中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

どうやっても人が対応してくれないテンセントのサポート。消費者からも疑問の声

多くのITサービスのサポートが、FAQやAIチャットボットを採用し、人が対応しないようになっている。電話番号などは深い階層をたどらないとわからないようになっていることも多い。しかし、テンセントのサポートは無人化が徹底されたあまり、消費者からも疑問の声が出ていると人人都是産品経理が報じた。

 

人の対応窓口にたどり受けないサポート

さまざまなITサービスのカスタマーサポートの無人化が進んでいる。ユーザーがサポートを必要とする場合、多くの場合、FAQのようなページに飛ばされ、そこでも解決しない場合は、AIによるチャットボットが対応するケースが増えている。それでも解決しない場合は、人間のスタッフとチャット、電話で話す必要があるが、人のチャットの入口や電話番号などは階層の奥深くまで行かないとたどり着けないようにしているのが一般的だ。言うまでもなく、サポートスタッフを維持するのはコストがかかるため、できるだけ人にたどり着けないようにし、人件コストを抑えるようにしている。

 

人のサポートが受けられないことにより起きた悲惨な事件

しかし、2021年8月に、このようなサポートの仕組みが悲惨な事件を起こすことになった。

8月12日に、深圳市の唐さん(仮名)のWeChatアカウントが凍結された。理由の詳細は不明だが、テンセントによると、性的な内容のコンテンツを投稿したためであり、規定に従って72時間の凍結処置を行なったという。しかし、唐さんは納得がいかず、WeChatが使えないことで仕事にも大きな影響を被った。そこで、サポートセンターと連絡をとって、誤解を解いて、WeChatのアカウントの凍結を解除してもらおうとし、サポートスタッフと直接電話で話がしたいと考えたが、どうやっても電話番号を見つけることができなかった。

8月15日になって、唐さんは直接テンセントの本部ビルに出向いた。しかし、当然ながら、中に入れてもらうことはできず、守衛は本部にこられても対応できないとして、サポートセンターが入居している嘉達ビルの場所を教えた。その後、唐さんは、この嘉達ビルの11階から飛び降り自殺をし、死亡が確認された。

唐さんは、飛び降り自殺をする直前に、自分のスマートフォンにビデオメッセージを残している。遺族は裁判などもあるとしてそのビデオを公開していないが、内容は、自殺の原因はWeChatアカウントの凍結により、商売がだめになってしまってことにあり、テンセントの本部とサポートセンターに出向いたがまったく相手にしてくれなかったことだという。

唐さんがどのような投稿をして規約違反となったのかもテンセントはコメントしていない。唐さんは食料品の小売商いをしていて、連絡のほとんどにWeChatを使い、支払いなどもWeChatペイを使っていた。このため、期限のある支払いができなくなり、仕事上の被害を被ったのではないかと見られている。

f:id:tamakino:20210921092003j:plain

▲飛び降り自殺が発生したテンセントのサポートセンターが入居する嘉達ビル。この事件により、サポート体制の問題が議論になっている。

 

問題が解決されないサポート体制

この事件をきっかけに、ITサービスのサポート体制の問題が議論されるようになっている。2021年5月に、江蘇省の消費者保護委員会は、48種類のサービスについて利用者アンケート調査を行ったところ、52.9%の利用者が、AIチャットボットが適切な回答をしてくれなかった、スタッフと連絡ができてもたらい回しにされたなどで問題が解決しなかったという経験をしているという。

 

どうやっても人にたどり着けないテンセントのサポート

微信(ウェイシン、WeChat)の中にサポートという項目は用意されてなく、その代わりに「テンセントサポート」というWeChatミニプログラムが用意されている。このことに気がつかず、戸惑う人も多い。

よく起こりがちな「パスワードを忘れた」などの問題には項目が用意されているが、それ以外のケースではAIチャットボットが対応するようになっている。チャットボットの中からスタッフと連絡を取るには「人によるサポート」というチャットメッセージを送ればいいいはずなのだが、直接人が応答するのはではなく、問題の概要を入力する画面が現れるだけだ。これに入力をすると、24時間程度で人が応答をするというメール対応に近い体制になっている。

テンセントの公式サイトには、サポートの電話番号も掲載されている。しかし、電話をしてみると、「スマホの紛失、アカウントの凍結の場合は9、…の場合は1」などの番号を選択するように求められ、それを押すと、音声による一般的な案内が流れてくるだけで、サポートスタッフと話をする選択肢は提示されない。

f:id:tamakino:20210921092009p:plain

▲AIチャットボットで「人のサポート」というキーワードを入力すると、リンクボタンが返される。それをタップすると、問題の状況や連絡先などを記入するフォームが現れる。記入をすると、24時間以内に人がメッセージか電話で対応するというものだ。

 

電話番号がわかっても誰も出てくれない

このようなことから、ネットではテンセントのサポートセンターは無人で、すべて人工知能がやっているのではないかと揶揄されている。実際、ネットでも「テンセントのサポートスタッフと直接話をした」という人はまるで出てこないのだ。

昨2020年7月、司会者などで有名な謝娜(シエ・ナー)が、ウェイボーに発信をしたツイートが話題を呼んだ。謝娜は、突然WeChatにアクセスができなくなり、表示された画面の指示に従って、サポートセンターに電話をした。しかし、呼び出し音が10数分鳴った後に、オンラインサポートを利用するように合成音声で案内をされた。そこでチャットボットのオンラインサポートを使うと、この問題は直接サポートセンターに電話をするように指示された。そして、サポートセンターに電話をすると、10数分呼び出し音が鳴った後に、オンラインサポートを案内される。この無限ループにハマってしまったことをウェイボーで発信した。

このツイートは広く拡散をしたため、テンセントサポートの公式サポートが謝罪をし、問題の状況はすでに改善されているという内容のコメントをつけた。ネットでは、「テンセントサポートにも人がいた!」と話題になった。

消費者問題を共有するサイト「黒猫」には、テンセントのサポートに関するクレームが2021年8月時点で1万8473通も寄せられている。

WeChatの月間アクティブユーザー数は10億人を超えている。そのため、すべてサポートスタッフによるサポートセンターを設置したとしたら、何万人ものスタッフを用意しなければならなくなってしまう。そのため、AIチャットボットなどを大幅に導入するのは当然のことだとも言える。テンセントによると、問題の90%以上はAIチャットボットで解決をしているという。しかし、それは裏を返せば、10%近い問題はAIでは解決をしていないということだ。

f:id:tamakino:20210921092006p:plain

▲著名なタレントが、WeChatのサポートで、電話サポートとオンラインサポートのループにハマったことを紹介するメッセージに、テンセントサポート公式が謝罪のコメントをつけた。テンセントサポートにも人がいた!とネットで話題になった。

 

スマホ決済のサポートもつながらないWeChatペイ

河北青年報では、スマホ決済のサポートセンターは緊急を要することもあるが、読者から「サポート電話につながりにくい」という意見を受けて、「アリペイ」「銀聯」「ApplePay」「WeChatペイ」のサポートセンターに実際に電話をして、状況を調査した。

9時、11時、14時、17時、19時、23時の6回かけて、つながるまでの時間を測定した。最も成績がよかったのはアリペイで、6回とも通じ、平均1分6秒で応答した。次は銀聯で平均2分20秒。その次がApplePayで23時の通話は時間外ということでオンラインサポートに案内をされ、残りの5回の平均時間は3分28秒。最も成績が悪かったのはWeChatペイで、5回はつながらず、1回は音声でオンラインサポートに案内をされた。つまり、1回もサポートスタッフにはつながらなかった。

スマホ決済の場合は、他のサービスと違って、トラブル時の不安は大きく、人が対応をする必要がある。また、トラブルを数時間放置するだけで、場合によっては講座の資金をすべて失ってしまう危険性があるケースもある。テンセントのサポート体制は、この事件によって、大きな問題に発展する可能性もある。

f:id:tamakino:20210921092013p:plain

▲河北青年報の実験結果。アリペイ、銀聯は多少待たされるものの人のサポートが受けられた。ApplePayは午後9時以降はオンラインサポートのみになる。WeChatペイは6回のうち5回はつながらず、1回はオンラインサポートを利用するに促す音声メッセージが流れただけだった。

 

https://www.ixigua.com/6693296651529880078?logTag=be2dfa3a4787c7d57168

▲河北青年報では、各種キャッシュレス決済のサポートに電話をしてみる実験を行った。