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大型郊外店から都心小型店へ。中国ウォルマートの戦略が変わった

中国市場で、都市郊外に大型店舗を展開していたウォルマートが、都心に小型店を出す戦略転換を始めた。ECサイト無人コンビニの台頭、人々の都心回帰などで、大型郊外店の経営が苦しくなっているからだ。カルフールや国内系「永輝」も同様の戦略をとっていると好奇心日報が報じた。

 

大型郊外店を展開したウォルマートとカルフール

中国のスーパー分野は、ウォルマートとカルフールがリードしている。ウォルマートは1996年に深圳に1号店を開いて以来、現在21の省と4の直轄市に408店舗を展開し、売上は767億元に達する。カルフールも1996年に上海と深圳に開店をし、21の省と4の直轄市に236店舗を展開し、売上は286億元に達する。

いずれも日本で言えば、郊外の大型店だ。大きな駐車場を備え、週末にまとめ買いをしてもらうことを狙っていた。売り場面積は15000平方米前後で、400台前後の駐車場を備えるという店舗が一般的だった。しかし、ウォルマートは、中国での店舗戦略を大きく変更する。

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都心の若い世代を狙う小型店

ウォルマートは深圳市に、ウォルマート恵選店の営業を始めた。恵選店とは「いいもの選びました」という意味合いで、店舗面積は1200平米と小さく、商品点数も8000点程度。しかし、そのうちの7000店ほどの商品は、ECサイト「京東」と提携して、店舗から2km以内の地域に、最短29分で配送する。

恵選店のメインターゲットは、都市部の若い夫婦や単身者だ。入り口から入ると、野菜、果物がまず目に入り、次に半調理品、冷凍食品と続く。一食分の食材を買うことを想定している。

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▲ウォルマート恵選店。ウォルマートのブランドは、中国人にとってはすでに馴染みがある。しかし、今までは郊外店が多かったので、車で行くという感覚だった。恵選店は徒歩圏内にあるウォルマートになる。

 

都市の拡大は、外から上へ

中国の都市は、1990年代から、地下鉄と都市高速道路が延伸され、都市は外に向かって、拡大していった。それでも農村から大量の人口が流れ込み、都市の成長は止まることがなかった。この時代には、郊外の大型スーパーに自動車で買い物に行くというのが人々の憧れになった。

しかし、2008年の北京五輪を境に状況は変わり始めた。地方の中規模都市が発展を始め、農村人口を受け入れる器が分散をし、大都市は拡大ではなく、居住環境を高める方向に発展し始めた。建築物はより高層化され、周辺には緑地が整備され流ようになった。

現在、若い世代の理想的な生活スタイルは、都心の企業に勤め、徒歩圏内にあるマンションに暮らすというものだ。このような生活スタイルを支えたのが、コンビニとECサイトだった。買い物は帰宅途中にコンビニで食材を買い、生活用品はECサイトで宅配してもらう。

ウォルマート恵選店は、このようなニーズに応えようというものだ。

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▲ウォルマート恵選店の店内。小型店といっても、日本の感覚からすれば大きめのスーパーになる。

 

過去に何度も挑戦した都心小型店

当然、電子タグによる自動精算、WeChatペイによるセルフレジが導入されていて、レジの行列に並ぶ必要はない。さらに、行政サービス、生花の予約、クリーニング、衣服の補修、スペアキー作成など、多くの生活サービスも用意されている。

ウォルマートは、年内に広州市と東莞市に5店舗の恵選店を開店する計画だ。

しかし、この戦略がうまくいくかどうかは不透明だ。恵選店のモデルになっているのは、米国で展開した小型店ウォルマートエクスプレスだが、経営不信により閉店している。中国でも2009年に3店舗の小型店舗を開業したが、2012年に閉店をしている。その後、ゲートコミュニティマンション内に小型店を展開したが、これも売上は上がっていない。

従来の小型店舗は、コンビニに対抗するため、低価格商品を中心にしていた。この考え方を改め、都心部に住む中流以上の消費者を取り込むため、質の高い商品を取り揃えた小型店を昨年武漢市と昆明市にテスト展開してみたところ好評だった。それを受けて、恵選店の展開を始めた。

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▲ウォルマート恵選店のセルフレジ。この他、行政サービスやクリーニングなど生活関連のサービスが整っている。

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スーパーとコンビニの間を埋める

その背景にあるのは、百貨店や大型スーパーの不振だ。人々の生活が都心回帰を初めていること、コンビニや無人コンビニなどが急速に増えていることから、伝統的な小売業の経営環境が急速に悪化している。ウォルマートは、中国市場での生き残りをかけて、恵選店戦略を初めている。

カルフールも、2014年からゲートコミュニティマンション内に小型店カルフールイージーを展開している。上海市無錫市に39店舗を展開している。売り場面積は400平米、商品点数は4000程度だ。国内系スーパー「永輝」も19の省市に580店舗を展開しているが、300平米程度の小型店「永輝生活」をすでに170店舗展開している。2020年までに1000店舗に増やす計画だ。

日本のコンビニの多くは売り場面積が100平米から150平米程度だ。つまり、ウォルマート、カルフール、永輝生活の小型店は、大型郊外スーパーとコンビニの間を埋めるものになる。

生活小売は、スーパーとコンビニ、地元店の3つ巴の激しい戦いとなっている。

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▲国内系スーパーの小型店「永輝生活」。売り場面積300平米と大型コンビニ程度の感覚だ。イートインコーナーなどもあり、コンビニと真っ向からぶつかる。

 

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カルフールEasy。カルフールは古くから中国市場に参入し、中国名も「家楽福」(読みは原音のカルフールに近くなる)という漢字を使い、店舗も中国人に馴染みのあるオーソドックスなデザインを採用していた。小型店Easyでは、一転して高級感、先端感のあるデザインを採用した。