中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

無人コンビニは早すぎただけ。テック導入を進める中国ローソン

中国のコンビニの閉店が増えている。あれだけ話題になった無人コンビニは現在ほとんど話題に登らない。さらに、ECサイト「京東」が鳴り物入りで全国展開したIT技術を駆使したコンビニ「京東便利店」も撤退モードに入り、国内系の「隣家便利店」も店舗を整理、「131便利店」も資金ショートにより営業が滞っているなど、冬の時代を迎えている。億欧網は、中国ローソンの張晟(ジャン・シェン)取締役会会長に、コンビニ業界の今を聞いた。

 

コンビニの成長期は2020年から

張晟会長は、コンビニの閉店が続いているが、業界全体が冬の時代というわけではないと言う。この2年ほど、コンビニ業界の将来性を見越して、大きな投資資金が流れ込み、開店ラッシュが続いた。しかし、コンビニというのは客単価が低く、利益が上がるようになるまでは時間がかかる。このタイムラグを見越せなかったチェーンが息切れをしているだけで、冬の時代ではなく、調整期だと見ているという。

各国のコンビニ発展統計からは、1人あたりのGDPが5000ドルになるとコンビニが登場し、1万ドルを超えるとコンビニの成長期に入る。中国の現在の1人あたりのGDPは7500ドル程度で、過去の統計からはまだ成長期に達していない。

中国財政部は2020年に1人あたりのGDPが1万ドルに達するという予測を出しているので、2020年からコンビニは成長期に入ると見ている。つまり、2020年までにいかに生き延びて、地位を確保しておくかが重要なのだ。

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▲中国ローソン、張晟取締役会会長。地域性を活かす、ネットのIPとコラボ、テック導入など、他のコンビニチェーンとは違った戦略で、ローソンを成長させている。

 

地域に特化した戦略で成長するローソン

中国市場にローソンが参入して22年になる。しかし、ローソンが成長を始めたのは、この2、3年だ。「ローソンは中国で多くの勉強代を支払いましたが、今ではローソンなりの道を見つけることができています。過去の学費が必要だったということが証明できました」。

ローソンは、武漢合肥では単独店形式の運営をしているが、都市部の多い江蘇、上海、浙江地区では、フランチャイズと直営店の方式を採用している。特に上海ではフランチャイズ方式が多く67%を占めている。各店のSKU(商品種類、同じ商品でも内容量が異なると別に数える。最小管理単位)は、2500から3000程度(日本ではコンビニで3000、スーパーで1万、総合スーパーで10万、百貨店で100万が目安)。このうちの35-40%がプライベートブランドだ。1年で25%の商品が入れ替えになる。1店舗当たりのスタッフが6人が標準で、単位面積当たりの年間売り上げはコンビニとしては標準的な2.6万元/平米(約42万円)になっている。

張晟会長は、コンビニはその地区へのローカライズが重要だと考えている。そのため、直営店が多すぎると、どうしても全国の店舗が均質化してしまいがちなので、その地区の事情を知っているオーナーに運営してもらうフランチャイズ方式が中国には適しているという。

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▲中国は各都市で売れるものが違い、好みも異なる。そのため、フランチャイズ方式を主体にして、地域特性が活かせる体制づくりをしている。

 

インフルエンサー、IPを活用するローソン

例えば、ローソンの成長の鍵はスイーツだった。中国人にはお菓子を人におすそ分けする習慣がある。また、好まれるお菓子は地区によって異なっている。ローソンでは、どのスイーツを販売するかはその地区、店舗に任せるが、スイーツを重点的に販売していく施策をとっていった。これはローソンにロングテールの利益をもたらしているとともに、新たな都市に参入するときの大きな武器になっている。

昨年、南京市に新規参入するときは、「インフルエンサーが勧めるスイーツ」を武器に新規開店をし、開店日に11.8万元(約190万円)を売り上げるという成功を得た。

また、若者に人気の動画共有サイト「ビリビリ」など、キャラクターとのコラボ企画も人気となっている。

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動画共有サイト「ビリビリ」とのコラボキャンペーン。ローソンはこのような若者文化、人気キャラクターとのコラボキャンペーンを多く行っている。

セルフ決済、ECへの対応

コンビニが最も恐れる強敵は、アリババの新小売だ。アリババの新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)では、3km圏内に無料30分配送をし、店舗売上の60%がすでに宅配になっている。

「私はローソンが旧小売だとは思っていません。小売の本質は何も変わっていないからです。新小売は最先端テクノロジーを積極的に取り入れていますが、それは旧小売も同じです。将来、新旧の区別はなくなるでしょう」。

昨年8月、ローソンは火星兔子と提携して、セルフ決済システムを導入した。今年3月には、京東と提携してECサイト「京東」にオンライン店舗を出店するなど、IT技術の導入を進めている。

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▲昨年、南京市の開店日には、ネットのインフルエンサーを活用してスイーツの告知を行ったところ、1日で190万円を売り上げるという大盛況になった。

 

セルフ決済利用率はすでに40%

現在、セルフ決済導入店舗でのセルフ決済利用率はすでに40%に達している。しかし、セルフ決済を使う習慣が定着しているとはまだ言えない。ピーク時に行列ができている時に使われているのが現状だと言う。今後も、セルフ決済、セルフレジを導入していき、有人レジよりも無人決済を使うことが当たり前になるようにしていきたいという。

ローソンは無人コンビニ化をしていくのか。無人コンビニは顧客体験が悪く、すでに市場からの撤退が進んでいる。「無人コンビニは早産だったのです。消費者の要求を満足させるテクノロジーが登場すれば、無人コンビニは決して悪くありません。現在は、まだ無人コンビニに関するテクノロジーが成熟していないだけです。私たちが競争しているのは、誰がいちばん速く変化できるかです。誰がいちばん速く消費者に合うように変化できるかです。それこそが生き残るための鍵なのです」。

中国のローソンは、現在16都市に1500店舗を展開している。日本のローソンが1万2000店舗を超えていることを考えると、出店密度はまだまだ低い。中国のローソンの成長はこれからであり、その鍵になるのがネットとのコラボになるのかもしれない。

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▲火星兔子のセルフ決済システム。専用アプリで、商品のバーコードを読み込み、自分のスマホから決済をする。レジで決済完了の画面をスタッフに見せ、商品をレジ袋に詰めてもらう方式。ピーク時には、セルフ決済専用レジを作ってくれるので、飲み物を1本だけ買いたい時などには、非常に便利なシステム。