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深刻な事態に陥るカルフール。悪手が連続したため、倒産の噂が飛び交い、事態をさらに悪化させる

カルフールが、経営再建をするために、PB商品への置き換えと店舗整理を進めている。しかし、消費者に対して悪手を連続して打ったため、倒産の噂が駆けめぐり事態を深刻化させていると礪石商業評論が報じた。

 

閉店によりプリペイカード問題を起こしたカルフール

中国のカルフールが崩壊に近い状況になっている。カルフールは2017年の321店舗をピークに2019年から店舗数が減り始め、2022年には147店舗まで減少をした。ピーク時の半分以下になっている。

このため、騒動になったのが、カルフールプリペイドカードだ。100元から1000元までの5種類の額面があり、知人同士のプレゼント、従業員への福利厚生などに使われてきた。しかし、カルフールの閉店が続くために、近所の住民はプリペイドカードが使えなくなるかもしれないと考え、昨年からプリペイドカードの利用が急増していた。

▲問題となったプリペイドカード。閉店が続くため、多くの人が残っているプリペイドカードを使ってしまおうとした。すると、カルフールは利用額に制限を設けたり、利用を一時停止してしまった。決済システムのアップグレード中だという理由だが、多くの消費者は信じていない。さらに、倒産の噂が広がることになった。

 

カード利用額の制限により騒動に拍車

すると、今年2月の春節前後から、「プリペイドカードの利用は購入金額の20%まで」という利用制限をかける店が現れ、「カルフールがいよいよ倒産するのではないか」という噂が広がり、余計にプリペイドカードの利用が増えるという悪循環が始まってしまった。カルフールでは、プリペイドカードシステムのアップグレード作業のためと説明しているが、その言葉を信じる消費者はほぼいない。

さらに、カルフールでは再建のために、オリジナルPB商品を増やし、SKU(商品品目数)を1.8万から9000に簡素化する改革を始めていた。このため、空になった商品棚が放置をされることになり、これが「商品の入荷も止まっている」という誤解を生むことになり、さらに倒産の噂が広がってしまった。

挙げ句の果てに、5月になって、広州市百信広場店が家賃や管理費を滞納したため、契約違反で追い出され、閉店をするという事態も起こり、カルフールは完全の崩壊の坂を転げ落ち続けている。

広州市カルフール百信広場店に掲げられた大家の広州百信商業の告知。家賃などを滞納したため、契約解除をしたことが説明されている。

 

スーパーの先生だったカルフール

フランス語で交差点を意味する名前のカルフールは、中国にとって「スーパーの先生」だった。中国名は音をとって「家楽福」(ジャーラーフー)という縁起のいい名称をつけ、中国の消費者にかつてなかった購入体験を提供した。

カルフールは中国進出にも非常に手堅い手を打ってきた。中国本土ではなく、まず1989年に台湾に進出をした。地元の「統一」(セブンイレブンなども運営)と提携をし、中華文化圏のニーズや消費傾向を学んだ。その6年後の1995年、カルフールは中国に進出をする。

ウォルマートが1996年、台湾の大潤発(RTマート)が1997年に進出をし、永輝(ヨンホイ)などの国内スーパーなどのライバルが登場したが、カルフールの優位性は揺るがなかった。

▲2012年からのカルフールの店舗数。2017年には321店舗まで増えたが、現在は147店舗と半分以下になっている。

 

現場に権限を委譲するカルフールの分散管理

その強さの秘密が、分散管理だった。全体に関わる重大事項を除いて、多くの権限をエリアマネージャーと店長に与えた。エリアマネージャーは店舗間の調整が主な役目であるために、店長に権力が集中する仕組みだった。発注、販売価格、プロモーションばかりでなく、人事面も決定できる絶対権力者だった。

カルフールでは、自前の物流網を持たず、サプライヤーが直接店舗に納入をする。このため、店長が大きな権力を持つことになり、業績をあげれば高額な報酬を与えたため、店長は地元の消費動向を理解し、その地域に適したカルフールを築いて行った。現在、チェーンストア業界で叫ばれている「千店千面」(個性のある店舗づくり)を早い段階で実現していたことになる。

カルフールは、1995年に中国に進出して以来、常に中国のスーパービジネスの先生であり続けた。その歴史が終わることになるかもしれない。

 

サプライヤーにプレッシャーを与えるカルフールの手法

しかし、この店長が強いことが後にカルフールの弱さになっていく。ライバルのウォルマートは大型小売業として原則に則った考え方を採用していた。サプライヤーと厳しい価格交渉をして納入価格を下げさせ、その分、消費者にも低価格で提供するというものだ。

しかし、カルフールでは、価格交渉もするものの、サプライヤーからさまざまな費用を徴収する。プロモーション協力費、バーコード作業費など名目はなんでもよく、サプライヤーからさまざまな費用を取り、それを原資に割引をして消費者に低価格で提供をするというやり方だった。

サプライヤーにしてみれば、さまざまな費用を取られるのは厳しいことではあるけど、カルフールには自社製品を並べたい。大量に売れるだけでなく、商品の露出効果も大きいからだ。

ところが、2004年にWTO世界貿易機関)加盟により、海外製品の輸入規制が緩和をされると、カルフールのやり方はつまづくことになる。海外メーカーに、協力費などを求めるという中国風の商習慣は通用をしなかったからだ。

この規制緩和で、ウォルマートとRTマートは急速に店舗数を拡大し始め、カルフールにとって、無視できないライバルになってきた。

 

中央集権化によりカルフールの強みが消えてしまう

2005年、危機を感じたカルフール構造改革を始める。中国を華東、華中、華南、華北の4つに分割をし、購入センターを設立し、一括仕入れを始めた。しかし、これは今まで強かった店長の権利を奪うことにもなった。この改革により、せっかく地域に密着をした個性を持っていたカルフールが、どこに行っても似たような均一的なスーパーとなり、地元民のニーズとの乖離が起こり始めた。

さらに、今まで権力を持っていた店長たちは、見切りをつけて退職をするか、あるいは残った店長たちはサプライヤーと癒着した不正を起こすようになり、2006年8月には8人の仕入担当者が収賄で逮捕されている。さらに、中央集権化を進めたために、意識決定の遅れが起こり始めた。

一方、ウォルマートは、独自の通信衛星をもち、中国の各店舗のPOSデータを米国本社がほぼリアルタイムに知ることができる環境を構築していた。これにより、本社が迅速な意思決定ができる。

 

海外事業の業績が悪化していくカルフール

このようなカルフールのやり方を押し付けようとしたのは中国だけではなかったようだ。2006年には韓国から撤退、2009年にはロシアから撤退。2010年には日本とイタリア、2011年にはタイ、2012年にはギリシャと世界中での全面撤退が進んでいる。

日本の場合、サプライヤーに店舗納品を始めとする過大な負担を課したため、国内のサプライヤーが集まらなかったことが原因だと言われている。

さらに2016年から中国で、オンライン小売とオフライン小売を融合する新小売のトレンドが起きると、カルフール中国も新小売対応を始めたが、うまくはいかず、2018年には赤字転落をすることになる。

 

売場を必要としていた蘇寧が買収

このカルフールの苦境に目をつけたのが、家電量販チェーンの「蘇寧」(スーニン)だった。蘇寧でもオンライン小売とオフライン小売を融合する新小売戦略を進めていて、蘇寧は大型の販売場所を必要としていた。これにはカルフールの店舗ネットワークがうってつけであるため、2019年9月、カルフール中国の株式の80%を買収して、蘇寧カルフールとして、家電製品も販売する総合スーパーとして再出発することになった。簡単に言えば、1階はカルフールとして生鮮食料品を販売し、2階は蘇寧として家電製品を販売するハイブリッド店舗に改造をしていった。この改革は成功で、蘇寧は2020年には1億元以上の利益を達成したことを明らかにした。

▲苦境に陥っていたカルフールを蘇寧が買収し、蘇寧カルフールとして再出発し、一時はV字回復もした。

 

やはり合わなかった家電製品と生鮮食料品の組み合わせ

ところが長続きしなかった。蘇寧は家電製品の標準品を低価格で販売する小売チェーンだ。家電製品は価格は高いが、購入頻度は低い。一方、カルフールは高級品、輸入品など標準品+αの生鮮食料品を販売するチェーンだ。価格は家電製品に比べれば安いが、購入頻度は高い。

2つの異なる特性の商品を扱う中で、カルフールの方は次第に「ちょっと高級」「他にはない珍しい商品」が減っていき、標準品ばかりが並ぶようになってしまった。中国ではもはや標準品しか置いていない店に足を運ぶ人は少ない。ECで購入すればいいからだ。蘇寧カルフールに足を運んでいた理由は、ECではあまり売っていない珍しい商品と出会えることができ、家電製品も自分の目で見て確かめられるというオフライン体験が優れていたからだ。

しかし、蘇寧カルフールは、生鮮食料品の標準品化を進め、みずから強みであるオフライン体験を弱体化させてしまった。

2020年、コロナ禍による打撃もあり、蘇寧カルフールは7.95億元の赤字を出し、それ以来赤字経営が続き、蘇寧がカルフールを売却するという観測記事が定期的に報じられるようになる。

カルフールでは収益を改善するため、PB商品への転換を進めた。それにより、メーカー品の撤去が行われ、棚が開いてしまった。この状態を放置したため、消費者が驚いて、プリペイドカード問題と合わせて、カルフール倒産の噂が広がってしまった。

▲来店客もなく、棚もからっぽのカルフール。PB商品への転換を進めるため、一時的に棚が空になったのを放置したため、商品の入荷も止まっているのではないかとカルフール倒産の噂が駆け巡ってしまった。

 

絶体絶命のカルフール

蘇寧カルフールは、店舗を閉店することで、固定費を節約し切り抜けようとしているが、2022年末からはサプライヤーへの未払いも起こるようになり、2023年2月10日には食品サプライヤー「好麗友食品」が、蘇寧カルフールの銀行預金の差し押さえも行っている。好麗友食品はカルフールとは20年近い取引がある老舗のサプライヤーだった。

中国にスーパー文化を伝えたカルフールも、今度ばかりは逆転の手はないと見られている。カルフールの看板が中国から消えることになるかもしれない。