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脱炭素の決め手、水素エネルギーには課題がいっぱい。鍵になるのは電力料金がどこまで安くなるか

中国政府も脱炭素の決め手として水素エネルギーの活用を考えている。しかし、現状では石炭から製造する水素と比べてコストが高く、運搬の安全性確保にも課題がある。電力料金がどこまで安くなるかが鍵になると李将平老師が報じた。

 

脱炭素の決め手、水素エネルギー

中国は、第15次5ヵ年計画(2026~2030年)により、水素をカーボンニュートラル実現のためのグリーンエネルギーとして活用しようとしている。西部、北部の太陽光、風力の余剰電力を活用して、水素を製造し、それを東部の大都市に送る「西氢東送」を進めている。しかし、実際には非常に課題が多いようだ。

 

電力料金が安くなり続ける太陽光、風力

中国の太陽光発電はすでに7億kW分が敷設され、毎年2億kWで増え続けている。最も発電量が多い地域では、昼間の電力販売価格が1kWhあたり0.5元という安さにもなり、場合によっては販売価格がマイナスになることすらある。この余剰電力を使って、水を電気分解し、水素を生成して東部に輸送するというのが西氢東送プロジェクトだ。

発電コストは大きく下がっている。太陽光パネルは、2022年の段階で1Wあたり2元だったが、2026年現在では0.8元にまで下がっている。風力発電も同様で、内モンゴルで880台の10MW級風力発電基の価格は、1Wあたり2.1元にまで下がっている。再生可能エネルギーの発電は、グリーン電力であるというだけでなく、低コストの発電方法になっている。

▲風力発電は農地に設置される。住居から離れた場所であるため、騒音などの被害が軽減される。

 

余剰電力で水素を製造できるのか

これだけ電力が安くなると、これで水素を製造すれば安くつくれるのではないかと誰もが思う。水を電気分解し、1kgの水素をつくるには55kWhから60kWhの電力が必要になる。余剰電力を利用すれば電力代は6元程度で済む。

しかし、製造設備、工場、人件費、水資源の確保などのコストがかかり、どうやっても1kgの水素の製造コストは20元を超えてしまう。

一方、すでに水素は石炭から製造されている。石炭を熱して生まれる石炭ガスを原料としてつくる。CO2を大量に発生させるため、グレー水素と呼ばれるが、こちらの価格は1kgあたり8元から10元だ。グリーン水素は製造コストが倍になってしまう。

▲深圳大学が実験を進める東福一号。洋上風力と海水から水素を製造する。実現すれば製造コストが大きく下がり、水素エネルギーの活用が見えてくる。

 

水素製造には安定した電力が必須

太陽光、風力による水素製造の問題は、再生可能エネルギーが水素製造には適さない電力だということだ。電気分解をするには安定した電源が必要になる。ところが、再生可能エネルギーは天候によって発電量が上下する。これは電気分解にとって非常に効率が悪い。

もちろん、バッテリーを使って電力を貯めておき、これを水素製造に利用すればいいと誰もが思いつく。しかしながら、バッテリーの電力効率は75%程度で、25%は失われてしまう。さらにバッテリーのコストも必要になる。これで水素を製造すると、1kgあたり20元が30元程度に上昇し、グレー水素の10元に対してまるで競争力がなくなってしまう。

▲甘粛省酒泉市アクサイカザフ族自治県の太陽光+熱発電所。太陽光発電だけでなく、太陽光をミラーで反射させて、溶融塩を加熱し蓄熱する。夜間などにこの熱で発電し、全体としては安定的に電力を供給するというもの。

 

頭の痛い問題=水素の輸送

仮にこのようなコスト問題がテクノロジーにより解決されたとしても、今度は水素を輸送するという頭の痛い問題に直面する。

問題は、気体の水素は輸送物としては非常に扱いづらいということだ。普通の15トンのタンクローリーで水素をそのまま運ぼうとすると、気体であるため水素は2kg程度しか入らない。もちろん、そんなバカなことはできないので、普通は加圧した水素ボンベの状態にして運ぶ。しかし、水素の高圧ボンベをトラックに乗せて運ぶと、振動により破裂する可能性がある。そして、水素はよく燃える。こんな危険な輸送をしたいというトラック運転手はいないし、自動運転トラックを使うにしても、沿道の住民たちは通行そのものに大反対するだろう。

結局、安全を確保した水素運搬専用のタンクローリーが必要になる。これで20元で製造した水素は運ばれると60元ほどになる。グレー水素の10元に対する競争力は完全になくなる。

 

パイプラインにも課題が

結局、総合的に考えるとパイプラインを敷設するしかない。しかし、水素脆化と呼ばれる難題がある。水素分子は非常に小さいため、パイプラインの金属構造の中に入り込んでしまい、金属をもろくしてしまうのだ。世界中がこの課題を解決しようとさまざまな研究をしているが決定版と言えるものはなく、現在は頻繁にパイプラインの管を交換するしか方法がない。

 

余剰電力はもっと賢い利用法がある

さらに、再生可能エネルギーをつくる側から見ると、余剰電力は水素をつくるよりもずっと優れた活用法がある。わざわざ水素をつくる必要がないのだ。

余剰電力の活用法1:水を汲み上げる。いわゆる揚水発電だ。余剰電力を使って、水を汲み上げておき、必要な時にそれを放水して発電する。

余剰電力の活用法2:メタノールを製造する。メタノールは、燃料車エンジンを少し改造するだけでガソリンの代用となる。メタノールは常温で液体であり、可燃性ではあるものの安全性は高く、通常のタンクローリーで運搬ができる。また、原料のCO2は、放棄された石炭炭鉱から得られる質の悪い石炭が利用できるため、非常に都合がいい。

余剰電力の活用法3:アンモニアを製造する。アンモニアはグリーン燃料としても利用でき、肥料の原料にもなる。アンモニアも有毒で腐食性があるが、私たちはすでにアンモニアの扱いに慣れている。輸送の安全性は確保できる。

余剰電力の活用法4:AIデータセンターを建設する。中国が推進しているのが、再生可能エネルギーの発電が盛んな西部地区に大規模なAIデータセンターを建設することだ。いわゆる東数西算プロジェクトで、余剰電力が生まれる場所に、大量に電力を消費するAIデータセンターを設置し、それを東側の大都市から利用するというものだ。

 

将来性はあるものの課題は山積みの水素

では、水素エネルギーには将来はないのか。そんなことはない。水素はこのような問題があっても、カーボンニュートラルを実現するための有力なエネルギー源だ。専門家たちは、電力料金の低下がすべてを解決すると考えている。

水素の方が安価なエネルギーだということになれば、輸送の問題を解決するアイディアも生まれてくる。現地で水素エネルギーを利用する地産地消と組み合わせることで水素エネルギーの利用は可能になる。

ただし、それには電力料金が1kWhあたり0.1元にまで下がることが必要だと言われている。現在は最安値で0.5元にまで下がってきており、5年後には0.1元が見えてくると見られている。そこまで電力料金が下げられるか、そこが水素社会を実現する鍵になっている。

 

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