テンセントは、米国の建築設計事務所NBBJとともに、深圳大鏟湾にネットシティを建設する。約200万平米(東京ドーム40個分)という広大なもので、7年以内に完成をすると前瞻網が報じた。
ビッグデータでデザインをするコンピュテイショナルデザイン
NBBJは米国シアトルの設計事務所で、グーグル、アマゾン、サムスンなどのオフィスを手掛けている。中国では、アリペイ、テンセントの本社ビルを手掛けている。
その手法は、コンピュテイショナルデザインだと呼ばれる。その施設の利用者がどのような行動をするのかを大量のデータからシミュレートし、デザインを決定していくというデータ駆動型のデザイン手法を使っている。この感覚が、テック企業に歓迎されているのだ。
▲深圳大鏟湾の埋立地にテンセントのネットシティは建設される。年内に着工予定。
自然とデジタルが共生する都市
そのNBBJがテンセントと共同で、深圳市にネットシティを構築する。しかし、わかりやすいハイテクデザインにはならないようだ。「生命」を基本に置き、持続可能な都市を目指すという。
そのひとつが中国側から提出された「海綿都市」だ。雨水をすぐに排出してしまうんのではなく、都市が保持をし、有効利用する。海岸線には植林がされ、建築物の屋上は緑化される。
年内に着工し、7年以内に完成するという。
▲ネットシティは自然とデジタルの共生が大きなテーマになる。水と緑の多い完成予想図が公開されている。
グーグルはサイドウォークトロント計画を断念
テンセントは2017年末に、新社屋の利用を始めたばかり。この設計もNBBJだった。しかし、業務が拡大するテンセントでは、すぐにオフィスが不足するようになってしまった。当面は賃貸で間に合わすにしても、数年内にさらにオフィスビルを建築する必要があると判断された。
2017年10月、グーグル関連企業のサイドウォークラボが、トロントにスマートシティ「サイドウォークトロント」を建設すると発表した。12エーカー(4.8万平米)の街で、木造の高層ビルが建築されるというものだった。グーグルらしく住民の行動データを管理し、快適な生活を実現するというものだった。
しかし、住民の行動情報を取得することに対する批判、新型コロナウイルスの感染拡大により、今年2020年5月に、計画の停止が宣言されている。
この計画に、テンセントが刺激を受けたのだと見られている。
都市交通のデザインが大きく変わる
テンセントのネットシティは、都市交通のデザインがポイントになるようだ。一般的な中国の都市では、自動車の通行が優先され、都市のデザインは、東西の直線道路と環状道路で構成されるのが一般的だ。しかし、ネットシティでは、近距離の移動は徒歩、中距離は自転車、長距離は地下鉄が基本になり、直線道路がなくなり、ブロックごとで生活が完結するデザインとなるようだ。また、EV、通勤EVバスなどは地下道路を通行し、地表の歩行者と分離される。
▲従来の都市設計は、車を優先して道路を先にデザインするものだった。ネットシティでは、人の動き、心地よさなどを優先して設計される。
日本のウーブンシティのライバルとなるか
このような複雑な都市デザインを構築するのに、NBBJのコンピュテイショナルデザインが役に立つ。移動ルートが複雑になることは、居住者の利便性を損なってしまうことになるが、小さなブロックで生活が完結するようにし、移動距離そのものを短くする。それにより、都市全体の交通渋滞や混雑によるストレスを緩和することができる。
これを実現するために、データシミュレーションを重ねるコンピュテイショナルデザインが有効だという。
2020年初頭、トヨタは静岡県裾野市にウーブンシティを建設することを発表した。米国でもサイドウォークトロントの計画は中断したが、同様のスマートシティ計画は今後も出てくることになる。日米中は、スマートシティで競い合うことになる。
▲長距離都市交通は地下に納められ、地上は歩行者が主体となる。コンパクトな範囲で生活が完結するようにし、移動距離を短くする設計が行われる。