中国版TikTok「抖音」のライブコマースが販売業者に対して、宅配企業「菜鳥」の利用を禁止した。抖音のライブコマースでは、プライバシー保護のため電子送状を採用したが、菜鳥も独自の電子送状システムを導入しているため、衝突してしまうからだ。しかし、その裏では、顧客の個人情報を誰が保持するかという争いがあると電商報が報じた。
TikTokライブコマースが配送業者から菜鳥を排除
中国版TikTok「抖音」(ドウイン)のライブコマースが急成長をしている。2020年の流通総額は5000億元(約8.5兆円)を超えている。その抖音ライブコマースが、参加する販売業者に対して、アリババ傘下の宅配企業「菜鳥」(ツァイニャオ)などを配送業社として利用しないように通達を出した。
アリババは、淘宝網(タオバオ)、天猫(Tmall)などのECを運営しており、抖音ライブコマースとはライバル関係になる。しかし、この決定は、ビジネス的な理由ではなく、消費者のプライバシー保護の問題だ。
宅配便送状を電子化、プライバシー保護
抖音では、宅配便の送り状をすべて電子化をした。購入者の氏名や送り先などの情報は、すべて抖音が保持をし、宅配業社には渡さない。では、どうやって宅配業者は、送り先の住所や氏名を知ればいいのだろうか。電子送り状に印刷されているバーコードを読み込むと、抖音が保持をしている住所氏名が表示される。誰がいつどこで情報を閲覧したかも記録されるため、宅配便の配達スタッフが、職務上知り得た個人情報を悪用しづらくなり、万が一悪用されても、閲覧履歴を遡って、問題を明らかにすることができる。
また、配達スタッフは、受取人に電話をする必要があるケースもあるが、この場合も、電子り送状のバーコードや二次元コードを読み込むと、中継されて受取人に電話がかけられる。配達スタッフは電話番号を知ることができない仕組みになっている。
データの保有をめぐる争い
もちろん、これは、消費者のプライバシー保護の観点もあるが、抖音を運営するバイトダンスが購入者のビッグデータを収集したいという目的もある。どの地域の誰が何を買ったかというデータを収集し、それを機械学習などを使って解析することで、次のビジネス展開に利用しようというものだ。
しかし、アリババ傘下の菜鳥も同じことを考え、いち早く、送り状の電子化を進めていた。EC企業から送り先情報を取得し、それを自社でビッグデータ解析をしようというものだ。
つまり、バイトダンスと菜鳥の間で、どちらが購入者情報を保持するかで衝突が起きている。そこで、抖音は、配送に菜鳥を使わないようにする通達を各販売業社に行った。
一方、2019年に菜鳥は、自社の電子送り状のシステムを1件0.01元で使用できるサービスを各中小宅配企業に提供を始め、自社を中心にした宅配ネットワークの構築と、広範な個人情報の取得を図ろうとしている。
同年には、ソーシャルEC「拼多多」(ピンドードー)も同じ観点で送り状を電子化し、菜鳥を使用禁止にしている。抖音は、順豊、中国郵政、京東、三通一達などの宅配企業、拼多多は、中通、申通、園通、韻達、百世などの宅配企業と提携を結び、配送業社に顧客の個人情報を渡さない契約になっている。
個人情報を誰が保持するかでの綱引きが始まっている
2020年の抖音ライブコマースのGMVは5000億元だが、抖音専属の抖音小店と呼ばれる販売業社が売ったものは1000億元+にしかすぎず、残りの3000億元+は、京東やタオバオの販売業社が抖音ライブコマースを通じて販売したものだ。この分に関しては、バイトダンスは抖音アカウント以外の個人情報は知ることができない。つまり、ビッグデータ解析ができない状態になっていた。そこで、電子送り状を導入することで、すべての個人情報をバイトダンスが把握をし、解析をおこないたいというのが出発点になっている。
今後、EC企業と宅配企業の間で、顧客個人情報を誰が保持するのか、その争奪戦が進むことになる。