中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

WeChatミニプログラムの開発コストは、アプリの1/2。ミニプログラムが主役になる時代が始まっている

WeChatミニプログラムが広がりを見せ、小売店などがモバイルオーダー、店舗ECなどを実現するタッチポイントとして、ウェブ、アプリからミニプログラムを利用する流れが強まっている。これまでのスマホはアプリ配信をしているアップルとグーグルの影響力が絶大だったが、中国ではそれがミニプログラムを配信するWeChat(テンセント)やバイトダンスに移り始めていると第1霊感が報じた。

 

売店はミニプログラムが主流となる

中国ではすでにネイティブアプリの時代が終わろうとしているかもしれない。テンセントのWeChatが始めたミニプログラムが好調で、特に小売業ではアプリからミニプログラムへの転換が起きている。

小売業が消費者とのオンラインタッチポイントを作るには3つのチャンネルがある。ひとつは現在一般的なネイティブアプリ、もうひとつはHTML5を使ったウェブ(ウェブアプリ化が可能)、そしてもうひとつがミニプログラムだ。

ミニプログラムは、SNS「WeChat」の中で起動できるアプリ内アプリのようなもので、ネイティブアプリのように事前にインストールする必要がない。また、WeChatのアカウントがそのまま流用されるので、アカウントを作る必要もない。決済方法は自動的にWeChatペイが使われるので、設定の必要もない。さらに、ウェブに比べて探しやすい。WeChatの中でミニプログラムだけを検索できるので、余計なウェブが出てこないため、すぐに見つかる。また、ミニプログラム専用の二次元コードも用意されているので、これをWeChatでスキャンしてもいい。

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▲テンセントが利用しているミニプログラム専用二次元コード。WeChatからこの二次元コードをスキャンすると、ダイレクトに特定のミニプログラムを表示することができる。

 

開発コストも小さいミニプログラム

小売業者から見ると、アカウント登録不要で使ってもらえるので、新規顧客の獲得がしやすい。WeChatアカウントでのアクセスとなるので、いわゆる捨てアカウントなどを利用した荒らし、攻撃などの確率も低い。リピーターをどう育成していくかという問題は残るが、それはネイティブアプリにもウェブアプリにも共通した問題だ。

さらに、開発経費が抑えられ、開発期間も短いというメリットがある。アプリでは最低でも10万元、一般的には数十万元の開発費が必要になるが、ミニプログラムの開発費用は圧倒的に小さい。また、開発期間も短いので、商機を逸することが少ない。

このような理由から、消費者はミニプログラムを使うようになり、業者もミニプログラムにシフトする流れが起きている。ミニプログラムは、WeChatだけでなく、アリペイ、百度、今日頭条など主要アプリが導入をしている。

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▲ランキンコーヒーのWeChatミニプログラム。内容はウェブやアプリとほぼ同じことができる。WeChatアカウントを利用するので、アカウント登録やログインは不要、決済方式は自動的にWeChatペイが利用されるという利便性がある。


利用契約料はわずか300元

では、ミニプログラムを開発するにはいくらぐらいの費用が必要になるのだろうか。もちろん、内容をどうするかによって大きく変わってくるが、第1霊感は、あくまでも一般的なミニプログラムの目安を掲載している。

まず、ミニプログラムをWeChatで公開するには、テンセントと法人契約を結ぶ必要がある。この法人契約の最も低価格の契約は300元(約4500円)。後は、ミニプログラムを用意すれば、ミニプログラムを公開できる。

 

ネットショッププラットフォームもミニプログラムに対応済み

ミニプログラムを開発するには主に3通りの方法がある。

1)ネットショッププラットフォームに加入する:誰でもネットショップが開けるプラットフォーム。パターン化されたミニプログラムを利用することができる。

2)雛形サービスを利用する:何種類か用意されたミニプログラムの雛形を購入して、カスタマイズをする

3)委託開発を行う:費用はかかるが、自由にミニプログラムを設計することができる。

プラットフォームを利用する場合、「微店」「微盟」「有賛」などがある。商品さえ用意すれば、すぐにネットショップが始められるプラットフォームだ。ミニプログラムもパターン化されたものから選ぶ形で制作できる。利用料は年に4800元(約7万2000円)ぐらいから。

 

雛形を利用して、自分でカスタマイズすることも可能

ミニプログラムの雛形も販売をされている。その中から自分の目的に合ったものを購入して、修正をするという方法もある。価格はなぜか9888元(約15万円)というケースが多い。

WeChatミニプログラムの場合、テンセントが開発ツールを提供していて、開発言語は「WXML」「WXSS」「Javascript」の3つ。WXMLはWeChatの中国名である「微信」(Weixin)用のHTMLで、ほぼHTMLと同じ。WXSSもWeixin用のCSSでほぼ同じ。つまり、HTML/CSS/Javascriptというセットで、ウェブやウェブアプリの開発経験がある人であれば、雛形を使って修正し、カスタマイズをすることができる。UIや決済などはWeChatがAPIを用意している。

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▲WeChatミニプログラムの開発環境。オリジナルの言語とはいえ、HTML/CSS/Javascriptとほぼ同じなので、ウェブ開発の経験がある人であれば、簡単にコーディングできる。

 

委託開発の費用は、ネイティブアプリの半分程度の感覚

委託開発に関しては、費用はさまざまになるが、一般的には6人チームで2カ月で開発をするというのが標準になる。

6人チームは「プロダクトマネージャー」「デザイナー」「フロントエンドエンジニア」「バックエンドエンジニア×2」「テスター」という構成が一般的だ。いずれもウェブアプリの開発経験があればよく、技術的難易度は高くないので、開発経験が3年から5年程度あればじゅうぶん。標準的な人件費は1人月2万元だ。つまり、2×6×2=24万元(約360万円)程度が必要になる。だいたいネイティブアプリ開発の半分程度の感覚だ。

 

アプリの時代は終わり、ミニプログラムの時代へ

24万元という投資は、個人商店にとっては捻出が厳しい額だが、チェーン展開する企業にとっては低コストに感じるはず。このようなことから、アプリをリリースしている企業は、アプリの新規開発をやめて、ミニプログラムに移行するところが増えている。もちろん、ミニアプリにどこまでの機能を盛り込むかによって、費用は大きく違ってくる。

また、個人商店であっても、プラットフォームや雛形を利用することで、低コストでミニプログラムを公開できることから、個人商店のミニプログラムも今後増えていくと見られている。

中国の小売店にとって、消費者とのタッチポイントを作るのにはミニプログラムが最も適しており、わざわざネイティブアプリや、さらにはウェブすら開発して公開する意味が薄くなっている。特に、中国人のほぼ全員が利用しているWeChat内で利用できるWeChatミニプログラムは、アプリやウェブよりも流量を獲得しやすい。

ウェブはともかく、小売業の世界ではアプリの時代が終わり、ミニプログラムの時代になっていくのはほぼ決定的だと思われる。アプリ配信を行なっていたアップルやグーグルの影響力が弱まり、ミニプログラムを配信するテンセント、バイトダンスなどの影響力が高まっていくことになる。