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アリババが自社ECに直営店を出店の波紋。ビジネスモデルの大転換になる可能性

アリババが自社が運営するEC「天猫」に自営店舗を出店したことが波紋を呼んでいる。アリババはプラットフォーマーであり、ECマーケットプレイスの運営に専念し、参加する販売業者のビジネスを支援する立場だった。しかし、直接ライバルともなりかねない自営店舗の出店に踏み切ったと華商韜略が報じた。

 

現実になった京東創業者の予言

中国の二大ECはアリババと京東(ジンドン)。この20年、常に中国のEC業界をリードし続けてきた。

その京東の創業者、劉強東(リュウ・チャンドン)は、アリババについてかつてこう述べたことがある。「京東のビジネスモデルこそ健全で、アリババはいつか京東に学ぶことになるでしょう」。

強気の発言だが、その劉強東の言葉が現実になる日がやってきた。

 

アリババが自営店舗を出店

アリババの「淘宝網」(タオバオ)+天猫(Tmall)と京東は、そのビジネスモデルが大きく違っている。アリババは、マーケットプレイス型、プラットフォーム型で、販売業者と消費者をマッチングさせるだけ。注文や決済は仲介するが、宅配は各販売業者がそれぞれに行う。アリババは在庫をもたない。日本で言えば楽天型だ。一方、京東は販売小売店から出発したこともあって、商品を仕入れて、販売をし、宅配も独自に行う。そのため、在庫をもつための倉庫、配送センターなどを持っている。日本で言えばアマゾン型だ。

仲介型であったアリババがTmallに独自の店舗「天猫自営旗艦店」を出店した。つまり、アリババが在庫を持ち、販売をし、宅配も行う。つまり、京東の仕組みを取り入れた。まさに、劉強東の予言が現実のものとなった。これは従来のアリババのビジネスモデルからは大きく外れており、この施策が何を意味するのか話題になっている。

 

アリババの販売業者の間に波紋

このアリババの直接出店は、2種類ある。ひとつはアリババが各販売業者から商品を仕入れ、アリババが販売をし、アリババ子会社の物流企業「菜鳥物流」(ツァイニャオ)が宅配をする「猫享自営旗艦店」(マオシャン)。もうひとつは、アリババが独自ルートで商品を仕入れ、販売をし、菜鳥物流が宅配をする「天猫自営旗艦店」(Tmallマート)の2店舗だ。当面は、単価の高い家電製品の扱いから始める。ただし、宅配に関しては、菜鳥物流だけでなく、順豊(SF Express)なども活用するとも言われており、まだすべての仕組みが固まっているわけではないようだ。

この転換は、アリババで販売を行う小売業者に大きな波紋を呼んでいる。なぜなら、アリババの自営店舗が売上を伸ばすということは、出品をしている販売業者の売上が食われていくということになる。これまで、アリババは販売業者を支援する立場だったが、これからはライバルになる。今後、どういう扱いになっていのかという不安が広がっている。

 

利用者のクレームの7割は配送に関連する内容

アリババはなぜ自営店舗を出店することになったのか。ひとつはサービスに対するユーザー体験の問題がある。中国の場合、ECに寄せられる苦情の7割は、宅配に関するものであると言われる。「商品が到着しない」「商品が毀損していた」「いつ発送されるのか」、そういう問い合わせ、クレームが多い。

京東の場合は、配送も独自で行なっているので、このようなクレームに鍛えられて、宅配サービスも向上をしていった。しかし、アリババの場合は、販売業者まかせであり、大手ブランドは質の高い宅配企業を使うものの、配送料を抑えるために質の劣る宅配企業を使う販売業者もいる。

この問題を解決するために、アリババが巨額を投じて、自前の宅配企業「菜鳥物流」を設立し、販売業者に菜鳥物流を使うように促すことで、このユーザー体験の問題を解決しようとしてきた。

この菜鳥物流が育ってきたことで、アリババは、京東と同じような自営店舗方式が可能になった。

 

アリババのビジネスモデルを崩したTikTok

もうひとつの理由が、中国版TikTok「抖音」、「快手」などのECが急成長をし、アリババの収益モデルが崩れ始めたことだ。タオバオは原則、出店料、販売手数料などは無料だ。これにより、多くの販売業者がタオバオに集まり、タオバオは大きな成功をすることができた。

しかし、それではアリババは利益が出ない。そこで、広告やプロモーションなどを販売業者に対して行い、その収入でタオバオを運営してきた。

抖音や快手で販売されている商品の多くは、タオバオの商品を販売している。例えば、2022年1月の抖音で販売された美容関連商品の47.42%はタオバオに出品されている商品だ。販売業者にすれば、タオバオに出品をし、抖音にも商品のショートムービーを流し、売上を伸ばすことができる好機となった。しかし、アリババにとってはほとんど売上増に繋がらないどころか、売上減の恐れがある。なぜなら、多くの販売業者が費用を払ってタオバオ内に広告を出したり、プロモーションに参加をするよりも、わずかな送客手数料が取られるだけで抖音に出品をする方を選ぶからだ。

実際、アリババのCustomer Management収入(販売業者からの広告収入、タオバオライブなどでの送客手数料など)は、伸び悩みを見せるようになり、2021年第4四半期には初めてのマイナス成長となった。

▲中国版TikTok「抖音」では商品紹介のショートムービーをタップすると、購入ページがポップアップされ商品が購入できる。この商品は、タオバオで販売されている商品であることが多い。これにより、多くの販売業者がタオバオに広告を出すよりも、抖音にショートムービーを配信するようになっている。

 

アリババ直営の新小売スーパー事業は好調

一方で、アリババの実体自営店舗である新小売スーパー「盒馬鮮生」(フーマフレッシュ)、ネットスーパーの実体店舗「天猫スーパー」(Tmallマート)などの自営店舗の売上であるOther収入が伸び、2021Q4には、Customer Management収入の68%にまで伸びている。成長率で見ると、常にオンラインの収入の伸び率を上回ってきた。

このようなことから、オンライン小売をテコ入れするためにも、自営店の出店が必要だと判断をしたようだ。

アリババは、この天猫自営旗艦店でユーザー体験のお手本を示し、販売業者には猫享自営旗艦店に商品を卸すことでアリババの新しいビジネスモデルに参加ができるようになっている。自営店舗でお手本モデルを示し、タオバオ、Tmall全体の体験の質を上げていこうとしているのか、それとも自営店の売上を伸ばし、販売業者を整理しながら自営店方式に移行しようとしているのかは、現段階ではわからない。

いずれにしても、アリババのビジネスモデルに大きな変化が生じたことになる。

▲アリババのCustomer Management収入(EC運営収入)とOthers収入(小売店運営収入)の推移。オンライン収入が伸び悩む中で、オフライン収入が伸びてきている。

▲Customer Management収入(オンライン)とOthers収入(オフライン)の前年比の推移。常にオフライン収入の方が成長しており、オンライン収入は2021年10月12月期についに前年減を記録した。