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迷惑電話には人工知能が応対。狙いは悪徳業者の業務不効率化

アリババ人工知能実験室は、迷惑電話に応答する音声チャットボットを開発した。迷惑電話にあたかも人間のように応対するもので、悪徳業者の業務効率を低下させることで、迷惑電話を減少させようとする狙いがあると雷峰網が報じた。

 

世界中で問題になっている迷惑電話

中国で社会問題になっている騒擾電話。いわゆる迷惑電話で、多くは借入金の貸付や理財商品の販売の営業電話だ。携帯電話にかかってきてしまうため、迷惑に感じている人が多い。中には詐欺まがい、あるいは詐欺そのものの電話もあり、社会問題となっている。

迷惑電話は、中国だけでなく、世界中で問題になっている。スウェーデンの電話番号案内サービスを提供するtruecallerの統計によると、2018年、最も迷惑電話の多かった国はブラジルで、1人あたり平均して月に37.5本の迷惑電話を受けている。

中国では、セキュリティ企業「360」が、迷惑電話に対応したスマホ用のセキュリティアプリを提供している。クラウド上に迷惑電話発信元の電話番号データベースを作成し、これに登録した番号からの電話を受信拒否するというものだ。360の統計によると、2018年に449.3億本の迷惑電話が検出された。アンケートによる調査でも、「2日から4日に1本の迷惑電話を受け取る」という人が37.2%と最も多く、「毎日5本以上の迷惑電話を受け取る」という人も8.5%いる。

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スウェーデンの番号案内サービスtruecallerが公開した迷惑電話の統計。ブラジルが最も多く、月に37.5本の迷惑電話がかかってくる。中国はこの統計に含まれていないが、上位5位に入ることは間違いない。

 

流出した電話番号に基づいてかかってくる迷惑電話

このような迷惑電話は、ランダムにかけているわけではない。違法に個人情報を収集した名簿を使ってかけている。そのため、一度個人情報が流出をして名簿に載ってしまうと、複数の業者から迷惑電話がかかってくることになる。特定の個人に集中してかかってきてしまうのだ。かといって、電話番号を簡単に変えることもできない。顧客からかかってくる電話を受けなければならない自営業者などでは、知らない電話番号からの着信を無視するわけにもいかない。

迷惑電話を着信拒否に登録しても、IP電話を使っているため、次々と電話番号を変えてくるため、ほとんど効果がない。360の迷惑電話データベースには、毎日33.2万本の電話番号が登録され続けている。

 

業者側も音声合成、音声チャットボットなどを利用

このような電話をかける悪徳業者は、すでに電話の自動化をしている。録音した音声を流し、相手が反応して通話時間が一定以上になると、人間が出て営業をかけるパターンもあり、中には音声合成によるチャットボットを利用し、人工知能が営業をしているケースもある。相手の会話を分析し、それにあった会話をし、見込みのある客だと判断すると、監視している人間に通知を送り、人間が代わって営業をする。

某企業が販売している人工知能チャットボットシステムでは、4台分の電話が同時にできるシステムが1年間でわずか3000元(約4万8000円)で利用できる。100台まで同時に使えるシステムでも3万元(約48万円)だという。

このような自動化をすると、1回線で1日1000件の電話をかけることができ、活動の盛んな業者では1社で年間40億本の迷惑電話をかけているという。

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▲迷惑電話は、理財商品などの購入見込みがある電話番号名簿が流出し、それに基づいてかかってくるため、人によっては1日に5本以上もの迷惑電話がかかってくることがある。

 

アリババが開発した迷惑電話対応チャットボット「アハ」

このような迷惑電話に対抗するため、アリババ人工知能実験室の再清研究員は、迷惑電話に自動応答する人工知能チャットボット「アハ」を開発した。迷惑電話のスタッフやチャットボットが興味を持つような応答を自動的にする人工知能で、迷惑電話を受けたら「アハ」に対応させれば、いつまでも適当に応答してくれる。

アリババ人工知能実験室は、アハの応答の様子をウェイボーなどで公開している。

 

自然な会話で業者を騙して長電話させる

以下、アハと迷惑電話をかけている業者の会話。

アハ:こんにちは。

業者:こんにちは、年利4.35%の銀行貸付はお入り用ではないですか?

アハ:ちょっと待ってください。銀行だということは…どちらの銀行?

業者:はい、私どもは銀行と提携していまして、4大銀行とはいずれも提携しています。そういうことです。

アハ:貸出金利はどのくらいですか?

業者:私どもの貸出金利は、年利4.35%からになっています。

アハ:それで?あれ?あなた以前電話くれましたよね?声に聞き覚えがあります。

業者:以前、お電話を差し上げたかもしれません。でも、それからまたお入り用が…

アハ:(さえぎって)北京でも借りることができますか?まだ、います?

業者:北京でも借りることができます。

アハ:だったら、あなたのところで最高いくらまで借りられますか?

業者:最高の場合でしたら、上限は3000万元です。

アハ:おたくは信用できるの?

業者:どういう意味でしょう?

アハ:もしもし、います?

業者:はい。

アハ:わかりました。すみません、けっこう忙しくて。

業者:あなたのWeChatのアカウントを教えてもらってもいいですか?

アハ:その他の条件は何かありますか?

業者:その他には手数料が…(電話が切れる)



狙いは業者の業務不効率化。年内にもリリース予定

音声はやや機械的で、業者の女性はやや訝しがっている様子もうかがえる。しかし、会話は自然で、単に応答するだけでなく、「声に聞き覚えがある」など会話を引き延ばす話題も自ら振っている。

悪徳業者もチャットボットを利用し、消費者もアハで応対すると、人工知能同士の会話が延々と続くことになる。それでいいのだ。このアハの目的は、迷惑電話を撃退するというよりも、悪徳業者の業務効率を著しく悪化させることが目的だからだ。悪徳業者は儲かるから、世間から非難をされても迷惑電話をかけ続ける。しかし、多くの応答が人工知能チャットボットになると、まったく利益が得られなくなる。儲からなくなれば、自然に消えていく。それが狙いだ。

現在は、研究試用段階だが、年内にはアリペイのミニプログラムとしてサービスの提供を開始したいという。