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中国を中心にしたアジアのテック最新事情

終わる海外旅行での「爆買い」。代理購入から越境ECへ

2019年1月から中国電子商務法が施行された。ネットで物品を販売するには、個人であっても営業許可が必要となり、海外から仕入れたものはすべて関税を支払わなければならなくなった。違反をすると、刑事罰が科せられ、罰金は最高で200万元以上になる。この法律の施行で、代理購入をしている業者がほぼ消えると見られていると藍媒滙が報じた。

 

爆買いの実態は、お土産ではなく転売

日本で数年前まで話題になっていた中国人の「爆買い」。ニュースでも炊飯器やシャワートイレ、日本製の漢方薬などを大量に買っていく訪日中国人の姿が報じられていたのを覚えている方もいるだろう。もちろん、中国人は親戚の数が多く、親戚や友人に旅行のお土産として買っていくという面もあった。しかし、多くは代理購入ビジネスで、中国でSNSなどを使って売りさばくことが目的だった。

このような代理購入のルートは2つある。ひとつは本人が海外旅行に行き、大量購入をし、持ち帰り、中国で売りさばく。もうひとつは、中国国内と海外在住者が連携をし、国際宅配便を使って中国国内に送り、売りさばくというもの。

ポイントは個人の荷物であるという体裁を取るので、税関に引っかかることが少なく、関税を支払わないで済むということだ。

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▲代理購入は、サプリメントや食品など、ドラッグストアで販売されている商品のうち単価の高いものが中心になっている。このような商品を現地で買い、あるいは現地から宅配便で送り、個人の荷物という建前で関税逃れをして、中国国内で売りさばくという商売が爆買いを支えていた。

 

越境ECサイトの発展により、下火になる爆買い

しかし、このような代理購入ビジネスは次第に下火になっていった。アリババのTmallインターナショナルなどの越境ECサイトが登場してきたからだ。越境ECサイトではもちろん関税を支払っているので、個人の代理購入よりは仕入れ価格は高くなる。しかし、代理購入は関税分以上に自分の利益を乗せるので、結局、越境ECサイトと価格は変わらない。

多くの人が、怪しげな代理購入業者から買うよりは、きちんとした越境ECサイトから買うようになる。実際、個人の代理購入では、偽ブランド品であった、破損していたというトラブルが絶えない。

こうして、代理購入業者は次第に少なくなり、現地での「爆買い」は見られなくなり、旅行者が自分のためのお土産を買っていくという正常な状態になっている。中国で売れる化粧品を作っているメーカーなどでは、すでに日本の小売店での「爆買い」はあてにしておらず、中国越境ECサイトに軸足を移している。

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▲ブランドの服飾品なども爆買いの対象になっていた。単価が高いので、利幅が大きい。宅配便で送った場合は、関税で発覚し、関税を取れる確率が高いので、海外旅行にいって現地で買い付け、「個人の荷物」だという建前で中国国内に持ち込む。

 

監視を強めるSNS運営

このような代理購入業者は、WeChatなどのSNSを使って宣伝をし、連絡をしてきた客との間で個人売買の体裁をとって販売をしている。中国電子商務法では、このようなネットでの個人売買であっても、営業許可が必要だとしている。

また、WeChatなどのSNS運営会社では、無許可営業に対する監視を強めている。商品名の単語や商品の写真で検索監視をし、無許可営業が発覚した場合は、販売業者、購入者双方のアカウントを停止する。さらに、場合によってアリペイやWeChatペイのスマホ決済のアカウントも停止されることがあるという。

このため、中国電子商務法施行後、このような代理購入はすっかり影を潜めた。一部ではまだ行われているが、商品名を変えたり、写真の代わりに手書きの絵を載せるなど苦しい工夫をしている。

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▲代理購入業者は、SNSで顧客を探す。しかし、各SNS運営では商品写真や商品名で検索をし、代理購入をしている人のアカウントの凍結を始めている。そのため、商品写真ではく、手書きの絵を掲載して購入者を探す代理購入業者が登場した。

 

関税逃れがメリットだった爆買い

小琳は、韓国、日本、タイの化粧品、服、粉ミルクを代理購入して5年になる。収入は毎月数万元(数十万円)あったという。

「以前は、税関で箱が開けられるのは1割ぐらいでしたが、今では9割ぐらいが開けられます」という。関税は、商品の種類、量によっては免除されることもあり、小琳が扱っている商品の多くは単価の安いものなので、今までの関税を徴収されたことはないという。しかし、これからはわからない。

小琳は、韓国、日本、タイに友人がいるので、必要な商品を買ってもらって、国際宅配便で送ってもらっている。しかし、その友人たちの話では、自分が中国に帰るときにも、税関で自分の荷物が開けられ、関税を取られたことが増えているという。しかも、高価なブランド品の服では、売り物ではなく、何度も着た自分の服であっても関税を徴収されたという。

税関がかなり厳しくなっていることは間違いなく、代理購入した商品にも関税がかけられるようになると、利益が小さくなり、商売は厳しくなっていくと感じている。

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▲ある代理購入をする人。これだけのバッグを中国国内に持ち込み、税関では「自分のために買ったもの」と言い張り、関税を逃れる。税関も、今後は、規定通りに関税を徴収するようになる。

 

関税と手数料で個人では利益が出なくなる

玲玲は、英国で学ぶ留学生だが、生活費を稼ぐために英国の化粧品を代理購入して2年になる。学業の合間にビジネスをしているので、収入は一定しないが、平均すると月に数千元(数万円)程度だという。

国電子商務法が施行されると、業として大々的に輸入をしている業者は、当然営業許可を取得する。しかし、玲玲のようにアルバイト感覚で代理購入をしている者は、営業許可を取る手間もなかなかかけられない。頑張って営業許可を取ったとしても、個人で細々とビジネスを続けるのには限界を感じているという。

それは、代理購入は偽物の販売などのトラブルが多いため、個人の業者は顧客からなかなか信用してもらえず、何度もやり取りをしなければならず、手間ばかりがかかるからだ。その手間を減らすために、越境ECのプラットフォームに出品する手もあるが、かなりの手数料が取られるため、ほんとんど利益が出なくなってしまう。

結局、玲玲は単価の安いものだけに絞って様子を見ている。単価の高い商品は利幅も大きいが、送料も高くつき、税関で発覚して関税を取られる可能性が高いからだ。玲玲は実家に商品を送り、家族に販売を頼んでいるが、家族も最近ではこのビジネスを続けることに反対をしているという。

 

現地国と中国の両方の営業許可が必要になる

Nancyは、米国、欧州、ニュージーランドの日用品やベビー用品を大々的に代理購入して5年になる。年間で数百万元(数千万円)の収入があり、1000万元(約1.6億円)を超えた年もあった。しかし、この代理購入ビジネスはもう続けられないかもしれないと考えているという。

国電子商務法に則って、営業許可を取得するには、まず現地で輸出業者の営業許可を得ていることが条件になる。米国から中国に輸出をするのであれば、まず米国で輸出業者の営業許可を取り、それから中国でネット販売の営業許可を取る必要がある。これはNancyほど手広く代理購入をしている業者にとっても、手続きが面倒で、しかも時間のかかる作業になる。

現実的なのは、越境ECサイトに出品をすることだが、この場合は手数料が取られるので、利幅は大きく下がる。大量の商品の買い付け、発送処理、事務処理は人を雇わないともはや不可能だが、どうやっても越境ECサイトへの出品では利益がほとんどなくなってしまうのだ。

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▲海外のショップで、限定品などが発売されるときには、中国人が行列をすることが当たり前になってきている。中国人に人気があるというよりも、目的の多くは転売。現地の中国人が利益目的で並んでいる。

 

終わる代理購入と爆買い。今後は越境ECへ

結局、個人の代理購入業者は、ほとんど生きていく余地がなくなった。隠れて細々と続けることは不可能ではないが、SNSスマホ決済のアカウント停止や刑事罰のリスクを覚悟しなければならない。

今まで代理購入で利益を得てきた業者からはため息ばかりが聞こえてくるが、中国電子商務法の狙いは、個人の代理購入業者を排除することにあるのだから、これも仕方がないことだ。個人の代理購入業者では、関税逃れ、偽商品、顧客の個人情報の悪用、トラブル時の責任の所在など、数々の問題が起きていた。中国電子商務法は消費者保護の観点から、越境ECを大手の業者だけに絞ろうという法律なのだ。訪日中国人の「爆買い」はこれで完全に終わる。中国で商品を売るためには、正規のルートで越境ECに出品をするしかなくなる。