中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

返品率60%!購入欲を刺激し、返品しやすさをうたうライブコマースに高い返品率という問題

ライブコマースに新たな課題が持ち上がっている。購入欲を刺激し、返品しやすい仕組みを用意することで拡大してきたライブコマースだが、独身の日セールでは返品率が60%に達する事態になっていると証券日報が報じた。

 

新記録は更新したものの盛り上がらない独身の日セール

昨2021年11月11日の独身の日セール=双十一は、流通総額の数字としては9651.2億元(約17.4兆円)、前年から12.22%の伸びとなり、記録を更新した。しかし、新型コロナの感染拡大が終息しきらないということもあり、各種の会場イベントが自粛され、盛り上がりには欠けるセールとなった。

それだけでなく、流通総額は伸びていても、それ以上に返品率が高くなっており、実質的な売上はさほど伸びていないのではないかとも言われている。業界関係者によると、服飾品に関しては返品率が40%が超えているという見方もある。もともと服飾品は、異なるサイズ、異なる柄を複数注文して、気に入ったものだけを残して残りは返品するというやり方をするため、返品率は高くなる傾向がある。それでも、一昨年の双十一あたりまでは「30%を超える」という表現が一般的だった。返品率が上昇傾向にあることは間違いないようだ。

また、電子製品や家電製品類でも15%を超えているとも言われる。

 

返品率が異常に高いライブコマース

その中でも、大きな問題となり始めているのが、ライブコマースの返品率の高さだ。昨年の双十一では、150以上のブランドがライブコマースに参入し、「買買買」(買う買う買う)という言葉が広告によく使われた。しかし、終わってみると、返品率が60%を超えていると見られていて、「退退退」(返品、返品、返品)だったとネットで揶揄されている。

 

ライブコマースで起きたロレアル事件

昨年の双十一ライブコマースで返品率が上がったのは、ロレアルパリ事件が大きく影響している。

双十一は、11月11日がセールの日だが、一昨年から数週間のセール期間に変更されている。昨年は10月20日から双十一のプリセールが始まっている。10月に入ると、各ブランドは双十一で販売するものの宣伝活動を始め、セールを盛り上げていく。

この中で、ロレアルパリは、10月20日のセール初日に行われる口紅王子、李佳琦(リ・ジャーチ)のライブコマースで、50枚入りのフェイシャルパックを429元で販売すると予告した。「全年最大力」(今年最も力を入れている)という言葉を使ったため、多くの消費者が今年最安値で買えると思い込んだ。

通常の販売価格の半値近いために、多くの消費者が李佳琦と薇(ウェイヤー)のライブコマースを見て、フェイシャルパックを購入した。

ところが11月11日になって、ロレアルは独自のライブコマースを開催し、こちらでは優待クーポンなどを併用することで、同じものが257.7元で購入できた。販売価格は489元なので、李佳琦のライブコマースが最安値というのは嘘にはならないものの、多くの消費者が騙されたと感じ、炎上をした。

11月17日に、李佳琦と薇の2人はそれぞれに声明を発表し、ロレアルに対して問題を明らかにするように求め、解決されるまでロレアルとの提携は停止をするとした。翌18日に、ロレアルは謝罪をして、問題を解決すると発表した。しかし、どのように解決をするかは公表されなかったため、10月20日のライブコマースでフェイシャルパックを購入した消費者が次々と返品をすることになった。

f:id:tamakino:20220107130448p:plain

▲ロレアルの独身の日セールでは問題のフェイシャルパックが489元で販売されたが、優待を利用すると実質257.7元で購入でき、最安値だと予告された李佳琦のライブコマースよりもはるかに安く買え、多くの消費者からクレームが寄せられた。

f:id:tamakino:20220107130451p:plain

▲李佳琦も被害者の一人で、ロレアルに対して説明と問題の解決を要求。それが実行されるまでロレアルの商品は扱わないと宣言をした。



衝動買いをしやすいライブコマース

ライブコマースもすでに競争が激化をしている。その中で、消費者を惹きつけているのがタイムセールや先着販売だ。ライブコマースの中で、時間をかぎって大幅割引をする。販売数限定で先着で大幅割引をする。こういったことを毎回行うと、ライブコマースを見る習慣をつけてくれる消費者がいる。

「秒殺」という言葉がライブコマースではよく使われるようになっている。「(人気なので)1秒で売り切れてしまう」という意味だが、「9.9元秒殺」(9.9元という大幅割引販売で、時間または限定数の売り切れ御免)セールが多用されるようになっている。

ライブコマース主催側のテクニックに惹き込まれてついつい買ってしまうが、商品が届いてみると、さほど欲しいものではなかったと思い直して返品をする人も増えている。

また、ライブコマースを見ていて、何も買わないのは面白くないので、最初から返品をするつもりで購入をしている人もいる。返品に理由は不要だし、返品送料も実質無料になっていことが多いからだ。開封をして、品物を見て、写真を撮り、SNSにあげたら、再び商品をしまって返品してしまう人もけっこういるのだそうだ。

ライブコマースは、商品の説明をその場で聞くことができ、チャットにより直接質問ができるため、間違いのない買い物ができる仕組みだが、主催側のトークもうまくなり、「嘘はついていないけど、良質だと錯覚させる」ようになってきている。消費者にしてみれば、よく見れば但し書きがあるが、それには目がいかず、ライブコマース主催者に嘘をつかれたように感じて、返品をすることもある。

f:id:tamakino:20220107130455j:plain

▲ライブコマースはさまざまな手法で購入欲を刺激してくる。ハイアールのクリーナーが「7日間返品可能」「60日間、より安く販売されていたら差額を補償」「5分以内に注文すると豪華景品」「価格も大幅割引」などでカードボタンを押させようとする。

 

返品問題の解決が必要になっているライブコマース

中国では消費者保護のため、法律で購入後7日間は理由を説明することなく返品ができるように定められている。開封をしても返品ができる。開封をすると商品価値が失われてしまう生鮮食品、下着や、開封後コピーをできてしまうCD、ゲーム、開封すると中古品扱いにしなければならない電子製品は除外されているが、多くの商品が開封をして自分の目で確かめて、場合によっては少し使ってからでも、理由を説明することなく返品することができる。

消費者保護の観点からは歓迎されるべき法律であり、これがECなどの利用を促したことは間違いないが、同時に気軽に購入することができ、返品率を高くすることにもなっている。

返品された商品は、検品をして、再包装して新品として再度販売される。しかし、この検品にミスがあり、瑕疵のある商品が再販売されてしまう問題も起きている。

EC、特にライブコマースは、どれだけ販売するかよりも、どれだけ返品率を抑えるかを考えなければならなくなっている。2020年のコロナ禍で一気に拡大したライブコマースだが、早くも曲がり角を迎えている。