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アリババEC「Tmall」で起きた悪徳商法事件。アリババの出店審査に思わぬ落とし穴

引っ越しで荷物を乗せてから見積もりとは異なる高額請求をする悪徳商法はどこにでもある話だが、それが、アリババが販売業者を審査するEC「天猫」(Tmall)で発生した。この業者は、アリババの審査をうまくすり抜けて、Tmallへの信頼を利用して悪徳商法を行なっていたと新聞晨報が報じた。

 

安心のTmallで起きた悪徳商法事件

上海市徐匯区に住む路さん(仮名)は、3km程度の距離に引っ越すことになり、アリババのEC「天猫」(Tmall)で、引越し業者を見つけた。亭夕旗艦店という、格安をうたう引越し業者だった。当初見積もりでは900元(約1万5000円)だったが、荷積みをした段階で、1万2800元(約21万8000円)を請求された。

よくありがちな悪徳商法だと言えばそれまでだが、Tmallに出店をしていることが大きな問題となった。アリババのECは淘宝網タオバオ)とTmallの2つがある。タオバオは誰でも簡単に出店ができるため玉石混交で、粗悪品や悪徳業者も混ざっているのではないかと誰もが警戒をして利用する。しかし、Tmallはアリババが審査を行い認めた商店しか出店することができない。多くの場合、著名ブランドの旗艦店が出店をしている。そのため、Tmallで買うなら安心と警戒心が緩んでしまうことになる。

当然ながら、アリババのTmall運営の責任も問われることになる。

 

見積もりは900元。支払いを済ませた

路さんは、Tmallのアプリの中で亭夕旗艦店を見つけた。引っ越しは、荷物を2カ所に運ぶというものだが、距離は3kmでしかない。すべてエレベーターがあり、荷物の量はトラック1台で収まる程度だった。亭夕は、路さんが作成した荷物のリストから見積もりを作り、トラックが400元、運搬員が1時間80元という料金を提示し、合計額で900元程度になるという見積もりを出した。

路さんは、オンラインで900元の支払いを済ませた。亭夕は、実際の費用は、当日の業務量により多少の上下があるので、不足分が発生した場合は、当日、担当者に支払ってほしいと告げた。

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▲路さんと亭夕旗艦店とのチャットの記録。見積もりを依頼すると、だいたい900元前後である言われたため、路さんは900元をオンラインで先払いした。

 

荷物を載せた段階で15倍の料金を請求された

引っ越し当日は5人のスタッフが訪れ、荷物がトラックに積み込まれた。その段階で、引越し作業の責任者という人物が、「上海引越し企業統一価格表」という書類を渡し、それによると、引越し費用は1万2800元という高額のものになり、それを請求された。

路さんは、すでに900元という見積もりを受け、900元を支払っていると反論すると、責任者はそれは予約金にすぎないと言う。もし、支払ってもらえないのであれば引越し作業はできない。キャンセルする場合でも、すでに荷物はトラックに積み込んでいるので、これを載せ、元に戻す費用を支払ってほしいという。

路さんは怖くなった。相手は屈強な5人の男性で、こちらには老人や子どもいる。揉めることはしたくなかった。さらには、キャンセルをしても、荷物のあげおろしにいくら請求されるかわからない。

路さんはしかたなく、とりあえず1万2800元を払い、後で返金請求をしようと考えた。

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▲当日、荷物をトラックに積んだ段階で、引っ越しスタッフが提示した書類。「上海引っ越し企業統一価格表」というもので、これによると引っ越し料金は1万2800元という高額になるという。

 

実際の運営業務は別会社が行なっていた

路さんは、Tmallの運営に苦情を申し立てた。しかし、Tmall運営は、亭夕の返金申請のリンクを提示し、警察に相談することをお勧めしますというメッセージを返しただけだった。そこで、路さんは亭夕の運営会社である蘇州新楚秦商貿を相手取り、蘇州工業園区人民法廷に訴えた。

しかし、新楚秦商貿は、亭夕は確かに自社傘下の企業だが、実際の運営業務は上海強生搬家サービスという企業に委託をしている。そのため、新楚秦商貿には責任がないと主張した。確かに、亭夕のページをよく見ると、「運営は上海強生搬家サービスが行います」と書かれていた。

結局、法廷は新楚秦商貿に返金義務はないと認定をした。

 

実体のない幽霊会社がTmallに出店していた

そこで、路さんは状況を調べ直した。当日、引っ越しを担当した責任者は、名刺によると六安強生搬家サービスの社員となっている。本社は上海市普陀区のマンションで、路さんが当日支払った1万2800元も、この六安強生搬家サービスの口座に送られていた。

また、トラックのナンバーから所有者を調べると、このトラックの所有者は上海寧祥搬場運輸という会社だった。

この問題を路さんから聞いた新聞晨報の記者も調査を始めた。責任者が所属をしているはずの六安強生搬家サービスに問い合わせをしてみると、そのような人物は在籍していないということだった。しかも、上海に強生という名前を使っている引越し業者はそこだけで、Tmallの業務も委託されていないという。記者が、責任者の名刺にあった六安強生搬家サービスの住所を訪れてみると、マンションではあったが、その部屋は住民理事会が使っている部屋で、ここに企業が入居したことなどないという。

トラックの所有者である上海寧祥搬場運輸に問い合わせをすると、当日、その車両は確かにレンタルをされたが、どのような使われ方をされたかは関知していないというものだった。

つまり、亭夕旗艦店は幽霊会社であり、それがなぜアリババの審査が必要なTmallに出店をしていたのかが大きな問題になる。

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▲新聞晨報記者が引っ越し業者の本社の住所を尋ねてみると、そこはマンションの住民理事会室で、企業に貸し出したことはないという。まったくデタラメの住所で、幽霊会社だった。

 

Tmallの出店スペースを又貸ししている

新聞晨報の記者は、亭夕旗艦店の筋を調査することにした。ところが、亭夕旗艦店を開いてみると、すでに引越しサービスは行ってなく、その代わりにスマホの査定、法律相談、営業許可証の申請代行など行政書士と法律事務所のような内容に入れ替わっていた。しかも、それぞれのサービスの実際の運営者の名称や住所が異なっている。

記者は、この亭夕旗艦店を運営する新楚秦商貿を取材した。この企業は、Tmallに亭夕旗艦店を出店したものの、その旗艦店を他の業者に又貸ししているのではないかという疑いを抱いたからだ。

ある新楚秦商貿の従業員が匿名で新聞晨報の取材に答えた。引越しの問題が発生した時は、亭夕旗艦店のスペースを3ヶ月間、ある業者に3000元で貸し出したという。それが路さんが被害にあった引越し業者だが、新楚秦商貿では業者の営業許可証などをきちんと確認をしていないため悪徳な幽霊会社が入り込むことになった。

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▲新聞晨報記者が、亭夕旗艦店を調査すると、すでに引っ越しサービスは扱ってなく、スマホの査定や法律相談、営業許可証の申請代行などのサービスを提供する内容に入れ替わっていた。

 

アリババの審査をすり抜けた又貸し

つまり、アリババは亭夕旗艦店の運営会社である新楚秦商貿の審査はきちんと行っている。しかし、この新楚秦商貿が業務委託を名目に、勝手にTmallのスペースを又貸ししていたのだ。この時には審査は厳格には行われない。しかし、消費者は「Tmallで買えば安心」と思い込んでいるため、悪徳業者に引っかかってしまうことになった。

この悪徳業者は、実態がなく、すべてが寄せ集めで、すべての情報が偽物だ。民事的に賠償請求をすることは現実的にはかなり難しいと見られている。警察に被害届を出し、逮捕されることはあっても、実態がないため返金までは難しい。また、Tmall運営にも道義的な責任はあるはずだが、アリババはこの件に関して今のところ特にコメントしていない。

消費者から信頼をされているTmallにも思わぬ脆弱性が存在した。