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消費者サービスで進むAI音声チャットボットによる顧客サポート。70%以上の利用者がトラブルを経験

多くの消費者サービスで進む顧客サポートのAI音声チャットボット。人間の話を理解して、AIが適切な答えを返すというものだ。しかし、江蘇省消費者権益保護委員会が調査したところ、方言などを理解してもらえない、質問にそぐわない答えを返す、人に代わってもらえないなどさまざまな問題があることが浮かび上がったと新華網が報じた。

 

急速に人からAIに置き換わる顧客サポート業務

ネットサービスのサポート業務にAI導入が急速に進んでいる。多くのサービスでチャットボットによるサポートが導入され、さらに電話による音声チャットボットを導入するサービスも増えてきた。このような人と会話をして応対をするAIの完成度は完璧ではない。そのため、人と代わってほしいと告げると、人間のサポートスタッフと話ができるはずなのだが、コストを抑えるため、人間のスタッフを必要な人数を用意せず、なかなか人のサポートスタッフに繋いでもらえず、問題が解決しないと不満を持つ消費者も増えている。

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▲サポートセンターはオペレーターが応じるのが以前の姿だったが、現在ではAI温瀬チャットボットが応答することが多くなっている。

 

方言を理解ができないサポートAIも

天津市に住む劉雲さんが、自宅のWi-Fiが突然使えなくなり、インターネットプロバイダーのサポートセンターに電話をした。応対したのは優しい声の女性だったが、どこか不自然な印象があった。AIによる合成音声だった。

合成音声は「料金」「トラブル」など、サポートを受けたい項目を選んでくださいと告げ、劉雲さんは「うちのWiFiが使えなくなった」と告げたが、AIは理解できないようだった。なぜなら、56歳の劉雲さんは山西省出身で、強い山西訛りがある。発音が異なるだけでなく、使う言葉も違う。例えば、自分のことは標準語で「我」(ウォー)だが、山西省では「俺」(アン)と言う。その他、動詞や名詞でも異なる言葉を使うことが多い。そのため、AIが理解をすることができず、間があってから「サポートの項目をお選びください」と繰り返すばかりだった。劉雲さんとしては、できるだけ標準語の言い方、発音に近づけて「人のサポートをお願いします」と告げたが、これもAIは理解できないようだった。

結局、劉雲さんは電話を切って、標準語が話せる娘に代わりにサポートセンターに連絡をしてもらった。その娘さんが新華網の取材に応えた。「今では、多くのサポートがAI音声チャットボットになっていて、それはいいところも多いのですが、高齢者には親切だとは言えません。高齢者は地方の発音、方言が身についていて、標準語が苦手な人もいます。そのような人は、人に代わってほしいということをAIに理解してもらうことも難しいのです」。

AI音声チャットボットを導入することにより、24時間サポートが可能になるという消費者側のメリットもある。しかし、一方で、このような問題も起きている。

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江蘇省消費者権益保護委員会が48のサービスを調査したところ、47のサービスでAIサポートが導入されていた。28.8%の消費者が、AIに言葉を理解してもらえなかったというトラブルを経験している。

 

71.2%の消費者がAIサポートでトラブルを経験

江蘇省消費者権益保護委員会は、48のサービスのサポート状況を調査した「デジタル化の背景下でのユーザーサポート利便性調査報告」を公開している。

これによると、48のサービスのうち、47のサービスがチャット、音声チャットなどのAIサポートを導入していた。

71.2%の消費者がAI音声チャットボットに対して「質問に対して適切な答えをしてもらえなかった。こちらの質問を正しく理解してもらえなかった」と感じているという。また、人間のサポートを要求しても、スムースに代わってもらえなかった経験をしている消費者も23.6%に達した。

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江蘇省消費者権益保護委員会の調査では、71.2%の消費者が質問に対する適切な答えをしてもらえなかったというトラブルを経験している。人間のサポートスタッフに代わってもらえなかったという経験も23.6%に達する。

 

AIサポートを導入することで、コストと質を改善できる

企業のサポート業務へのAI導入は急速に進んでいる。ある銀行では、年間、自行で500万件、外部委託での2000万件のサポートを行なっている。AI音声チャットボットを導入したことにより、サポート経費が9000万元(約16億円)以上低減できたという。

また、人間のサポートスタッフが1日に対応できる件数は、電話とチャットを併用しても最大でも240件であり、1日にサポートセンターで対応できる量は1.35万件だった。ところが、ピーク時季には1日2万件のサポート要請があり、じゅうぶんな対応ができなくなることもあった。それが音声チャットボットの導入で対応できるようになった。

サポートの内容の80%は、非常に単純なもので、すべてを人が対応する場合、この単純なサポートにも相応の時間がかかる。しかし、AI導入により、この80%に対してチャットボットや音声チャットボットが対応することで、人のサポートスタッフは、複雑な相談に丁寧に対応ができるようになったという。

 

安価なAIシステムが消費者の不満の原因になっている

AIの音声チャットテクノロジーは成熟をしている。しかし、消費者の要求に応えるには、大量の学習が必要で、運用する前に学習を進め、なおかつ運用しながらも学習を進めていき、AIの「知能」を高めていく必要がある。

しかし、企業側は顧客満足度よりもコストの削減に目がいってしまう。学習が不十分なAI音声チャットボットは、その分安価で提供できる。また、方言の発音や言葉に対応せず、標準語のみに対応したAI音声チャットボットは、その分安く提供できる。

価格に釣られて、学習が進められてなく、質も高くないAI音声チャットボットを導入してしまう企業もある。そのような企業では、運用しながらの学習ということも行われないため、問題は改善していかない。

 

AIにはない「顧客に共感する能力」

専門家は、消費者サポート業務が、すべてAI音声チャットボットに置き換わってしまい、人間のサポートスタッフがいなくなってしまうことはないと見ている。なぜなら、AIは大きな能力が欠如しているからだ。それは「顧客に共感する能力」だ。

サポートに連絡をしてくる消費者は、その時点ですでに困難を抱えている。スタッフがそれに共感をすることで、問題の大半は解決をする。一方で、この共感能力がない場合、消費者はより不満を募らせることになり、場合によってはトラブルに発展することもあり得る。

すべてをAIにするのではなく、それぞれの長所を活かし、どのように組み合わせるかが、質の高いサポート業務を提供する鍵になる。AI音声チャットボットは、あくまでも補助ツールに過ぎないのだ。