中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

所得は増え、物価もあがり、消費も増えている。それでもデフレだと言われる中国経済の謎。鍵は、口紅効果と消費のドーナツ化

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今回は、中国のデフレ問題についてご紹介します。

 

北京を中心にした華北地区の「鼎泰豊」(ディンタイフォン)14店舗が閉店をすることになりました。鼎泰豊は台湾台北市に本店がある小籠包の名店です。皮が非常に薄く、美味しさは折り紙つきですが、この薄さでありながら破れない皮をつくる技術が簡単には真似ができないため、小籠包の名店であり続けています。

台北の本店は値段も手頃で、いつ行っても整理券をもらって近所で時間をつぶさなければ入れませんが、中国の華北地区ではやや高めの価格設定で、高級とまではいかないものの、落ち着いて食事ができるレストランでした。小籠包以外の料理もレベルが高く、客単価は150元ほどです。

撤退の理由は、営業免許の更新時期にあたり、更新をしないことに決定したというものですが、業績が悪かったことは間違いありません。なお、華南地区の17店舗は営業を続けます。また、台湾の鼎泰豊には何の影響もありません。

中国の消費マインドの冷え込み方は深刻で、飲食店は客単価の高いところから閉店をしていっています。ミシュランの星を取り、客単価500元以上の飲食店はほぼ壊滅状態で、そのドミノ倒しの波が客単価150元の鼎泰豊にも波及をしてきたということになります。

 

日用品も高いものから売れなくなっています。高級ショッピングモールが軒並み不調です。2020年に英国のハロッズを抜いて世界一の百貨店となった「北京SKP」の2023年の売上高は265億元となり、前年から10.8%増と好調ですが、ここは庶民が行くところではなく、本当の高級モールで特別な存在です。北京の富裕層が買い物をするだけでなく、アジア圏の富裕層が買い物にくる場所です。ラグジュアリーブランドと協力をして、新作のバッグや衣類を、世界に先駆けて北京SKPでいち早く販売を始めるからです。しかし、同系列の西安成都のSKPは減収になるなど苦戦をしています。

私のような一般の庶民にも手の届く高級モールと言えば「太古里」(タイグーリ)です。日本で言えば、郊外アウトレットモールに並ぶような感覚の店が入居し、「ちょっといいものを手に入れたい」時に行く場所です。この太古里が苦しんでいます。

各地の太古里を運営する「太古」の財務報告書を見ると、手がつけられないほどひどい状態です。

▲太古が運営する各地モールの2024年H1の売上高前年比。悲惨と呼ぶ以外ない状況。太古半期報告書より作成。

 

このような庶民でも手が出せる高級領域の商品やサービスが動かなくなるというのは、不況なのですからわかります。しかし、庶民の味方であるスーパーも総崩れなのです。

▲2023年のスーパー上位10社の売上高前年比。こちらも悲惨。ただし、2024年になって各社とも業績は回復し始めている。中国チェーンストア経営協会のデータより作成。

 

ウォルマートは、会員制ホールセラー「サムズクラブ」が大人気となっており好調ですが、ウォルマート本体の方は厳しい状況で、サムズクラブへの転換を進めている状態です。

高級品は買わない、日用品も買わない。一体中国市民は何を買っているのでしょうか。このようなデータを見ていると、市民はあらゆる消費をやめて、家に閉じこもっているのではないかと思えてしまいます。

 

中国には社会消費品小売総額という統計があります。食品や衣類の小売総額で、個人消費の目安になります。

▲社会消費品小売総額の前年比伸び率。力強い数字ではないが、安定して伸びている。国家統計局のデータより作成。

 

不思議なことに、よくはありませんが、ひどい数字でもありません。わずかですが前年を上回っているのです。つまり、個人消費が伸びているとまでは言えないものの、縮小はしていない。これはいったいどういうことなのでしょうか。

後ほど、消費者物価指数や平均消費支出、平均可処分所得などのデータをお見せしますが、数字としては決してよくはないものの、マイナスにはなっていません。わずかとは言え、所得が増え、物価は上がり、消費額も減っていない。とてもデフレには思えません。もちろん、指標が悪化をしていることは事実で、デフレに入る危険性があると警告をする専門家はたくさんいます。しかし、現状はまだ踏みとどまっているようなのです。

このような経済指標の数字が悪くないことに、中国人自身も違和感を感じているようです。飲食店がドミノ倒しのようにつぶれ、モールもスーパーも業績が著しく悪化をしていることを日常生活の中で実感しているのに、数字を見ると、消費が行われている。首をひねっている人も少なくありません。

この違和感の元になっていると指摘されているのが「口紅効果」と「消費のドーナツ化」です。つまり、消費の対象が変わっただけで、実は相変わらず消費欲は旺盛だという見方です。この2つの説明が正しいのかどうかは私には判断ができません。しかし、面白い見方として、今回ご紹介をしたいと思います。もちろん、このような見方をする経済評論家たちは、あてずっぽうで言っているわけでなく、統計による裏づけも出しています。そのようなデータも合わせてご紹介します。

 

一方、日本では、中国はすでに深刻なデフレに入っているという見方をする人が多くなっています。日本が苦しんできた道「不動産バブルの崩壊から物価下落、賃金据え置き、購買力低下、失われた30年」を中国もたどるのだというわけです。こちらも、単なるあてずっぽうではなく、データを元にした見方になっています。

その大きな根拠になっているのが、GDPデフレーターという指標です。現在の中国のGDPデフレーターの前年比推移は次のようになっています。

▲中国のGDPデフレーターの前年比の推移。2023年になって、明らかにデフレ入りの兆候を見せている。国家統計局のデータより作成。

 

これを見ると、2022年後半から悪化をしているのがよくわかります。コロナ禍の2020年よりも悪い水準です。これを見てしまうと、「やっぱり中国は2022年後半からデフレじゃないか」と誰もが納得をしてしまいます。ところが、経済学の教科書を読むと、GDPデフレーターだけでインフレかデフレを判断することはできないとはっきりと書かれています。最低でも、消費者物価指数と合わせて判断することが必要なのです。

そもそも、GDPデフレーターとは「デフレを示すことを目的にした指標」ではありません。ここが勘違いの元になっています。多くの人が「デフレーターと言うぐらいだから、デフレかどうかを判断する指標なのではないか」と思い込んでしまい、それがマイナスになると「デフレだ」と考えてしまいがちなのです。しかし、デフレーターのデフレと景気のデフレは言葉は同じですが別物なのです。

では、GDPデフレーターとはどんな指標なのでしょうか。それをまず説明し、それから消費者物価指数など他の指標もご紹介し、今、中国で起きている奇妙な消費構造「口紅効果」と「消費のドーナツ化」についてご紹介をします。

 

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