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WeChatミニプログラムがアプリ連携を遮断。アプリの時代が終わる

WeChatミニプログラムが、アプリを開く機能を削除した。今までは、WeChatミニプログラムを開いている状態から、タップすることなどで関連アプリを開くことができたが、この機能が利用できなくなる。ネイティブアプリの時代が終わり、WeChatミニプログラムの時代に移行することが鮮明になったと人人都是産品経理が報じた。

 

WeChatミニプログラムがアプリ連携を遮断

5月20日から、WeChatミニプログラム内からネイティブアプリを開く機能が削除されている。これにより、WeChatミニプログラムとアプリの連携ができなくなるため、多くの利用者やミニプログラム運営者からは不満も出ているが、テンセントは「ユーザー体験をよりよくするため」と説明している。

WeChatミニプログラムは、テンセントのSNS微信」(ウェイシン、WeChat)の中で開けるアプリ内アプリ。技術的にはウェブアプリをベースにしている。ネイティブアプリと異なり「インストール不要」「アカウント登録不要」「決済方式設定不要」という利点があるため、ファストフードやカフェ、フードデリバリー、ECなどの多くが、アプリではなくWeChatミニプログラムを公開し、顧客との接点に利用している。

アプリでモバイルオーダーをさせるためには、利用者にアプリをインストールしてもらい、自社のアカウントを作成してもらい、自社が対応しているキャッシュレス決済を設定してもらう必要がある。しかし、WeChatミニプログラムであれば、WeChatの中で自社名を検索してもらう、専用の二次元コードをスキャンするなどの方法で、自社のWeChatミニプログラムを開いてもらえば、アカウントはWeChatアカウント、決済はWeChatペイで、すぐに注文ができる。新規の顧客を取り込みやすいことから、多くのtoC企業がWeChatミニプログラムを開設している。

すでに、WeChatミニプログラムは380万件以上が公開され、日間アクティブユーザー数(DAU)は4億人、月間アクティブユーザー数は8.3億人となっている。

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▲WeChatミニプログラム内からアプリを開こうとすると、以前は「WeChatを離れ、○○を開きます」というダイアログが現れ、「許可」を選ぶとアプリを開くことができたが、現在はこの許可ボタンがタップできない状態になっている。

 

必要な時に先回りして必要な機能が表示される世界観

WeChatミニプログラムを考案したのは、テンセントの張小龍(ジャン・シャオロン)。WeChatそのものも張小龍が開発したもので、テンセントはPCベースのSNS「QQ」で大成功をしていたが、それを捨てて、スマホ用のWeChatに転換をした。この転換が、今日のテンセントのビジネスの基礎となっており、張小龍はテンセントのスターエンジニアとなった。

張小龍は、そもそもスマートフォンアプリに否定的だった。いちいちアプリストアからダウンロードをして入れておかなければならず、そのうち、スマホの中はアプリで溢れ、必要なアプリを見つけるのにも検索をしなければならなくなるだろう。人は、1日に20箇所のウェブを見ることはたやすいが、1日に20のアプリを使うのは難しい。

張小龍が描いていたスマホの理想的な姿とは次のようなものだ。テーマパークに行って、入り口の付近にいるときにスマホを取り出すと、すでにテーマパークのチケット購入の画面が現れている。そこで購入をすると、それがそのまま電子チケットになり、テーパークの中に入れる。帰るときにスマホを取り出すと、タクシー配車の画面がすでに表示されており、タップするだけタクシーが呼べる。あるいは駅でスマホを取り出すと、乗車画面が現れ、それを改札にかざすことで地下鉄に乗れる。つまり、必要な時に、必要な機能が先回りをして自動的に現れるという世界観だ。この発想が、WeChatミニプログラムの開発につながった。

 

ミニプログラムの唯一の欠点はサイズ制限

WeChatミニプログラムの唯一の欠点は、起動するたびにウェブアプリをネットから読み込むということだ。そのため、WeChatミニプログラムのサイズは2メガバイト以内に収めることが推奨されている。それ以上のサイズになると、利用者がWeChatミニプログラムを開いた時に待ち時間が生まれてしまい、ユーザー体験が悪くなるからだ。

そのため、アプリとは異なり、データサイズを減らす工夫が必要になる。例えば、ニュース記事サイトの場合、ニュース記事の内容は逐一読み込めばいいが、読者がつけるコメントのデータは膨大になるので、主要なもののみを表示するにしているケースも多い。この場合、WeChatミニプログラム内にアプリを開くボタンをつけ、コメントを詳細に読みたい場合はアプリに移行するということができていた。それができなくなる。

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▲ソーシャルEC「拼多多」のWeChatミニプログラム(左)とアプリの画面(右)。ECのようなものだと、WeChatミニプログラムでもアプリでも使い勝手に大きな違いはない。WeChatミニプログラムの方が利便性が高い。

 

利用者分析データをテンセントに握られてしまう

また、toC企業では、WeChatミニプログラムはWeChatアカウントで利用できるため、新規顧客を集めやすいが、会員情報はテンセントに抑えられてしまう。大手チェーンでは、独自の会員制度に誘導をしたいと考えるところも多い。そのため、WeChatミニプログラム内にアプリをインストール、開くのボタンをつけ、アプリで独自の会員登録をすると何らかのリワードが与えられる施策を行ない、アプリ独自会員に誘導するということを行なっていたところもある。今後はそれもできなくなる。

 

WeChatの流量を利用するには公式アカウントの取得が必須となる

しかし、このような行為はテンセントから見れば不公正なものに映る。WeChatミニプログラムが普及をしたのは、何よりもWeChatそのものが国民的インフラとなり、驚異的なトラフィックプールとなっているからだ。この状態を作り上げるために、テンセントは大きな努力をしてきた。それを、各企業が自社のアプリに誘導するのは、窃盗にも等しい行為に映るだろう。

テンセントは、WeChatの各業者の公式アカウントのメッセージ内にアプリへのリンクを貼ることは禁じていない。自社のアプリに誘導したいのであれば、WeChatの公式アカウントを取得し、そこからアプリに誘導するように促している。

しかし、これで、WeChatミニプログラムとアプリをシームレスに使うということができなくなり、WeChatミニプログラムとアプリの間に壁ができることになる。アクションゲームなどのリッチコンテンツは、今後もアプリを利用し続けることになるが、生活サービス系のアプリは、WeChatミニプログラムに移行して行かざるを得なくなった。もはや、自分のスマホに大量のアプリを入れておく時代は終わったのかもしなれい。