ。しかし、それが今年は新型コロナウイルスの影響でいくことができない。

学費をどうやって稼ぐかという問題があるが、外に働きにいくことはできず、自宅にいるしかない。そこで、自宅で業務ができる宅配ステーションを開業することにした。

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▲宅配ステーションを起業した大学3年生の馬海燕さん。送られてきた荷物を地域に配送し、地域からの荷物を発送するのが仕事。大学が休校になっているためオンライン講義の空き時間に働いている。

 

菜鳥が進めた困窮者支援策

宅配便の需要が急増した菜鳥では、100都市で3万カ所の宅配ステーションを開業する計画を進めていた。急増する宅配便需要に応えるためと、失業して生活に困っている人のための支援の両方を狙っている。

3月だけで40万人の応募があり、7000店の宅配ステーションが新設された。馬海燕さんは、この計画に応募をして、宅配ステーションを開業した。

海燕さんは自宅でオンライン講義を受け、終わるとすぐにステーションで働く。両親は朝からステーションで働く。学費と生活費を稼ぐことができる。しかも、親子3人が一緒にすごす春節明けは、20年ぶりのことであるという。

 

初月から黒字化を達成できた

現在、大学は再開をし、学校での講義も増えてきた。馬海燕さんは、空き時間ができると、大学からステーションまで行き、仕事をする。この間は、公共交通がまだじゅうぶんに利用できないため、徒歩になり、馬海燕さんは1日少なくても2万歩以上は歩いているという。

3月中旬に開業をし、最初の月から毎日300件の荷物を扱うことになった。300件というのはステーションの最低採算ラインで、最初の月から黒字化が達成できた。この分でいくと、数ヶ月で大学の学費も稼げる見込みだという。

現在は、評判を聞きつけて、馬海燕さんの同級生や知り合いが訪ねてきて、開業の仕方やノウハウを聞きにくるようになった。

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▲扱う荷物は月300件で、最低採算ラインに乗った。両親も一緒に働いているので、給与としては決して高いものではないが、家族が同じ家に住み、同じ職場で働ける家族起業に幸福を感じているという。

 

家族が一緒に暮らせる幸福をも提供した家族起業

この菜鳥の計画に応募をしてきているのは大学生だけはない。大学の教授も講義がなくなって応募をしてきている。さらに元工場勤務だった人、エンジニア、さまざまな職業の人がいる。

このような人々が、自宅または自宅近くにスペースがあれば、宅配ステーションを開業することができる。大学や企業が再開をしても、家族総出で業務をこなすことで運営をしていく。

何よりも、家族がひとつの家で暮らすことがまれになっている中国で、家族が同じ家に住み、同じ仕事ができる幸せを感じている人が多いという。一方で、菜鳥は宅配ネットワークを拡充することができる。

この家族経営の宅配ステーションも、新型コロナウイルスの感染拡大により生まれ、終息後も定着することになりそうだ。