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コンビニは業界としては成長するものの、店舗あたりの売上は減少。苦しむ個店オーナーたち

2022年のコンビニ業界の売上は3834億元(約8.0兆円)となり、年々成長している。しかし、店舗数が急増をしたため、1店舗あたりの売上は激減をしている。個店のオーナーたちは投資資金が回収できず苦しむようになっていると財経雑誌が報じた。

 

店舗数は倍増、個店売上は減少のコンビニ

中国チェーンストア経営協会が公表した「2023年中国コンビニ発展報告」によると、中国のコンビニ店舗数は2019年に13.2万店だったものが2022年には30.01万店とコロナ禍の間に倍増以上となった。売上も2556億元から3834億元(約7.8兆円)と順調に成長をしている。

しかし、一店舗あたりの売上を計算してみると、193.64万元から127.76万元(約2600万円)へと激減している。つまり、業界としては成長しているものの、各店舗の経営が苦しくなっていることがうかがわれる。

▲コンビニの店舗数と売上。コロナ禍にも負けず、毎年力強く成長をしているように見える。

 

儲からなくても契約満期まで営業しなければならない

コンビニの多くは、加盟店で成り立っている。地元の起業家などが、加盟料を支払ってコンビニチェーンに参加をし、店舗を開くというものだ。オーナーにしてみればかなり大きな額の初期投資をしているため、店舗がもうからなくなるということは死刑宣告にも等しい。

山東省済南市のセブンイレブンのオーナーである陳雲さん(仮名)も、苦しい立場に追い込まれている。売上があからず、利益がでないどころか、毎月持ち出しが出ている状況になった。契約を解除して閉店をしたいが、そうすると契約時に支払った20万元の保証金は戻ってこない。結局、考え抜いて、5年の契約満期になってから更新をしないことにした。しかし、それまでは店を開かなければならない。毎日忙しく働いて、なおかつ自分の貯蓄を店に注ぎ込んでいる。1日も早く満期がやってこないか、そればかり考えている。

▲しかし、1店舗あたりの売上を計算すると激減をしている。個店オーナーの苦しみは深くなっている。

 

他店もライバル、ディスカウント店もライバル

コンビニは業界としては成長をしているが、個店のオーナーから見ると、ますます苦しくなっている。新規出店が続くために、近隣にライバル店ができると、如実に売上が下がる。特に、同じチェーンのコンビニが近隣にできることも少なくなく、その場合、品揃えの工夫などで差別化することもできない。純粋に立地の問題で競争の結果が決まってしまい、オーナーは何もすることができず、売上が下がっていく。

さらに、強敵なのがコロナ禍で増え始めたディスカウント店だ。スナック菓子、レトルト食品、ペットボトル飲料などを大量に低価格で販売する店舗が増え始めている。

 

自分で工夫をする余地がないコンビニビジネス

もともと、コンビニは利便性が主力商品だった。近くにあって、すぐに買うことができるため、農夫泉のミネラルウォーターがスーパーでは1.5元で売られ、コンビニでは2元で売られていても、利便性を求めてコンビニで買ってくれる人がいた。しかし、ディスカウント店では1.1元で販売されている。ここまでくると、消費者は利便性よりも価格に注目するようになり、ディスカウント店で買ってしまう。しかも、スーパーもディスカウント店に対抗するために、1.5元から1.3元に値下げをしている。一方、コンビニでも2元から価格を下げてお客を取り戻したいが、価格を決めるのはオーナーではなくコンビニ本部だ。

コンビニオーナーは、店舗の経営が苦しくなっているのに、自分で工夫をすることができない。これではオーナーではなく、単なる従業員にすぎない。それなのに給料はもらえないどころか、自分の財産から毎月の赤字を補填している。

 

開店時には有望に見えるコンビニビジネス

陳雲さんは、2021年4月にセブンイレブンが済南市で最初にフランチャイズを募集した時に加盟をした第一世代のオーナーだ。当時は、2年以内に済南市に100店舗を開店するという計画であったため、非常に将来性のあるビジネスに見えた。

陳雲さんは、加盟する前に、煙台市などのセブンイレブンを調査した。2020年12月にオープンした3店鋪の開店時の売上合計は1日92万元であり、その後も単独で75万元(約1500万円)の売上を記録した店もある。

済南市初めてのセブンイレブンも開店初日は34万元の売上があった。済南市初めてのセブンイレブンということもあって、しばらくの間は、人が入りきらず、店の前には行列ができるほどだった。本部の担当者も、この立地であれば毎月5万元の利益が上がり、半年で初期投資は回収できると請け負った。

陳雲さんはこれに心を動かされて、オフィス街に空き物件を見つけ、60万元の初期投資で2021年8月にセブンイレブンをオープンした。

 

オーナーなのに、自分で経営判断ができない

しかし、開店をしてみると、コンビニというビジネスが甘いものではないことを思い知らされた。1日の売上は約4000元で、月に12万元少しになる。この中から、光熱費や店鋪スタッフの給料を払い、残るのは1万元ほど。人件費を節約するために、自分も店舗で働くが、1万元は給料としても決して高い額ではない。その上、初期投資の60万元を回収しなければならない。利益が出るのはいったいいつのことになるのかわからない。

しかも、自分では店舗経営に関して工夫できることがほとんどない。陳雲さんの店舗はオフィス街にあるために、朝から夜までお客がやってくるが、深夜帯になるとお客はいなくなる。それでもセブンイレブンは24時間営業を義務付けているため、スタッフを配置しなければならない。「深夜スタッフには月に7000元支払っていますが、基本的に仕事はありません」。単なる店番のために月に7000元を支払っている。

また、陳雲さんの店ではパンは1日に10個程度しか売れない。それでも本部は15個を仕入れるように圧力をかけてくる。頑張って15個を売って欲しいということだが、価格を自分で決めることができず、飲料とのセット販売をすることもできず、できることは何もない。毎日5個の賞味期限切れパンが生まれ、それは陳雲さんの損失となる。陳雲さんの店では、毎月5000元から6000元程度の売れ残り廃棄商品が出ているという。

 

オーナーの才覚ではなく立地ですべてが決まる

陳雲さんは、新たなコンビニの新規出店に怯えている。なぜならセブンイレブンの商品は、他のチェーンに比べて価格が高いからだ。確かに品質は高いのだが、多くの人にとってそれは気がつかない程度の差であり、他のチェーンで買い物をされてしまう。

陳雲さんは、結局、コンビニビジネスというのはオーナーの才覚ではなく、立地ですべてが決まると悟り、本部に対して移転を申請した。24時間営業をしなければならないのであれば、住宅地で地域密着できる立地の方が売上があがると判断したからだ。そして、適切な物件を探して、改装に入ったところで、本部からは移転をしても旧店舗は閉店できないという通知が届いた。結局、オフィス街の旧店舗は人に任せて、自分は住宅地の新店舗に注力をしたが、こちらでも経営は楽ではなく、しかも旧店鋪の赤字は拡大をしている。ますます、コンビニの沼にはまっていくことになってしまった。そこから逃れる方法はただひとつ。契約の満期になったら、更新をせず、大きな損を受け入れて、コンビニから脱出することだ。陳雲さんはその日がくることだけを考え、今日も店舗で長時間労働をしている。

コンビニは、業界は成長をしているのに、個店オーナーが苦しむという状況になろうとしている。