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自分の声色でAIが電話に対応してくれる「小問秘書」

北京市中関村のユニコーン企業「出門問問科技」は、電話に応答する人工知能システム「小問秘書」を大幅アップデートすると発表した。着信した電話を知り合いかどうかを見分け、知らない人からのものであれば人工知能が合成音声で応答し、適切に答え、内容を音声とテキストで記録する。アップデート後は、自分の声を録音して、自分の声色の合成音声が自然な応答をすることができるようになるという。

 

定着しようとしている「未知の人からの着信には応答しない」習慣

電話は、もはや人間が使うものではなく、人工知能がかけ、人工知能が応答する時代になろうとしているのかもしれない。

最近では、見知らぬ電話番号からの着信には出ないという人も増えている。多くの場合、営業電話だからだ。知り合いからの重要な電話であれば、留守番電話やSNSにメッセージを残すので、かけ直しをすれば問題ない。中国では、この営業電話が異常に多く、多くの人を悩ませている。怪しげな投資の営業が多く、中には限りなく詐欺に近いものもあるからだ。

そこで、AI電話助手と呼ばれるアプリを入れている人が増えている。発信元の電話番号が連絡帳に登録されているかどうかを判断して、登録されている人であれば着信音を鳴らし、登録されていなければ着信音を鳴らさない。その後の処理はアプリによって異なるが、相手のメッセージを録音するもの、相手のメッセージをテキスト化して表示するもの、合成音声で応答し、相手と会話をするものなどがある。

 

自分の声色で、人工知能が電話に答えてくれる

小問秘書は、合成音声を使い、相手の言葉を音声認識し、自然言語解析によって適切な応答をし、録音とテキスト化した記録を残すというものだった。これが大幅アップデートされ、有料登録をすると、さまざまな機能が利用できるようになる。

ひとつは自分の声で合成音声が作れる機能だ。指定された15の単語を話すだけで、自分とそっくりの声を生成してくれる。また、企業用には目的に応じて500単語から5000単語を録音することで、より自然な合成音声を生成することもできる。多くの場合は、メディアがニュースの読み上げ、小説の朗読などに使われることになるという。普通の人が電話応答に使うのであれば、基本の15単語のみでじゅうぶんだという。小問秘書リリース(https://mp.weixin.qq.com/s/Lka54V8YKFMFfsO3E9wi_Q)では、実際の会話例を、公式サイト(https://voice-maker.mobvoi.com/pages/index)では、出門問問科技のメンバーが自分の声で生成した合成音声によるメッセージを聞くことができる。

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▲小問秘書の自分の声色の登録操作。15の単語を話すだけで、自分の声色を作成し、人工知能が電話に応答してくれるようになる。

 

シナリオ設定で事務連絡への応答も可能

さらに、シナリオの設定もできる。例えば、宅配便からの電話などに対して、「家のドアの前に置き配をしてほしい」などというシナリオを作成しておけば、人工知能が先方の電話に対応して、合成音声により自動応答し、適切に処理をしてくれる。まずは、外売(フードデリバリー)と宅配便の配達の確認電話に対するシナリオが用意をされ、処理内容を変更するだけで利用できるようになる。

また、合成音声は自分の声だけでなく、男性、女性、子どもなどが用意されており、さらに 粤語(チベット族の言語)や外国語の訛りがある中国語など、さまざまな特殊音声が提供されていく。

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▲無料では「男性」「女性」「優しい女性」「子ども」の声色が選べるが、有料でVIPを開通させると、自分の声を録音して、自分の声色で人工知能が電話に応答してくれるようになる。

 

人工知能同士が電話で会話をする時代が始まっている

音声認識自然言語解析の人工知能技術は、大きく進化をしており、このような電話を受ける方だけでなく、発信をする側ではすでに広く使われるようになっている。特に用いられているのが、宅配企業の在宅確認だ。中国の住居環境は、都市部では古くから5階建て以上の集合住宅が多く存在するが、エレベーターが設置されていない集合住宅も多い。このような住宅に配送をして、不在だった場合、宅配の効率が落ちることになる。そのため、宅配スタッフは配送直前に在宅確認の電話を入れるのが一般的になっている。

しかし、今度はこの在宅確認の電話が業務効率の妨げになっている。配達スタッフは、だいたい1日に200個ほどの荷物を配達する。電話に1つ1分かかるとすると、1日に200分=3時間20分も電話に費やしていることになるからだ。

そこで、業務端末スマホから、配達リストをタップすると、人工知能が電話をかけ、相手の音声を認識して、結果を表示するというシステムが使われている。

宅配企業がこのような人工知能システムを導入していて、顧客の方が小問秘書を使っていた場合、人工知能同士が会話をすることになる。電話は、音声による通信チャンネルになろうとしている。


【智能物流】「菜鳥語音助手」首度登場!

▲宅配企業「菜鳥」が活用しているAI電話。配達先の在宅確認を人工知能の合成音声が行う。相手は人間。他の荷物の確認など、複雑な内容にも対応できている。