中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

中国でも増えるフリーランスITエンジニア。WeChatミニプログラムが生存空間を創出した

中国でもフリーランスのITエンジニアが増えてきている。その多くが、WeChatミニプログラムの開発に携わっている。技術的なハードルは低く、大学に進学できなかった人にもチャンスが生まれていると深圳特区報が報じた。

 

中国でも認知されてきたフリーランスエンジニア「野生碼農」

深圳市郊外には無数のスタートアップパークがある。といっても、その多くはビルであり、中は1間間口の小部屋がずらりと並んでいる。起業を考えている人は、家賃の安いこのような場所を最初のオフィスとし、投資家がついたら、本格的なオフィスに転居をする。つまり、このような場所に長くいる人は、成功のきっかけをつかむことができない人ということになる。

しかし、最近、このようなスタートアップに長期間入居する人が目立つようになってきた。フリーランスのエンジニアだ。中国でITエンジニアやプログラマーは、自虐的に「碼農」(マーノン)と呼ばれることがある。碼はコードのことで、コードを生産する農家という意味だ。

また、このようなフリーランスエンジニアたちは、自分たちのことを「野生碼農」と呼ぶ。

 

独学でフリーランスエンジニアになる人々

野生碼農となった24歳の趙洋さんは、高校卒業後、大工の仕事をしていた。「大工の仕事は、技術も技能も必要なく、単に体力勝負でした」。そのまま大工の仕事を続けていくことに不安を覚えた趙洋さんは、数ヶ月間、コンピューターの専門学校に通い、野生碼農となり、スタートアップパークにオフィスを持った。

ここには、趙洋さんと似たような経歴の人がたくさんいる。30歳の徐精華さんは、レンガ運びの仕事、スーパーの在庫管理の仕事、工場の工員などをやってきて、将来にわたってできる仕事として、専門学校に通い、野生碼農になった。

張宇さんは、専門高校を卒業後、光ファイバーの敷設の仕事をした。その後、電子機器メーカーの設備関連の仕事についた。ITエンジニアになりたくて、電子系の専門高校に進学をしたのに、実際にある仕事は設備関連のものばかりだった。そこで、独学をして、野生碼農になった。

このスタートアップパークだけでも、このような野生碼農は少なくとも10人以上はいる。

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▲疫況を開発した洪俊瑶さん。ボランティアベースのWeChatミニプログラムを開発して、多くの人と知り合いになり、現在では個人ではこなしきれないほどの仕事が舞い込んでいる。

 

WeChatミニプログラムがフリーランスの居場所を作っている

本人が自分でフリーランスエンジニアを名乗ることは自由だが、それで食べていけるかどうかは別問題だ。

しかし、そのハードルは著しく下がっている。なぜなら、多くのテック企業がAPIを開放し、野生碼農でも利用することができる。アイディアさえあれば、1人でも世の中から必要とされるソフトウェアを開発することができる。例えば、地図アプリを開発した企業が、地図表示のAPIを開放していれば、1人でも地図上に何らかの情報を表示するアプリやウェブを開発することができる。

さらに、テンセントのWeChatミニプログラムが野生碼農の生存空間を生み出した。ミニプログラムを開発して公開することは、ネイティブアプリやウェブアプリよりも敷居が低い。

 

ボランティアベースのミニプログラムも登場

野生碼農の洪俊瑶さんは、2020年のコロナ禍が激しい2月1日に、「疫況」(イークワン)というWeChatミニプログラムを個人で公開した。公的な情報からコロナ陽性患者が発生した場所の情報を地図上にポイントし、利用者の現在地からの距離を表示するというものだ。他に同様のアプリが存在しなかったこともあって、疫況はわずか数日で100万回以上利用され、現在利用者数は3500万人を超えている。

洪俊瑶さんは、1月31日の夜に、深圳市の衛生健康委員会が陽性患者が発生した場所の情報を公開しているのを知った。しかし、テキスト情報であったためにわかりづらい。地図上にポイントをし、可視化をしたいと思った。

すぐにWeChatミニプログラムのコードを書き始め、夜中の3時には、WeChatミニプログラム公開の申請を行った。

しかし、当局が公開する情報を手入力でポイントをしていくしか方法がないため、1人では深圳市と広東省の主要都市の情報を入力するのが精一杯だった。そこに科学メディア「少数派」の創業者、老麦がSNSで連絡をとってきた。「何か手伝えることはないか?」と言う。老麦とは面識はなかったが、洪俊瑶さんは渡りに船とばかり、入力の問題を相談した。老麦はメディアで訴え、すぐに100人の入力ボランティアが集まった。これで、疫況は全国の情報を表示できるようになり、コロナ禍で重要なミニプログラムのひとつとなった。

洪俊瑶さんは有名な存在となり、1人ではこなしきれないほどの仕事が舞い込んでいる。

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▲ボランティアベースで運用されているWeChatミニプログラム「疫況」。陽性患者が発生した場所を地図上に表示してくれるというもの。感染拡大の厳しかった2020年2月に公開されたため、多くの人が利用した。

 

WeChatミニプログラムの登場で生まれたフリーランスエンジニア

WeChatミニプログラム関連の開発、運用に従事しているITエンジニアは、2020年には780万人となり、2019年から45.6%も増加をしている。その中には大学に進学をせず、専門高校出身者や専門学校、独学という人も増えている。

WeChatミニプログラムは、小売業の変革に大きな影響を与えたが、ITエンジニアの世界にも大きな影響を与えている。