中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

10億DAUを達成したショートムービー「快手」が海外進出を本格化。ブラジルとインドネシアでTikTokと激突

これまで3回、海外進出に挑戦をして成果を出すことができなかった「快手」。4回目の海外進出が本格化をしている。ねらうのはブラジルとインドネシアで、この2国を起点に南米と東南アジアに広げていく戦略だ。すでに両国では、TikTokとの競争が激化をしていると極点商業が報じた。

 

10億人クラブに入会したショートムービー「快手」

中国版TikTok「抖音」(ドウイン)のライバルであるショートムービーサービス「快手」(クワイショウ)。その創業者である宿華(スー・ホワ)CEOが、快手のグローバルでの月間アクティブユーザー数(MAU)が10億人を突破したことを公表した。これで、10億MAUを超える中国テック企業は、騰訊(テンセント)、アリババ、バイトダンスに続いて4社目となる。

 

国際市場ではTikTokに差をつけられている快手

快手の10億MAUは海外版の貢献も大きく、現在海外からのMAUは1.5億人を突破している。しかし、ライバルである抖音と比べると大きく見劣りをしている。抖音は国際版がTikTokであり、中国国内版と国際版を分離している。TikTokのMAUは12億人を突破しており、中国国内では抖音と快手が好敵手となっているが、海外市場ではTikTokのライバルになり得ていない。

実際、快手はブラジル、インドネシアなどではTikTokに対抗できているが、その他の国ではTikTokが優勢で、快手の存在感はほとんどなくなっている。

 

中国には地球の人口の1/5しかいない

この違いは、両社の海外進出の想いの強さから生まれている。バイトダンスの創業者、張一鳴(ジャン・イーミン)は、抖音のリリース時から「中国には世界のインターネット人口の1/5しかいない」と言って、海外進出を真剣に考えていた。一方、快手にそのような海外進出志向はなく、TikTokが海外でユーザーを獲得する状況を見て、それを後追いするように海外進出を始めた。この違いが大きい。

 

インフルエンサーに頼りすぎた海外進出戦略

快手が海外進出を始めたのは2017年。バイトダンスで海外戦略の責任者を務めていた劉新華を招き入れ、海外運営チームを結成し、国際版アプリ「Kwai」をタイ、ロシア、インド、韓国、インドネシアでリリースし、試験運営を始めた。

このうち、韓国、ロシア、インドでは好評だった。しかし、その方法は乱暴なものだった。金でユーザーを買ったのだ。例えば、韓国では、ビッグバンのG-DRAGON、IUなどのアーティストと契約をして、快手での発信をしてもらった。このような芸能人に報酬を払って発信をしてもらうことで、ユーザー数を獲得するというものだった。韓国では、アプリダウンロード数で第1位になったこともある。

しかし、芸能人との契約期間が終わるとユーザーは快手を利用しなくなる。すぐにリピート率とアクティブユーザー数が下がり始め、縮小モードに入ってしまった。

f:id:tamakino:20210728095755p:plain

インドネシアで受け入れられている快手の国際版「Kwai」。DAUは2300万人を超えている。

 

Musical.ly買収がTikTokの飛躍を生んだ

この頃、バイトダンスは10億ドルを費やしてMusical.lyを買収した。中国版であった抖音とMusical.lyを融合したのがTikTokとなる。Musical.lyは音楽に乗せて、自分が主人公になったミュージックビデオを作れるというアプリで、根強い人気があった。このMusical.lyを取り込むことで、TikTokはただのショートムービー共有サービスではなく、音楽やダンスと高い親和性のあるサービスだと見られるようになり、グローバルダウンロードランキングで5位以内に入るようになる。

一方、快手は資金を投下したときにのみユーザー数が増え、資金投下を止めると縮小するということを繰り返し、海外進出の失敗を認め、Kwaiの配信を停止、海外運営チームは解散をし、責任者の劉新華は辞職をすることになった。

その後も快手は海外進出に挑戦をしているが、華々しい成果はあげられていない。

 

「技術を輸出し、運営は現地」のTikTok

この明暗を分けたのは、バイトダンスの「技術は輸出をし、運営は現地で」という方針がうまくいったためだ。Musical.lyの買収提案も、米国の運営チームから「将来のライバルになる」という提案を受けて決定された。現地に運営チームを置くことで、その国の文化や流行を肌で感じているスタッフが立案をするために、多くの国でTikTokが中国アプリであるという感覚は薄く、あたかも自国で生まれたサービスであるかのように受け入れられた。

一方で、快手は、海外運営チームは北京にあり、中国人と在中外国人により構成されていた。在中国の外国人は、中国人よりはその国の文化や流行に精通しているとは言うものの、中国に住んでいるため、最新流行を肌で感じられなくなっている。

f:id:tamakino:20210728095759p:plain

インドネシアでは、ラマダンの時期にTikTokを使うキャンペーンが行われた。TikTokは現地運営を基本としているため、その国の実情にあった運営が行われている。

 

4度目の海外進出作戦。ねらうのはブラジルとインドネシア

このような失敗から、快手は現在、4回目になる海外進出の計画を遂行中だ。10億ドルという膨大な予算を確保し、滴滴の国際業務COO、フェイスブックのエンジニアなどを引き抜いて、海外運営チームを構築している。

まず目標としているのは、ブラジルとインドネシアで、この両国を足場に南米と東南アジアに広げていく戦略だ。

インドネシアではすでに結果が出てきている。2021年5月には、インドネシアでのKwaiの日間アクティブユーザー数(DAU)が2300万人を超えた。現在、Kwaiが最も使われている国になった。

この状況を見て、バイトダンスもブラジルとインドネシアでのプロモーションを強化している。両者ともに新規ユーザーに登録をすると6ドルから20ドルに相当する奨励金がもらえるキャンペーンを行い、ユーザーの争奪戦が激しさを増している。バイトダンスはこの2国に1億ドルの予算をつけたが、上限は定めず、必要に応じて追加予算を確保するとしている。

 

南米と東南アジアでのショートムービー競争が激化している

ブラジルとインドネシアでのショートムービーサービスをどちらがとるのか。ブラジルは南米の、インドネシアは東南アジアの流行の発信地であり、この2国で買ったサービスが他国にも波及をしていくことを考えると、両社の競争はさらに激しさを増すと見られている。

日米欧では、ショートムービーと言えばTikTokという状況になっているが、それ以外の地域ではいつの間にか勢力図が大きく書き換えられているということもありえるかもしれない。