中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

いよいよロボタクシーの時代が始まる。交通部が自動運転ガイドラインを公開。法整備が加速

交通部が自動運転車のガイドライン試行版を公開し、広く意見を求めている。すでにロボタクシー、ロボトラックは技術的には一定環境での走行が可能なところまで成熟しており、後は法整備を待つだけになっていた。その法整備がいよいよ始まる。北京交通ラジオ「1039調査団」では、ロボタクシー、ロボトラックの現状を取材した。

 

自動運転、実証実験から商用化への動き

中国の自動運転の焦点になっているロボタクシー、ロボトラックの商用化が近づいている。特に大きかったのが、科技部、交通部が自動運転商用化を促す政策を発表したことだ。

交通部は「自動運転自動車の運輸安全サービスガイドライン(試行)」(http://www.gov.cn/xinwen/2022-08/14/content_5705346.htm)を公開し、広く意見を求めた。

また、科技部は「次世代人工知能モデル応用シーンの建設を支持する通知」(https://www.most.gov.cn/xxgk/xinxifenlei/fdzdgknr/qtwj/qtwj2022/202208/t20220815_181874.html)を公開し、人工知能の応用が考えられる場面で、科技部が促進政策を実行する10のシーンを公開した。この中に自動運転が含まれている。

従来の自動運転に対する政府の対応は、公道試験の場所を設定することや試験のガイドラインを定めるなど、民間企業の要望に応える形のものが多かったが、この2つの通知は、政府が主体的に自動運転の商用化に向けてガイドラインの策定や促進政策を実行する領域を指定したもので、自動運転商用化がさらに加速をすると見られている。

北京市では200台のロボタクシーが走行中。そのうち30台は運転手がいない無人ロボタクシーだ。乗客はパネルから操作をして、ロボタクシーを走らせる。

 

無人運転ロボタクシーが走る北京市

北京交通ラジオの番組「1039調査団」では、現在のロボタクシーの状況を取材した。ロボタクシーは武漢市、重慶市ではすでに営業免許の認可が行われ、乗客を乗せた試験営業が始まっている。北京でも乗客を乗せた試験営業が始まっている。その中心になっているのは、北京市南東の亦庄にある北京経済技術開発区だ。ここではすでに200台のロボタクシーが乗客を乗せて走っている。現在、そのうちの30台は運転席に監視員がいない。助手席に検証エンジニアや監視員が同乗することはあるが、運転席には誰も座っていない無人運転が行われている。

無人運転のロボタクシー。助手席には検証エンジニアなどが同乗することもあるが、いない場合も多い。写真は取材のため広報担当者が助手席に同乗した。

 

200m先にいる猫を判別できる

百度バイドゥ)のスマート運転グループの王総経理は、番組に出演して、センサーの精度について解説した。

:第5世代のロボタクシーにはルーフ上に2つのレーザーレーダー、5つのミリ波レーダー、13のカメラが搭載され、リアルタイムで360度死角なしの感知能力があります。内部では、200m先にいる猫が猫だと判別できるレベルだという話をよくしています。

▲車両の屋根に設置されたセンサーユニット。200m先にいる猫を猫だと判別できるレベルの情報収集が可能になっている。

 

運転技能は国賓車のベテラン運転手並みに

記者が体験試乗し、永昌南路に差し掛かった時、右前方を走っていた車両が突然車線変更をし、さらに左の車線まで、連続して車線変更をした。連続して車線変更をするのは交通違反になる。

:今、車両は緊急判断をしてブレーキをかけました。でも、急ブレーキにはなっていないと思います。

記者:いわゆる軽くブレーキをかけた状態ですね。これはどういうことですか?

:どのくらいのブレーキをかければ安全が確保できるかを判断しています。また、乗客に過度のショックを与えないことも考慮に入れます。私たちは、運転では最もレベルの高い国賓車の運転手の技術を調査しました。現在のAIは、国賓車を20年運転しているベテラン運転手のレベルに達しています。

北京市を走るロボタクシー。一般車に混ざって走行をしている。

 

必要な時のみリモート運転手が介入をする

百度の自動運転は、すでに全国で3200万kmの公道走行を行い、100万人以上の乗客を乗せた走行を行なっている。自動運転車に責任がある事故は1件も起きていない。さらに、百度社内には5Gクラウド運転に対応した運転席に数十人の運転手が座り、リアルタイムで自動運転車の行動をモニターし、突発的事態が生じた時は運転手が自動運転に介入し、リモート運転に切り替える。

:5G通信を活用することで、リモート運転席と車両はリアルタイムでつながり、反応速度は20ミリ秒以下になっています。必要な時は、人間の運転手が介入をして手動運転を行います。

記者:どのような状況で、リモートの手動運転になるのですか?

:ロボタクシーは些細な交通違反もすることができません。例えば、道路が工事で不通になっていて、その情報が地図上に反映されていない場合、Uターンをして戻らなければなりませんが、そこがUターン禁止個所である場合、ロボタクシーは立ち往生をしてしまいます。このような時、リモートで人が介入をして、Uターンをして、ロボタクシーが直面している問題を回避させます。

無人運転のリモート運転手。通常は監視をしているだけだが、AIが安全停止をするような状況が発生した場合に運転介入を行う。

 

武漢重慶でも無人運転ロボタクシー

武漢市と重慶市では、すでに無人運転商業化政策を打ち出していて、公道試験が可能なエリアでは、市民が運転手も安全監視員もいない完全無人運転のロボタクシーに乗車することができる。国家スマートコネクト武漢試験モデル地区の陳力主任は、現在、百度と東風の2社が合計10台のロボタクシーを投入していると紹介する。

陳力:軍山新城地区の28kmの範囲内に10ヶ所のステーションを設置し、市民は予約の上、ステーション間を乗車することができます。毎日30人以上が乗車をしています。合計走行距離は1000kmを突破しました。5Gによるリモート管理機能もあり、公道に設置されたセンサーデバイスも活用されています。

武漢市を走るアポロ・ゴーのロボタクシー。無人運転の乗客を乗せた試験走行が行われている。

 

高速道路ではロボトラックの試験走行が進む

北京市の高速道路では、ロボトラックの試験走行が常態化をしている。小馬ロボトラックのエンジニア、肖平氏によると、トラックの自動運転は難易度が高いという。

肖平:運輸に使われるトラックは49トンほどあり、一般の乗用車の2トンから比べると25倍の重量があります。時速90kmからブレーキをかけると、乗用車は60mで停止することができますが、トラックは250mも必要になります。つまり、ロボトラックは状況を早く察知し、早く操作を決定する必要があります。私たちのセンサーは500mから1000mまで感知できるものですが、AIはこの膨大な情報を100ミリ秒以内に演算をして、操作を決定する必要があります。

▲ロボトラックは試験走行中であるため、運転手(安全監視員)が乗車しているが、一定条件下ではハンドルを離した自動運転を行う。

 

難易度の高い高速道路の料金所付近

ロボトラックは、京台高速の料金所に差し掛かった。ロボトラックはETCゲートを難なく通過したが、これは非常に難易度の高い運転だという。

肖平:料金所の問題は、前後300mほどの間、車線がなくなるということです。私たちは高精度地図上にバーチャルな車線を設定し、料金所ゲートに誘導をしますが、料金所付近では他の車両が予測の難しい運転をするため、これにも対応する必要があります。

▲ロボトラックにとって、料金所付近は車線がなく、他社の挙動も不確定になるため、難易度の高い走行になる。

 

意外に特殊状況の多い高速道路

高速道路の自動運転は、一般高度に比べて難易度が低いと言われる。整備された道を走行するからだ。しかし、肖平氏は、高速道路でも難易度の高い特殊状況は多く存在するという。

肖平:前の車に追従をして走行する、遅い車を追い越す、インターチェンジを走行する、料金所を通過するというのが高速走行の基本ですが、それ以外にも特殊な状況が存在します。工事や事故などで車線が規制されている場合、コーンや三角表示板を認識して状況を理解する必要がありますし、故障車や事故車を判別して正しい対応をする必要があります。

 

技術は成熟、法整備を待つだけの状態

すでにロボタクシー、ロボトラックは、道路環境が整備された限定地区での自動運転技術は成熟をし、商業化が可能になる時期を待っている状態だ。そこに、交通部などの政府の動きが出てきて、関係者は商業化に向けて大きく前進をしたと評価をしている。北京市武漢市、重慶市でロボタクシーの商業化が近々行われると期待をされている。