山西省太原市のコンビニ密度は1店あたりの人口が2587人と、日本とほぼ同じ。しかし、日系コンビニは1店も出店していない。太原市は独特のコンビニ王国を築いていると中国経済網が報じた。
日系コンビニも手を出せないコンビニ激戦都市
「2024年中国都市コンビニ発展指数」(中国チェーンストア協会)によると、広東省東莞市、湖南省長沙市は、店舗あたりの人口が日本より少ない。つまり、日本以上にコンビニが密集している都市ということになる。
東莞市や長沙市は人口が1000万人近い大都市で、コンビニ激戦地として有名だが、第3位の山西省太原市は人口500万人の地方都市だ。そこが、コンビニ激戦区となっている。
しかも、日系コンビニ=ローソン、セブンイレブン、ファミリーマートは中国各都市に広がっているが、太原市には1店も出店していない。以前、セブンイレブンが1店舗あったが、セブンイレブンとは何の関係もないニセモノコンビニであることが発覚をして今は閉店しているという。
なぜ、この地方都市にはコンビニが密集しているのか、そしてなぜ日系コンビニが進出できないのか。日本人だけでなく、多くの中国人が不思議に思っている。

要望があればなんでもやる便利店
太原市で有名なコンビニは「唐久」「金虎」という2つの地方チェーンだ。非常に数が多いために「三歩で唐久、五歩で金虎」という言葉まであるそうだ。
数が多いだけではない。かなり以前から、生活サービスに対応をしている、まさに「便利なお店」なのだ。コピーやプリント、宅配の受け取り、公共料金の支払いなどに対応していることはもちろん、宝くじの購入、犬の散歩サービス、家電の修理受付、傘のレンタルなどもやっている。周辺の消費者が要求するサービスは何でもやってしまう。唐久と金虎がサービス競争をする中で、便利店は便利すぎる店になっていった。
このため、日系コンビニが進出をしても、サービスの面で劣ってしまい、なおかつ地方都市であるために売上が期待できない。進出しないのはそのような理由があるからだと思われる。

日本のコンビニに触発されて起業
面白いのは、唐久と金虎の先生は日本のセブンイレブンだということだ。1992年にセブンイレブンは深圳市に初出店をする。太原市でスーパーを経営していた楊文斌は早速見学に行き、興味を持ち、コンビニというビジネスに興味を持つようになった。
1998年には日本に旅行をして、日本のセブイレブンの店舗を回った。特に驚いたのが日本のコンビニは24時間営業をしていたことだった。
そして、日本から帰ってくると、太原市漪汾苑に「唐久便利店」をオープンした。この時にすでに24時間営業を行っている。
副食の卸の商売をしていた金虎も、これを見て、コンビニを研究し、2001年に金虎をオープンする。これで、太原市のコンビニの歴史が始まった。
セブンイレブンのドミナント戦略を導入
この2つのチェーンは、セブンイレブンのドミナント戦略を見習って、特定の地域に集中出店をし競争をした。もうひとつの競争がサービス競争だった。店長の携帯電話の番号は店舗で公開されていて、周囲の住人は誰でも知っている。欲しいものがあると、誰もが店長に電話をする。料理をしているが小麦粉がないので持ってきて、お米を買いたいけど重たいから持ってきてというショートメッセージが入ると、店長は無料で配達に行く。
楊文斌の言葉は、太原市のコンビニ業界では非常に有名だ。それは「住民の生活に近づけば近づくほど、コンビニの生きる道が見えてくる」というものだ。

人気パン工場を持っているのが強み
ここまでサービスをして赤字にならないのは、両社が即食商品であるパンを自社生産していることだ。唐久は、198種類のパン、59種類の菓子パン、88種類のデザートを自社生産している。そして、それが焼き立てで美味しいと評判がいい。
金虎は現地のファストフード「早早便利」、ベーカリー「今度ベーキング」を買収し、即食商品を自社生産している。
ここで利益が出るために、過剰とも言えるサービスを提供しても運営していくことができる。つまり、食品メーカー+コンビニ小売店というのが、太原市のコンビニの実態だ。金虎ではコンビニとファストフード店を一体化しているため、固定費用も抑えられる。
独特のコンビニ王国、太原市
金虎は2400店舗、唐久は2300店舗と、競争は今でも続いている。そして両チェーンともそのほとんどが太原市の展開であるため、この2つのコンビの名前は多くの中国人もよく知らない。しかし、太原市では知らない人がいないほどのコンビニであり、太原市は中国の中でも独特のコンビニ王国となっている。
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