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利用者が一気に10倍。アリペイミニプログラムが中心化+分散化モデルでWeChatミニプログラムを追撃開始

WeChatが始めたミニプログラムが、飲食店、小売店、生活サービスなどの分野で重要なツールとなっている。一方で、追従するアリペイ、百度、Tik Tokなどは成果がなかなか上がらなかったが、アリペイミニプログラムの中から勢いのあるミニプログラムが現れ始めていると略大参考が報じた。

 

経済回復に大きく貢献しているWeChatミニプログラム

中国の経済が回復をしている。2020年Q1は-6.8%と大きく落ち込んだが、Q2には+3.2%と成長側に戻した。さらに「2020年下半期マクロ経済展望報告」(植信投資研究院)によると、Q3、Q4はそれぞれ7.0%、7.8%になると予測されている。

この経済の回復に寄与しているのがミニプログラムだ。ミニプログラムは、2016年にテンセントのWeChatが搭載した機能。WeChatの中からのみ利用できるウェブアプリだ。一般のネイティブアプリと比べて、インストールする必要がない、アカウント登録が必要ない(WeChatアカウントが使われる)、決済方式の設定が必要ない(WeChatペイが使われる)ということから、初めてのサービスでも気軽に利用することができる。

飲食店、小売店などが続々とミニプログラムを公開し、新規顧客を獲得するツールとして活用し、現在240万件以上のミニプログラムが公開されている。また、テンセントによると、2019年の1日あたりのアクティブユーザー数は3億人を突破し、ミニプログラム経由の流通総額は8000億元(約12.5兆円)を超えた。

 

成功例が生まれ始めたアリペイミニプログラム

この成功を見て、2017年には、アリババのアリペイ、百度、Tik Tokなどが追従してミニプログラムに対応をした。しかし、即速応用の調査によると、2019年末時点のアリペイミニプログラムは20万件、百度ミニプログラムは15万件と低迷をしている。

ところが、アリペイミニプログラムの中から成功例が生まれてくるようになった。その鍵は、トラフィックの中心化と分散化をいかにうまく組み合わせるかにあった。アリペイでは、この仕組みを「扶優計画」と名付け、1000件の「スーパーミニプログラム」を生み出すと宣言している。

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▲アリペイミニプログラムが始めた「扶優計画」。市民センターなどの生活基本サービスメニューに選ばれたサービスを登録することで、利用しやすくなり、利用率が大きく上がるミニプログラムが現れてきている。


ミニプログラムで利用者が一気に10倍以上

2015年、古着を回収するビジネス「白鯨魚」がスタートした。当時としては、一般的な手法で、ウェブを開設し、検索をしてきてくれるお客さんを待つというものだった。しかし、無名のサービスが検索だけに頼って、お客さんを待つのでは、なかなか利用者が増えない。

2018年になって、アリペイから話があって、アリペイミニプログラムを開発をし公開をした。すると、一気に20万人の利用者を獲得した。1日の利用者も以前は2、300人程度であったものが、一気に4、5000人に増え、週末には1万人を超えるようになった。

創業者の方暁東によると、「私たちのビジネスは、古着を回収して、それを東南アジアやアフリカに販売することで利益を得るというものです。しかし、海外の市場は未発達なので利益はものすごく小さい。以前は、回収にかかるコストも賄えないほどでした。しかし、アリペイミニプログラムにより、大量の顧客を獲得することができ、利益が得られる道筋が見えてきました」。

コロナ禍により、利用は落ち込んだが、終息後はV字回復をしている。6月になると、1日の利用者は1.5万人となり、最も落ち込んだ2月の75倍にもなっている。

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▲古着回収をする「白鯨魚」のアリペイミニプログラム。アリペイに取り上げられ、利用者は一気に10倍以上に増えた。

 

起業してすぐ成功できるアリペイミニプログラム

同じようにアリペイミニプログラムで業績を大きく伸ばしたのが、引越しサービスの「易豊搬家」だ。2012年に創業したが、2020年4月からアリペイミニプログラムを公開した。わずか1ヶ月で、日間アクティブユーザー数(DAU)は、1月の10倍になった。

アリペイによると、今年の1月から3月で、アリペイミニプログラムは25万件も増加をした。倍増したことになる。しかも、その多くが起業したばかり、開始したばかりの企業、サービスで、アリペイミニプログラムの爆発力を活かして、成功するところが続々と登場しているという。

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▲引越しサービスの「易豊搬家」も、市民センターの中に登録されることで、利用者が大きく伸びている。アリペイでは、優れたサービスをメニュー化することで、ミニプログラム利用を促していく。

 

分散モデルのWeChatミニプログラムでは無名企業は成功できない

WeChatミニプログラムが成功したのは、月間アクティブユーザー数(MAU)が10億人を超えるという圧倒的なトラフィックがあることだ。この人たちが、各サービスのミニプログラムを利用するため、1つあたりのミニプログラム利用者も大きくなる。人通りの多い賑やかな通りに店舗を出したのと同じ効果がある。このように、WeChatが集めた巨大なトラフィックを各ミニプログラムに分配する方式は、分散モデルと呼ばれている。

しかし、この分散モデルには、大きな弱点がある。それは、利用者がWeChatの中でサービス名を入力して検索しなければならないということだ。そのため、無名の起業したばかりのサービスでは、利用者が集められないという弱点がある。

ネイティブアプリが開発できるほど資力のある企業は、アプリやウェブ、ライブ配信というマルチチャンネルを用意して、ミニプログラムに誘導することもできる。ミニプログラムにはリンク、二次元コードなども用意されていて、ダイレクトにアクセスする方法が用意されているからだ。

しかし、資力のない企業は、開発経費がアプリの1/2程度と言われるミニプログラムしか用意することができない。ミニプログラムをメインの消費者チャンネルにした場合、どうやって見つけてもらうかが大きな問題になる。

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▲WeChatミニプログラムは、原則、名称を検索してアクセスするので、無名のサービスはなかなか利用されない。現在地近くに店舗があるミニプログラムを検索する「付近を検索する」がよく使われる。

 

中心化+分散化モデルで成功するアリペイミニプログラム

ところが、アリペイミニプログラムを利用した白鯨魚の場合、すぐにトラフィックの90%がアリペイミニプログラムからのものとなった。

なぜ、アリペイミニプログラムでは、利用者に馴染みのないサービスでもトラフィックを獲得できるのか。これはアリペイで「中心化+分散化」モデルと呼ばれている手法が大きく貢献している。

アリペイは、決済アプリに特化をしていて、決済に関連するさまざまな生活サービスがメニュー化されている。チケット購入、タクシー配車、ホテル予約、光熱費支払い、フードデリバリーなど、生活に関連するサービスのほとんどがメニュー化されており、そこからサービスを利用してアリペイ決済ができるようになっている。

アリペイが始めた「扶優計画」とは、サービスの内容や品質などを審査して、優秀と思われるミニプログラムを、このメニューに登録するというものだ。

例に挙げた「白鯨魚」や「易豊搬家」は、「市民センター」というメニュー項目の中に登録された。古着を処分したいと考えているが、白鯨魚のことを知らない利用者は、とりあえずアリペイの市民センターを開く。そこで白鯨魚を発見して利用するということになる。アリペイではこれを中心化と呼んでいる。アリペイが集めたトラフィックをメニューに中心化したミニプログラムに配分をしていくので、中心化+分散化モデルと呼んでいる。

つまり、WeChatのミニプログラムはグーグル検索のようなもので、無名なサービスにとっては浮上するまでに相当の努力をする必要がある。一方で、アリペイミニプログラムはYahoo!のようなリスティングサイトのようなもので、メニュー階層をたどっていけばサービスにたどり着けるので、無名のサービスでも早い成長が可能になる。

また、すべてのミニプログラムが中心化(メニュー登録)されるわけではなく、アリペイが優秀と認めたものだけなので、利用者は未知のサービスであっても安心をして利用することができる。

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▲市民センターの中の「環境公益」メニュー。この中の古着環境保全回収の項目に、白鯨魚が登録されている。この中心化により、白鯨魚の利用者が大きく伸びた。

 

アリペイミニプログラムが競争力をつけてきた

アリペイでは、この「中心化+分散化」モデルを使った「扶優計画」で、生活関連サービスの1000のミニプログラムを市民センターなどのメニューに登録をし、消費者にとっては生活サービスを利用しやすくし、企業にとっては無名であっても、サービスの質がよければアリペイの「扶優計画」により、大きく成長できる可能性がある。この扶優計画による中心化を行ったミニプログラムは、利用者数が平均で4倍以上になっており、MAUが1万を超えるミニプログラムが毎週100件ペースで生まれているという。

ミニプログラム全体では、先行したWeChatに分があるのは言うまでもない。後発となったアリペイは、少数精鋭で優れたサービスを採用して、アリペイ自身のサービスを拡充していくという道を選んだ。ミニプログラムを使った企業にもメリットがあり、それがアリペイのサービスそのものも充実させていく。アリペイは、中心化+分散化モデルで、WeChatとは違った形で競い合おうとしている。