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感染再拡大で苦境に立つピザハット、サブウェイ、吉野家。3チェーンに共通した課題は「市場適応」(3/3):吉野家編

飲食業は2020年に大きな打撃を受けた。しかし、2022年、再び同規模の打撃を受けている。感染再拡大に対する不安から、外食の習慣が失われようとしているという人もいる。その中で、特に困難に直面しているのがピザハット、サブウェイ、吉野家の3チェーンだ。いずれも中国市場への適応に問題があったと砺石商業評論が報じた。

 

外食の習慣が消える?関係者の不安

中国の飲食業は、コロナ禍により大きな打撃を受けた。最も大きいのは2020年の新型コロナの感染拡大期だったが、2021年はやや持ち直し回復の傾向が見られたものの、2022年になって再び2020年と同じ規模の打撃を受けている。感染がぶり返し、部分的封鎖などが繰り返されることが大きいが、もはや市民の外食の習慣が消える傾向にあるのではないかということを関係者は不安視している。

その中でも苦境に陥っているのが、外資系飲食チェーンだ。ケンタッキーフライドチキン(KFC)とマクドナルドはすっかり中国に定着をして、安定した経営を続けているが、ピザハット、サブウェイ、吉野家の3チェーンが撤退待ったなしの危機的状況に苦しんでいる。

 

著名な日本ブランドはユニクロ吉野家

中国人に「日本で成功したブランド」を訪ねると、最初に出てくるのはユニクロで、その次に吉野家が出てくる。「日本人はみなユニクロを着て、吉野家でご飯を食べる」というイメージを持っている人がけっこういる。

さらに、吉野家は中国では「1899年に日本橋の魚河岸で開店した」という100年の歴史を強調しているため、日本の老舗ブランドとして高いブランド価値を築くことに成功をしている。

吉野家は「百年の歴史」であることをアピールし、それが成功をした。日本の伝統的な食事でありながら、店舗運営は先進的だと高く評価された。

 

老舗でありながら先進的に映った吉野家

しかも1992年に中国に進出した時は、吉野家は当時の中国人には非常に先進的なものに見えた。サプライチェーンを整備し、食材の標準化を行い、コストを極限まで下げている。さらに、店舗では調理の効率化を進め、カウンター方式にすることで、来店客の平均滞在時間は6分から7分で次の客に入れ替わる。しかも、24時間営業をしている。100年ブランドでありながら先進的な企業として、高く評価された。

▲北京のショッピングモール「北京apm」の中の吉野家。セルフ注文機やスマホクーポンなども積極的に取り入れている。しかし、メニューの種類が少なく、多人数では行きづらい飲食店になってしまっている。

 

中国北方にはない米飯習慣

1992年に北京市の有名な繁華街、王府井に吉野家の中国1号店が開店すると、大盛況となった。牛丼は一杯6.5元(約130円)と、当時の中国人の相場感覚からは高めだったが、日本の古くて新しい料理であり、忙しくても食べられると評判になったのだ。

しかし、物珍しさが過ぎ去ってみると、いろいろな問題が起きてきた。ひとつは米を食べるというのは南方では受け入れられたが、北方の人にとってはあまりなじみのないことだった。小麦を中心にした粉物が主食なのだ。

さらにライバルも多かった。和合谷、真功夫、KFCなどが米飯メニューを提供していて、個人営業の飯もの店は無数にある。その多くが、米飯メニューだけでなく、さまざまなメニューを用意しているのに対し、吉野家は牛丼だけしかない。

つまり、吉野家のファンを除いて、何を食べるかを決めずに飲食店を探すとき、牛丼しかない吉野家は選択肢から外れてしまう。

さらに、当初は先進的だと高く評価されたカウンター方式、24時間営業も、今となっては珍しくもなくなっている。2020年のコロナ禍で、吉野家は大量閉店が進むことになってしまった。

 

元々が高め設定だっために値上げの選択肢が選べない

吉野家は北部を合興集団が運営をし、南部を吉野家本社が直接運営をしている。吉野家の中国地区責任者は日本人であり、中国市場の変化への対応は素早いとは言えない。2017年から業績は下降モードに入り、2020年のコロナ禍で8190万元の損失を出したことが決定打になってしまった。

もちろん、困難に直面しているのは吉野家だけでなく、飲食業すべてだ。コロナ禍による客流減少と原材料などのコスト高の二重苦が襲っている。その中で、各飲食業は、価格の値上げをして利益率を上げるか、値下げをして客流を確保するかの選択を迫られている。しかし、吉野家は元々の価格が中国の相場の中では高めに設定をしたため、値上げをすると客流を失い、値下げをすると利益がなくなるという状況に陥っている。

現在は並盛りが19.5元(約400円)と日本と変わりないか、むしろ安いぐらいだが、中国では碗物単品というのは職人が立ったまま食べる食事のイメージで、多くの人がサイドメニューを頼む。そうなると30元を超えることも多く、高く感じている人が多い。

 

中国市場への適合を進めてきたKFCとマクドナルド

中国の俗語に「外からやってきたお坊さんはお経が上手」というのがある。新奇性の高いものはもの珍しく、本質以上によく見えてしまうということわざだ。中国に進出をしてくる海外ブランドの中には、この「外からやってきたお坊さん」になってしまうケースがある。現地国ではごく庶民的なブランドであるのに、中国で展開をする時には高級ブランドであるかのようなプロモーションを行う。その方が価格を高く設定でき、高い利益率を確保できるからだ。特に90年代の中国は、まだ先進国とは言えず、かつ人の意識が海外に向いていた時代なので、この高級路線が有効だった。

しかし、現在でも定着をしているKFCとマクドナルドは、高級路線から少しづつ中国飲食店にシフトをしていった。クーポンなどを発行し、実質価格を低下させていき、中国市場を研究し、中華メニューを取り揃えていった。KFCもマクドナルドも看板は海外と同じだが、メニューはかなり異なっている。看板を隠してメニューだけ見たら、西洋メニューもある中国地場の飲食チェーンに見える。

この中国市場への適応をしてこなかったチェーンが今、苦境に陥っている。高級路線を維持してきたため、価格の設定の自由度が奪われ、打てる手が限定されていった。そして、コロナ禍で大きな打撃を受け、その問題が顕在化をしてきている。