電動自転車の発火事故が頻発をしている。その原因は、違法に改造されたバッテリーの使用によるものだ。多くの地方で高容量バッテリーの製造、販売、使用が禁止されているが、全国一律規制ではないために、密かに流通をしてしまっていると新京報が報じた。
3.5億台を突破した電動自転車
中国独特の移動ツール「電動自転車」。アシストではなく、電力の力で自走をする。建て付けは自転車であるため、ペダルもついていて、人力で漕いで進むこともできるが、実際に使用することはほとんどない。あくまでも自転車であるため、免許は不要で乗ることができる。
そのような便利さから広く普及をし、保有台数は3.5億台を突破し、自動車よりも多く、中国で最も普及している移動手段になっている。
違法バッテリーによる火災事故が相次いでいる
しかし、火災事故が多い。バッテリーが発火をするのだ。各都市でバッテリー基準を定めていて、多くの都市では48V以内のバッテリーでなければ、製造、販売、使用が禁止をされている。しかし、60V、72Vという大容量のバッテリーが密かに出回っていて、これが火災事故の原因になっている。
今年2024年7月5日の深夜、北京市豊台区のマンション敷地内で、1台の電動自転車から発火をし、駐車をしていた他の電動自転車、バイクにまで延焼するという事故が起きた。消防局の調査によると、火災の原因となった電動自転車は「優速」ブランドのもので、所有者のデリバリー配達員が今年3月に、店頭で中古車を購入したもので、製造上の問題は見当たらなかった。しかし、この配達員は、2022年7月にあるECで購入していた72Vの違法な大容量バッテリーに載せ替えていた。
年間1.8万件以上、死亡者も91名に
48Vの基準内での航続距離は80km程度だが、この違法なバッテリーを乗せると航続距離が180kmにまで伸びる。配達員は、基準内のバッテリーだと仕事中に充電をしなければならないため、大容量のバッテリーに交換したという。しかし、自転車の方は大容量バッテリーには対応していないため、利用をするたびにバッテリーの損傷が進み、発火事故につながったと見られる。
国家消防救援局の統計によると、このような発火事故は2022年には1.8万件以上起きていて、死亡91名、負傷104名という被害を与えている。事故件数は前年に比べて23.4%増加した。また、事故の57.1%は午前0時から午前8時の就寝時間に起きている。充電中に発火をすることが多いからだ。このことが被害をより大きくしている。また、バッテリーや電動自転車を室内に持ち込み充電をしている時に発火をし、住宅火災にまでなった例も3242件あり、前年よりも17.3%増加している。
密かに販売が続く違法大容量バッテリー
このような問題に対処するため、各都市では48Vよりも大きい電動自転車バッテリーの販売と使用を禁止している。多くの自転車店では、店頭にはそのようなバッテリーは並べられていないし、販売もしていないと口をそろえる。
しかし、新京報が北京市中関村南大街にある自転車店を覆面調査すると意外な事実がわかった。大容量のバッテリーがほしいと店員に尋ねると「こちらでは販売してない」と断られた。しかし、それでも必要なのだと食い下がると、店員はあっさりと「メーカーから取り寄せすることになります。明日には届きます」と72Vのバッテリーが購入できた。
他の店舗でも同様の試みをすると、違法大容量バッテリーを店頭に並べている店は皆無だったが、食い下がると取り寄せをしてくれる店が半数、「禁止されているので販売できない。発火の危険があるのでお勧めできない」と言う店が半数だった。
全国一律規制ではないためにECでは販売が続く
記者は、最も大容量バッテリーを必要としているデリバリー配達員にも取材をした。すると、多くの配達員がECで購入し、自分で取りつけをしたという。バッテリー規制は市などの地方政府単位で施行をしているため、バッテリー規制がない地域もある。そのため、全国規模のECはその規制から免れ、堂々と販売をされている。
しかし、専門家によると、中国電子商取引法では、購入者の生命と健康を害する商品を販売した場合、販売業者とECプラットフォームの双方に責任があると定められているため、関係機関が働きかけることで、違法大容量バッテリーの販売を停止させることは可能だという。
ただし、まずは国家標準として大容量バッテリーを規制することが必要だともしている。
著名メーカーのものであっても違法に改造されていることがある
北京市豊台区消防救援隊の苗海青氏は、違法大容量バッテリーは著名メーカーのものであったとしても危険なので使用をしないでほしいと呼びかけている。通常のバッテリーは、余裕がある設計になっている。バッテリーセルが走行中に揺れないようにするために、緩衝材などを入れているからだ。ところが、大容量にするためには、この緩衝材部分を取り払い、そこに追加のバッテリーセルを入れるという改造をする。このような改造は、著名メーカー自身では行ってなく、違法な業者が行うが、それでも外観やセルは著名メーカーのものであるので、著名メーカーの大容量バッテリーとして流通してしまう。
このような改造バッテリーは、走行中にセルが揺れて、セル同士が衝突をすることがあり、それでセルが損傷を受ける。これを充電すると、発火するリスクが飛躍的に高まるのだ。
また、自転車側も、さまざまな電気系統を48Vを想定して設計をしているため、大容量バッテリーを使うと、電子系統部品が損傷をし、やはり発火リスクを高めてしまう。
交換式バッテリーが火災事故防止の決め手に
このような違法バッテリーを使いたがるのはデリバリー配達員だ。彼らは1日に長い距離を走るため、どうしても長距離が走れる電動自転車を必要としている。大容量バッテリーが違法だとわかっていても、使わざるを得ない事情がある。
そこで、北京市が力を入れているのが交換バッテリー方式だ。交換式の電動自転車を普及させ、市内に交換バッテリーステーションを設置する。デリバリー配達員は、バッテリー残量が少なくなったら、ステーションに寄ってバッテリーを交換すればいいだけだ。
利用料も月に200元から300元と、自分でバッテリーを購入するよりも得になる設定になっている。大容量バッテリーは2000元から4000元ほどする。これを自分で購入して、充電代が月に100元ほどかかる。だとしたら、バッテリーを購入せずに、最初から交換バッテリーの契約をした方がお得になる計算だ。この交換式バッテリーの電動自転車を使うデリバリー配達員も増えている。
大容量バッテリーを禁止するだけでなく、このような促進策も並行して行い、北京市は電動自転車の火災事故に対応しようとしている。