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今回は、越境EC「Temu」についてご紹介します。
日本でもサービスが開始されているTemu(ティームー)。ご存知のようにソーシャルEC「拼多多」(ピンドードー)の越境ECです。2022年9月に米国でサービスが提供されて以来、47カ国でサービスが開始され、2023年5月にはわずか10ヶ月で1億人のユーザーを獲得しました。これに刺激されてアリババのAliExpressも米国でのサービスに正式に対応をし、TikTokもショッピング機能を米国でスタートさせました。以前から格安アパレルで人気となっていたSHEIN(シーイン)と合わせて、米国では4つもの中国系越境ECが利用できる状況となりました。
どのくらいの流通総額(GMV)があるのか、拼多多は公表していませんが、報道によると、2023年の目標である150億ドル(約2.2兆円)はじゅうぶんに達成の見込みがあるようです。
▲eMarketerによる2021年のECのGMV世界ランキング(https://www.insiderintelligence.com/content/top-10-digital-retailers-worldwide)。Temuはわずか1年で上位10位にランクインが臨めるほどのGMVに達している。
2023年7月には日本と韓国でのサービスもスタートし、日本では121日で400万ダウンロードを達成し、400万ダウンロードを最も早く達成したアプリになりました。過去の記録では、アマゾンでも660日、メルカリでも427日、SHEINでも151日だったものを大きく塗り替えました。韓国でも88日で200万ダウンロードを達成、SHEINは382日、AliExpressでも366日かかっています。
Temuの最大の特徴は、驚くべき安さです。2023年2月、Temuはスーパーボウルで2本の30秒CMを流しました。そのコピーは「Shop like a billionaire」(億万長者のように買い物をしよう)です。
もちろん、億万長者のようにとはいきませんが、それに近い感覚で買い物が楽しめるようになります。日本のTemuの場合、送料は無料ですが、合計1400円以上の注文でなければなりません。購入するものは、失敗をしても痛くないキッチン雑貨、日用雑貨、ストレス軽減玩具などが多くなりますが、その多くが500円以下なのです。しかも、クーポンが大量にもらえ、セールも年中行われているため、いろいろ買っても1400円をなかなか超えません。だんだん「買おうかどうか迷ったら、とりあえずカートに入れておけ」という気分になってきます。億万長者の買い物とは、スケールこそまるで違うとはいうものの、こんな気分なのかもしれません。成功した人がブティックに行って「この棚の商品全部」と言って買う気持ちが少し味わえます。
特に米国は、異常なインフレに見舞われていることもあって、普通の庶民にとってはTemuは非常にありがたいECとなりました。大きな影響を受けてしまったのが、ワンダラーショップ(1ドル均一ショップ)です。米国にも100円均一ショップと同じコンセプトのワンダラーショップがあって、「ダラー・ゼネラル」「ダラー・トゥリー」の2つのチェーンが大きな影響を受けていると言われます。特にダラー・ゼネラルは1939年に創業、1968年に上場、米国とメキシコで1.9万店舗を展開という老舗企業です。
株価を見てみると、コロナ禍に入って株価が上昇し続けました。ダラー・ジェネラルの顧客である中流から下の層は、エッセンシャルワーカーが多く、それまでスーパーや百貨店で買っていたものをダラー・ゼネラルで買うようになったからです。ところが、ちょうどTemuが米国上陸をし、成果を見せ始めた2023年から株価が下落の一途をたどっています。Temuの影響であることは間違いありません。インフレが続く米国で、物価の上昇に賃金の上昇が追いつかない脱落層が生まれています。そのような人たちがTemuやSHEINで買い物をしているのだと思われます。
▲ダラー・ゼネラルの株価の推移。Temuがサービスを始めた2023年から株価が大きく下がっている。
拼多多の越境EC、中国製品の海外販売で、驚くほど安いと言うと、多くの人が「安くても品質の悪い製品」と反射的に連想をしてしまうでしょう。しかし、Temuではこの考えを改めなければなりません。何を買っても、普通に品質がいいのです。もちろん、アップルやパナソニックの製品のように「手にとっただけで高品質であることがわかる」わけではありません。ごく標準的な品質です。それは、私たちがショッピングモールの雑貨ショップや家電量販店で購入するのと同じレベルの品質です。それでいて、価格は半分以下から、下手をすると1/10程度なのです。
もちろん、中国のすべてのメーカーが高品質のものをつくるようになったということではありません。上位メーカーは標準品質のものをつくれるようになったけど、粗悪品しかつくれないメーカーもまだまだ存在します。そのような粗悪品しかつくれないメーカーはまともにやっても売ることができないため、大手メーカーに名前を似せたり、ウェブページの商品紹介ページで消費者の誤解を誘導したりして、なんとか売り切ってしまうしかありません。これが海外に輸出された場合に、「中国製品は質が悪い」と言われる原因になっています。
しかし、Temuにはこのような粗悪品がほとんどありません。ちょっとびっくりするほど安くて品質がいいのです。それはTemu本体がフィルタリングをしているからです。まれに低品質のものが販売されてしまうこともないわけではありませんが、消費者から返品やクレームが一定数に達すると、その商品の扱いを停止します。
AliExpressやアマゾンは、この排除の仕組みが徹底をしていません。そのため、粗悪品が販売されてしまうことがあり、しかもなかなか扱いが停止されません。Amazonのマーケットプレイスでは、クレームのあった商品、業者などの排除を行っていますが、まだまだ露骨な粗悪品が残っているようです。
例えば次のような商品です。
▲アマゾンの問題のある商品。16TBもの容量があるSSDだと勘違いをしてしまうが、実際の容量については記載がない。
「16TB」というのは容量ではなくて、商品名のようです。SSDは1TBでも1万円弱しますから、16TBのSSDがこの価格で購入できるのはありえません。しかも、商品の詳細情報のどこを見ても正確なストレージ容量が記載されていないので悪質です。
さらに、利用者も悪乗りして、評価の高いレビューをあえて書いているため、星4.7という高評価になっています。間違って購入してしまう人がけっこういるのではないでしょうか。
Temuでは、このような広告で消費者を惑わすような商品はすぐに排除されます。この仕組みをつくりあげたところがTemuの優れたところです。越境ECを成功させるにあたって、何が問題になるかを先回りして考え、そのようなことが起こらないECの仕組みを構築しました。このTemuの仕組みとはどのようなものか、これが今回のお話のテーマになります。今までにない、新しいECを構築しています。
このTemuの影響を直接受けたのが、米国のWish(ウィッシュ、https://www.wish.com/)です。Wishは、カナダ人と中国人により創業されたECです。Wishの創業者は中国にいる時代に、淘宝網(タオバオ)を利用していました。その後、米国に住むようになりタオバオが使えなくなり、米国人のためのタオバオ代理購入の仕組みを構築します。つまり、WishはECのように見えて、実は注文を取り次ぐだけなのです。
それでも、タオバオの業者にしてみれば、簡単な作業で米国に販売できることになります。ところが、米国の消費者と中国の販売業者の取次をするだけなので、粗悪な商品も販売してしまいトラブルになっています。米国やフランスで、たびたび品質の改善を求める指導を受けています。
Temuは、このような状況を見ていたこともあって、越境ECでは品質を担保する仕組みを導入しています。しかし、米国の中には中華脅威論があって、Temuについてもなんとか排除をしようとする人たちがいます。「Fast Fashion and the Uyghur Genocide: Interim Findings」(ファストファッションとウイグル人虐殺:暫定的な知見)という刺激的なタイトルで、レポートをまとめたのは、米国下院の超党派の中国共産党特別委員会です。
▲米国下院の超党派委員会が提出したTemuなどに関するレポート。デ・ミニミス・プロビジョンを悪用しているため、低価格を実現しているとしている。
この中で、Temuは「デ・ミニミス・プロビジョン」に基づいたビジネスモデルで低価格を実現していると指摘されています。デ・ミニミスとは「些細なこと」といった意味で、米国の税関では個人向け輸入品で内容物の価値が800ドル以下のものについては関税をかけないというルールがあります。
レポートによると、2022年には6.85億個の荷物が、このデ・ミニミス特例を使って米国に輸入されましたが、その30%はSHEINとTemuによるものだったそうです。そこで、このルールの上限を100ドルに下げる議論が米国下院で進められています。また、SHEINはウイグル人を強制労働させて生産した綿を使って衣類をつくっているため、なんらかの対応をすべきだとしています。
世の中にはいろいろな意見、主張を持つ方がいて、主張をするのは自由ですが、このルールの上限を100ドルに下げたとしたら、被害を受けるのは米国の税関職員ではないでしょうか。税関検査がすぐにパンクをします。また、米国市民も個人の荷物であっても関税を支払わなければならなくなり、不満を持つことになるでしょう。
一方、Temuは確かに関税を支払わなければならなくなり、価格を値上げしなくてはならなくなります。しかし、それは2割か3割程度のことです。米国の一般的なショップで50ドルで販売されているものが、Temuでは15ドルで販売されていて、これが20ドルになる程度の話です。Temuの安さは、関税程度では追いつかないほどの安さなのです。
では、どうして、Temuはこれだけ安く、なおかつ品質問題を起こさない越境ECを実現することができたのでしょうか。それは、ECの新しいビジネスモデルを構築したからです。拼多多は、一貫して低価格が最大の魅力ですが、「安物を安く売る」のではなく、「標準品を安く売る」ことができるようにしました。この拼多多の商品を海外に売るTemuも、標準品を安く売ることができ、それは中国基準での安さですから、米国や日本の基準では「信じられないほどの激安」になるわけです。
今回は、Temuのビジネスモデルがどのようなものであるかをご紹介します。
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