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拼多多がTemuとして米国市場に進出。米国市場で代理戦争をする拼多多、タオバオ、SHEIN

拼多多が米国市場にTemuとして進出をした。拼多多は、創業前から米国市場に進出しようと、SHEINなどと激しい競争をしていたと天下網商が報じた。

 

タオバオ、拼多多、SHEINが米国で競争

中国系のECが舞台を米国に移して激しい競争を始めている。2011年に米国で創業されたEC「Wish」は、販売されている商品の多くが、淘宝網タオバオ)で販売をされているもので、タオバオの業者にとっては手軽に越境ECができるプラットフォームとなり、2020年12月には運営企業のContext Logic Inc.がナスダックに上場をし、アマゾン、eBayに続く規模のECに成長をしている。

さらに、越境アパレルEC「SHIEIN」(シーイン)が2011年に米国で販売を開始し、現在では若い女性にとってなくてはならない購入チャンネルになっている。

そこに今年2022年9月に「Temu」が上陸をした。ソーシャルEC「拼多多」(ピンドードー)の越境ECだ。

これにより、Wish、Temu、SHEINの三つ巴による激しい競争が米国で起き始めている。この3つのECに共通するのは「激安」ということだ。

▲Temuは拼多多の商品を米国で販売する越境EC。低価格がウリだ。拼多多は創業前から米国市場に進出する試みをしており、SHEINと競争をしていた。

 

拼多多創業者は元々米国市場を目指していた

拼多多の創業者、黄(ホワン・ジャン)は、拼多多が初めての創業ではない。拼多多までにさまざまな起業を試みており、その多くは米国をターゲットにしていた。拼多多でターゲットを中国の下沈市場(地方都市と農村)に定めて成功をしたが、黄が目指していたのは元々米国市場だった。つまり、Temuは長い遠回りをしてようやく原点に戻ってきたと見ることもできる。

の最初の創業はスポーツアパレルEC「欧酷網」(Ouku.com)だ。この欧酷網を2010年に、越境EC「蘭亭集勢」(LightInTheBox)に売却をし、その資金で、「楽其網」(ラーチー)を設立し、輸入品を中国のEC業者の卸すビジネスを始めた。この当時は、淘宝網タオバオ)の流通総額も50億元に満たない頃で、黄は越境ECをするには、中国の製品を海外に販売するのではなく、逆に海外の製品を中国に輸入して販売する方が成功する可能性があると考えていた。

 

ウェディングドレス販売で激突した拼多多創業者とSHEIN創業者

楽其網では、さまざま越境ECスタートアップを支援し、2010年9月からはウェディングドレス販売のJJ’s Houseがスタートした。中国で生産をしたウェディングドレスを米国で販売するというもので、2011年には、このウェディングドレスの流通総額が楽其網の半分を占めるようになっていた。

これはSHEINの黎明期とまったく同じビジネスだった。SHEINは、中国で販売されているウェディングドレスと同じグレードのものが、米国では10倍の価格で売られていることに目をつけ、ウェディングドレスの越境ECを始め、成功したことが基礎になっている。

JJ’s Houseの運営企業「蘇州楽貝科技」の株主は、陳磊と顧娉娉の2人で、陳磊は現在の拼多多の会長CEOで、顧娉娉は拼多多のCOOとなっている。これに元からのパートナー、李宇飛を加えた3人が、黄の初期からのパートナーになっている。

▲SHEINは、ウェディングドレスの販売が前身。大学生をターゲットに格安のファッションを提供している。

 

ウェディングドレスから転換する拼多多創業者とSHEIN

蘇州楽貝科技が江蘇省蘇州市にあったのは、蘇州が中国最大のウェディングドレスの生産基地だったからだ。蘇州市の虎丘工業園区には数千軒のウェディングドレス製造業者がひしめいている。

JJ’s Houseのビジネスは成功をし、2016年には世界で最大のウェディングドレス販売ECとなった。SHEINはこの頃にはウェディングドレスを縮小し、一般アパレルにシフトをしていた。

しかし、ウェディングドレスの小売には大きな課題があった。それはリピーターというのがほとんど育たないため、常に莫大なプロモーション予算を投入して、新規この顧客を獲得し続けなければならないことだ。

は2015年頃から、このビジネスの課題に気がつき、次第にウェディングドレスビジネスから距離を置くようになった。そして、2015年末には拼多多の前身となる「拼好貨」(ピンハオフオ)を創業する。陳磊も楽貝を退職して、拼好貨に合流した。2018年に拼多多がナスダック上場をする直前、顧娉娉も合流をした。

 

SHEINと客層が重なるFloryday

たちが拼多多のビジネスに集中をするようになると、残された楽貝のCEOに就任したのは、鐘琪(ジョン・チー)だった。鐘琪は、黄浙江大学時代の同級生で、卒業後は米国にわたり、マイクロソフトに勤めていた。2012年に帰国をし、楽貝に入社をした。

鐘琪は、頭打ちになったJJ’s Houseだけでは楽貝が持たないと判断し、一般アパレルのAzazie、格安アパレルのFlorydayの2つのECを立ち上げた。いずれも中国産の衣料を米国で販売する越境ECで、特にFlorydayは、SHEINと客層が重なる。客単価は40ドル前後と、SHEINよりも10ドルほど高めだが、その分、品質はよかった。

2016年に、楽貝は、JJ’s House、Azazie、Florydayの3つの事業を中心にした墨燦(モーツァン)を設立し、3つのECの運営は墨燦が、製品の供給を楽貝がするという体制を整えた。この墨燦の設立に参画をした投資家たちは、同時に拼多多にも出資をしており、墨燦と拼多多は兄弟会社といってもいい関係になっている。

 

SHEINが頭ひとつ抜け始めた2015年

2015年当時、米国へのアパレル越境ECは、SHEIN、JJ’s House、Florydayが最も大きなもので、特にSHEINとFlorydayは、ターゲットが若い女性と重なるため、激しく競い合った。当初は、流通総額などでも大きな差はなかったという。

しかし、この頃からSHEINは、利益をすべて中国のサプライチェーン構築に投資をするようになり、外部からの投資も得て、広州市の服飾製造業者を組織化し、同時に大規模なデザインチームを構築して、今日のSHEINのリアルタイムファッションと呼ばれる体制を整え始めた。

一方、Florydayは改善スピードが遅く、次第にSHEINに差をつけられるようになっていった。SHEINはこの頃にはZARAを目標にして追いつき追い越そうとしていたが、FlorydayはSHEINを目標に追いつこうとしていた。

2017年には中国越境ECの中ではSHEINがトップで、第2位が墨燦だったが、墨燦の営業収入はSHEINの1/5以下と大差をつけられるようになっていた。

 

タオバオ系Wishとの競争にも敗れる

2018年、墨燦は「プロジェクト旺」という秘密プロジェクトを開始した。これは中国の製品を欧州で販売する越境ECで、のちにVOVAとして実現する。2019年末、VOVAは墨燦から独立をし、上海格夢夫信息科技となった。この格夢夫の中核メンバーも、黄周辺の人々で、拼多多の兄弟会社と言っていい存在だった。

この頃、タオバオの製品を米国で販売するWishが大きく成長をしており、VOVAに課せられた使命は3年でWishを超えることだった。その後、拼多多に買収をされて、拼多多の国際EC部門にするという思惑で、拼多多内部ではこのプロジェクトはbeatwish.com(Wishをやっつけろ)というコードネームで呼ばれていた。

しかし、VOVAは問題を起こした。成長を焦るために、ナイキやアディダスの偽物商品を扱い始めたのだ。最終的には、売上の60%が偽物商品だったとも言われる。

さらに、新規顧客を獲得するために2019年に、iPhoneiPadの抽選格安購入キャンペーン(事実上の懸賞)を始めたが、実際は当選者がいないという詐欺的手法まで行われた。

このようなことが長く続くはずはない。2021年9月に、上海格夢夫信息科技は、上海市公安局の立ち入り調査を受け、コアメンバーが警察署で取り調べを受ける事態となった。結局、2021年10月にVOVAは営業を停止ている。

▲wishはタオバオに出品している業者に越境ECの環境を提供するEC。実質的なタオバオ米国版だ。

 

Temuは拼多多系の長年のリベンジ

今回の拼多多の越境EC「Temu」には、この兄弟会社の上海格夢夫信息科技のメンバーたちが多く参加をしている。つまり、拼多多は中国国内のEC事業をずっとやってきて、いきなり越境ECに進出をしたのではなく、創業当時から越境ECの可能性を探り、兄弟会社を通じて米国での販売に挑戦をしてきた。一貫をしているのは「驚きの低価格」で、米国ではそれを好意的に受け止める人もいれば、あまりに安すぎて不安に思う人もいる。

しかし、ノウハウがない中で、「中国の経済成長が頭打ちだから海外」という安直な進出ではなく、長期間にわたって、SHEINやWishと競争をしてきた人たちが、拼多多の組織を使って米国に再参入している。SHEINやWishにとっては強敵として警戒せざるを得ない。さらに、この中国系3社が競争をしながら成長をするようなことがあると、アマゾンやeBay、さらにはウォルマートなども警戒をせざるを得なくなっていく可能性もある。