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アリペイのインド版「Paytm」がIPO。進出ではなく、提携でインド市場に浸透するアリババの戦略

インドのスマホ決済「Paytm」の運営企業がインドで株式を公開した。この企業の筆頭株主はアリババ。アリババはPaytmに積極的に投資をし、技術を提供することでインド市場に進出をしたと媒体が報じた。

 

海外進出が難しいスマホ決済「アリペイ」

インドのスマホ決済「Paytm」(ペイティーエム)を運営するワン97コミュニケーションズが、インドで上場をした。調達金額は1830億ルピー(約2800億円)となり、インドで最大のIPOとなった。

このPaytmは、アリペイのインド版と言っていい存在だ。

アリババは、アリペイを東南アジアやインドなどでもアリペイ加盟店を増やしてきた。海外旅行をする中国人が現地で決済ができるようにだ。その後、アリペイが浸透したところで本格的に現地国用アリペイサービスをスタートさせるという戦術で海外進出をしようとしてきた。

しかし、ほとんどうまくいっていない。アリペイは決済サービスと言いながら、個人間での自由な送金ができ、事実上の第2の通貨のようになってしまう。そのような国民的インフラに外国企業のサービスが入ってくることに、多くの国が警戒をするからだ。

アリペイは日本でも2018年春から、日本版アリペイをスタートさせる計画を進めていたが、最終的に決済事業者免許や金融規制の壁を破ることができずに断念をしている。

 

インドで登場したアリペイの模倣サービス

インドでもアリペイは進出をはばまれていた。特にインドは、中国製アプリを排斥するなど、中国のテクノロジーサービスの進出を警戒している。表向きの理由は個人情報を海外企業に収集されることを問題視し、中国製アプリは過度に個人情報を収集しているというものだが、その本音は国内産業保護と国民感情であると見られている。このため、アリペイがインドに進出をしようとしても、なかなかうまく進まなかった。

その中で、インド国内のワン97コミュニケーションズが独自のスマホ決済「Paytm」を開発して、市場を拡大し始めた。しかし、このPaytmは、設計から運営までアリペイを模倣していることは明らかであり、さらには技術面でもアリペイの知的財産権を侵害している可能性すらあった。

このPaytmの存在を知ったアリババの創業者、ジャック・マーは、怒るどころか大喜びをしたという。

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▲インドで最もよく使われるようになったスマホ決済「Paytm」。銀行口座を持っていない人も多く、スマホ決済は利便性の高いツールになっている。

 

投資と技術提携を進めたアリババ

アリババは早速ワン97と掛け合い、出資をし、技術を提供する提携に漕ぎ着けた。その後、4回にわたって29億元(約520億円)以上を投資し、ワン97の29.6%の株式を取得し、筆頭株主になっている。

それだけではなく、アリババは子会社を経由して、ワン97の7.2%の株式も保有している。この7.2%は数字としては小さいが、アリババにとって重要なものだ。合計で36.8%の株式を保有することになり、1/3を超える。これにより、株主総会での否決権を持つことができるため、発言権が大幅に強くなる。

つまり、事実上、アリババがPaytmを統治し、Paytmは現在3.3億人の利用者を獲得している。アリペイはインドに進出をすることはできなかったが、Paytmを通じてインドに事実上の進出をした。

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▲ワン97のビジャイ・シャカール・シャルマCEOとアリババの創業者、馬雲(マー・ユイン、ジャック・マー)。アリペイを模倣して生まれたPaytmに対し、ジャック・マーは批難をするのではなく、積極的に資金と技術を提供した。

 

現地企業運営の方が市場の感覚に対応しやすい

アリババの資金力をもってすれば、ワン97を完全買収することもできた。しかし、子会社化するのではなく、株主になるという手法はアリババにとっても好ましいものだった。

ひとつはアリババはインド市場を完全に理解することは難しいということだ。例えば、Paytmには相手の電話番号を入力するだけで送金ができる機能がある。セキュリティ的には危うい方式だ。また、初めての支払い時には相手の電話番号を入力しなければならず、支払いに時間もかかり、間違いやすい。しかし、インド市民はさほど気にしないし、QRコード方式よりもそちらを好むのだ。インドではまだまだカメラがついていないフィーチャーフォンを使っている人もたくさんいるからだ。

こういう市場の感覚のようなものは、外国人にはなかなか理解ができない。現地のPaytmの方がはるかによく理解をし、正しい決断ができる。

 

市民感情を和らげることもできる

もうひとつは、インドでは中国企業を嫌う風潮があることだ。中印は何度も武力衝突をしていて、現在でも領土をめぐって小規模の戦闘が起こることがある。インド市民にしてみれば、敵国のサービスは使いたくないという感情がある。そのため、インド企業が運営をするPaytmの方が浸透をしやすい。さらに、あまりにアリババが前面に出ると、中国系サービスとして、インド政府からアプリの配信を停止される可能性もある。つまり、アリペイが直接進出をするのではなく、現地のPaytmの筆頭株主になり、技術提供をするという方法が最も優れていたのだ。

なお、日本のPayPayは、このPaytmから技術提供を受けている。