中華IT最新事情

中国を中心にしたアジアのテック最新事情

売れ始めたスマートスピーカー。取り残される電気専門街「中関村」

米国と中国で2018年末からスマートスピーカーが売れ始めている。しかし、一方で、電気専門街として有名な北京市の中関村では、スマートスピーカーがほとんど売れていない。ここに中関村の課題が見えると媒体が報じた。

 

再び売れ始めたスマートスピーカー

スマートスピーカーが米国と中国で売れ始めている。調査会社カナリスの調査によると、アマゾンエコー、グーグルホームとも、2018年のクリスマスシーズンによく売れ、2018年中の販売台数はいずれも前年を上回った。特にグーグルホームは倍増以上になった。

いずれも通話機能が認知されてきたことが大きい。グーグルホームの場合は、固定電話、携帯電話に無料で電話がかけられる(米国)。アマゾンエコーの場合は、エコー同士またはエコーアプリを入れた携帯電話と通話ができる。当然、ハンズフリー通話で、片付けものや料理をしながら通話ができる。一度体験してしまうと、耳に電話を当てて話をするというのがいかに古臭いスタイルであるかがわかる。

通話機能を使うには相手がいるために、既存ユーザーが持っていない人にスマートスピーカーを薦めるという現象が起きている。

よく聞くのは、若い世代が、実家に帰るときにスマートスピーカーをお土産として購入し、両親の家にセットアップしていくというパターンだ。高齢者にとって、セットアップは手に余るものの、音声命令で電話をすることは簡単にできる。そこから始まって、天気予報を聞いたり、タイマーを使ったり、音楽を聴くようになる。

また、自宅に複数台設置をして、部屋間のインターホンとして利用するケースも増えているという。

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▲カナリスの調査によるスマートスピーカーのワールドワイドでの販売量。意外なことに、2017年末よりも2018年末の方が販売量が伸びている。

 

中国でもスマートスピーカー市場が立ち上がる

中国でもスマートスピーカー市場が成長している。2018年の販売量は、アリババが890万台、シャオミーが710万台、百度バイドゥ)が360万台と、トップのアマゾンの2420万台に比べれば見劣りをするものの、前年比で、アリババは8倍以上、シャオミーはなんと80倍以上の売れ行きになっている。ようやく、スマートスピーカー市場が本格的に立ち上がり始めた。

ところが、面白いことに従来のデジタルガジェットの聖地である北京の中関村、深圳の華強北などの商店では、スマートスピーカーはお荷物商品になっているという。

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▲カナリスの調査によるブランドごとの販売量。アマゾン、グーグルが2強であることは変わらないが、アリババ、シャオミー、百度などの中国メーカーもランキングしてきている。このような中国メーカーの販売先はほとんどが中国国内なので、中国でもスマートスピーカー市場が形成されてきたことがわかる。

 

中関村ではお荷物商品になっているスマートスピーカー

媒体の記者は、中関村を訪れて、スマートスピーカーがどのように販売されているかを確かめに行った。しかし、スマートスピーカーを置いている商店そのものが少なく、置いてある店でスマートスピーカーに関心があるそぶりを見せても、店主は接客しようとすらしない。

話を聞いてみると、春節旧正月)のお祝いに社員全員にスマートスピーカーを配布した企業があって、その社員がまとめて数百台を注文したり、子どものプレゼントに買っていく人はいるものの、個人商店にとっては儲からない商品になっているのだと言う。

その理由は、メーカーの価格戦略にある。2017年に販売された天猫精魂X1は当初499元だったが、度重なる値下げで99元にまでなっている。百度も2018年11月に大幅な値下げを行った。699元だった小度在家は299元に、399元だった小度Proは169元に、249元だった小度は69元に価格を改定している。

中関村の個人商店は、価格改定前の高い卸値で仕入れた商品であっても、売れ残れば価格改定後を基準にした価格で売らざるを得ない。最低でもECサイトと同じか、それよりは多少安くしない限り売れないのだ。

このため、どの店主もスマートスピーカーに対しては冷淡であり、中関村を見る限りは、スマートスピーカーはまったく売れていない商品のように見える。

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▲中関村の個人店舗に置かれているスマートスピーカー。しかし、売れ行きは芳しくなく、商店にとっては頭の痛いお荷物商品になっている。


一般消費者への拡散が始まっている

前瞻産業研究院の調査によると、スマートスピーカー対応アプリの利用者は1級都市、2級都市に集中をしていた。しかし、2018年上半期あたりから、3級都市以下での利用者数が上昇している。つまり、地方都市での普及が昨年後半から始まっている。

中関村のある店主は、春節の前に地方労働者が多数スマートスピーカーを買いにきたと言う。一人でいくつも買って、里帰りのお土産に買っていく。実家に置いてきた子どもたちが広告を見て欲しがり、買ってきて欲しいと言ってくるのだと言う。

アリババは1月13日から始めた新年セールで、スマートスピーカー「天猫精魂」の農村での売り上げが400倍以上になったと発表した。販売台数が1000台を超えた町村も9つあったという。

 

否定的なデジタル通、肯定的な一般消費者

スマートスピーカーの消費者の受け止め方で興味深い点は、デジタル製品でありながら、従来のデジタルデバイスとまったく異なっているということだ。スマートスピーカーに否定的なのは、意外にも昔からデジタルデバイスを使いこなしている人が多い。「PCやスマートフォンでできることを、わざわざスピーカーでやる意味がわからない」と言う。「音声で命令するよりも、キーボードの方が速い」と言う。

一方で、スマートフォンからデジタルデバイスを使い始めた若い層、リテラシーのあまり高くなかった人たちがスマートスピーカーに興味を示している。できることは多くなくても、音声命令は楽だからだ。何かをしている最中に「ながら使い」ができる。

スマートスピーカーは価格も安いため、このような人たちはひとつの機能でも満足する。音楽を聴く、天気予報や交通情報を聞く、ハンズフリー通話をするなど、自分を満足させてくれる機能がひとつあれば十分なのだ。また、子ども向けに童話を読んだり、童謡を再生する機能も受けている。

 

中関村は生き残っていけるのか

このような新しい消費者たちは、中関村や華強北といった電気専門街に行こうとは考えない。せいぜい市内の量販店に行くか、多くの人はスマホからECサイトにアクセスして注文してしまう。

中国のスマートスピーカー市場が米国並みになるところまで伸びていくかどうかはまだまだわからないが、リテラシーが高いと言えない一般層が大量に流入してくることになり、販売経路まで大きく変えてしまうことになる。デバイスがパソコンからスマートフォンに移った時は、中関村は中古スマホを扱うことで生き延びてきた。しかし、その中古スマホですら、今ではECサイトで購入するのが一般的になっている。

既存のビジネスは縮小し、新しいデバイスの波にはうまく乗ることができなくなっている。デジタル製品の消費者の中心は、従来のデジタルオタクから一般の人にシフトしている。中関村は生き残っていくことができるだろうか。

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