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フーマのダブル100計画。生鮮EC、新小売スーパーはミニ店舗多展開の競争へ

アリババの新小売スーパー「盒馬鮮生」のフォーマットが定まった。都心部は大型店のフーマフレッシュでカバーをし、郊外などを小型店のフーマminiでカバーしていくというものだ。2020年は、フーマフレッシュを100店舗、フーマminiを100店舗増やす「ダブル100計画」を実行すると龍商網が報じた。新小売スーパーは、ミニ店舗多展開での競争が始まっている。

 

フーマは「フレッシュ」「mini」の2つに収束

フーマフレッシュはこの1年、さまざまな形態を試みていた。

1)フーマフレッシュ:4000平米以上の大型店。イートイン併設

2)フーマmini:300-500平米の小型店。

3)フーマ小站:ミニ倉庫のみの配送拠点

4)フーマ菜市:フーマフレッシュをコンパクトにした中型店舗

この他、オフィス地区で展開するコンビニ型のフーマF2、地下鉄駅内に展開する朝食テイクアウト専門店「ピックアンドゴー」などがある。

F2、ピックアンドゴーは特殊な形態だが、基本4形態を整理して、「フーマフレッシュ」と「フーマmini」の2つに収束させていく。倉庫のみのフーマ小站は店舗機能を持たせて、フーマminiに転換をしていく。

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▲今後100店舗以上の出店が予定されているフーマmini。フーマフレッシュの小型版で、地方都市を中心に展開。侯毅総裁は、生鮮ECの究極形として絶対の自信を持っている。

 

出店コストは1/10、坪効率は4倍のフーマmini

その理由は、既存のフーマminiが好調であることがはっきりしたからだ。フーマフレッシュは、店舗購入と宅配ECの両方が可能であるため、既存の店舗型スーパーと比べて、単位面積あたりの売上が同規模スーパーの3倍から4倍になる。

現在、フーマminiの宅配比率は50%を超えていて、出店コストはフーマフレッシュの1/10だという。フーマminiは、小規模店舗なので、フーマフレッシュにあるレールシステムが不要になる。これはピックアップスタッフが注文の商品をバッグに詰め、そのバッグをバックヤードに送るシステムだ。また、冷蔵ショーケースなども少なくなるので、出店コストを抑えられる。大体200万元前後で出店可能だという。

フーマminiは店舗面積が小さいため、単位面積あたりの売上は、フーマフレッシュのさらに4倍になったという。フーマフレッシュの侯毅(ホウ・イ)総裁は、期待を膨らませている。「ダブル100計画が実現すれば、現在230店舗を展開しているフーマ全体の売上は少なくとも2倍、おそらくは3倍になると期待しています」。

フーマフレッシュは従来通り、大都市の中心部をカバーし、フーマminiで郊外や地方都市をカバーしていくという布陣になる。例えば、上海市の場合、中心部はフーマフレッシュでモザイクを埋め尽くすようにカバーをし、地下鉄郊外線(日本の郊外私鉄の感覚)の駅ごとにフーマminiを出店することになる。フーマフレッシュは半径3km以内が配送地域だが、フーマminiの場合は半径1.5km以内に無料配送をする。

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▲フーマminiの冷蔵ショーケース。大型店のフーマフレッシュに比べて、冷蔵ショーケースの数が少なくて済むため、出店コストが大幅に下げられる。

 

フーマの結論は、ミニサイズ店倉合一の多店舗展開

生鮮食料品の宅配ECには、「前置倉」と「店倉合一」という2つの考え方がある。前置倉は、消費者のいる場所に倉庫を配置して宅配EC注文のみを受けるというもの。「毎日優鮮」や「ディンドン買菜」などがこの方式で、フーマ小站も前置倉方式だ。フーマ小站は倉庫のみなので、出店コストは、フーマminiの1/4ですむ。

一方で、フーマフレッシュの「店倉合一」は、店舗でも購入ができ、宅配ECでも購入できる。フーマminiは小型店舗ながら、店倉合一を採用している。

侯毅総裁は、前置倉は低コストで出店でき、拡大スピードは早いが、新規顧客を獲得することが最大の難題だという結論に達した。顧客獲得という点で、店倉合一は有利なのだ。

フーマminiの場合、翌月のリピート率はフーマ小站の2倍になる。店舗があれば、宅配ECを利用しない店舗利用のみの顧客がやってくる。このような人たちを宅配EC会員に誘導していくことができ、新規顧客獲得コストは、フーマ小站の1/4ですむ。つまり、前置倉は、出店コストは1/4であるものの、新規顧客獲得コストは4倍になってしまう。

前置倉であっても、店倉合一であっても、生鮮ECに重要なのは、顧客の数が多く、商品が動くことだ。商品が動けば動くほど、商品ロス率が下がっていき、経営状態を良好にしてくれる。

フーマは、この1年の実験から、フーマminiの利潤は、フーマ小站よりも平均で15%ほど高いという結果を得た。これにより、大型店のフーマフレッシュと、小型店のフーマminiに集約させる決断をした。

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▲フーマフレッシュにはレールシステムが備えられている。スタッフが注文された食品をピックアップし、バッグごとリフトで天井のレールにあげる。バッグは、配達スタッフが待ち構えるバックヤードに送られる。フーマminiでは、店舗が小さいため、このレールシステムが不要になり、出店コストが下げられる。

 

フーマminiは生鮮ECの究極形態

また、1級、2級の大都市と3級以下の地方都市でも戦略を変える。1、2級の大都市には、中心部を大型店のフーマフレッシュでカバーをし、郊外部分をフーマminiでカバーしていく。しかし、3級以下の地方都市では、フーマminiを基本にカバーしていく戦略に転換する。このため、すでに地方都市に展開しているフーマフレッシュは、フーマminiに転換をすることも行い、整理をしていく。

侯毅総裁は、「フーマminiが生鮮ECの究極形だ」とも発言していて、ダブル100計画に絶対の自信を持っているようだ。しかし、ライバルである毎日優鮮の共同創業者である王珺(ワン・ジュン)は、メディアに反論をしている。「この世に絶対はない。唯一のものでさえ、変化をしていく。新小売に究極形は存在しない。さまざまな形態を試みて、競争するしかない」。

しかし、新小売、生鮮ECの競争は、少なくとも当面はフーマminiのようなミニ店舗の展開が鍵になっていきそうだ。大手スーパーチェーン「永輝」も、宅配ECを行うミニ店舗を展開していて、2019年は2億元前後の赤字だったと推定されていて、永輝の業績の足を引っ張ることになった。しかし、永輝の2019年下半期の財務報告書によると、永輝miniの売上高は5.5億元を突破し、一部の店舗では黒字化を達成している。

都心部を面でカバーし、郊外を点でカバーするフーマ方式は、他の新小売、生鮮EC、スーパーなどが追従をしていき、競争が激化すると見られている。