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なぜ中国のセブンイレブンは店舗数が増えないのか。その4つの理由

日本では交差点のこちら側と向こう側にすら出店しているセブンイレブン。中国でもセブンイレブンは出店しているものの、店舗数は多くない。上海ではファミリーマート2000店に対して、セブンイレブンは115店舗でしかない。店舗数ランキングでは10位に甘んじている。それには4つの理由があると財経三分鐘が解説している。

 

中国での存在感は大きいセブンイレブン

中国でもコンビニ「セブンイレブン」の存在感は大きい。セブンイレブンのグローバルでの経常利益は、約2529億円。一人当たりの利益は非常に高く、アリババとほぼ同じになる。それを30年間続けている。

中国には1992年に上陸をし、中国に「コンビニ」という文化を持ち込んだ。商品管理やデータ経営など、中国の小売業界では「セブンイレブン」がひとつの教科書となっている。

業界人からは高く評価されている一方で、消費者からはあまり評価されていないようだ。上海ではセブンイレブンは115店舗を展開しているが、ファミリーマートは2000店を超えている。北京では250店舗を展開しているが、国内系の便利蜂の350店にさえ負けている。各都市に店舗展開をしているものの、決してナンバーワンにはなっていないのだ。

中国全体でも、最も店舗数が多いのは国内系の易捷の2.7万店舗で、セブンイレブンは全体でも1882店舗でしかなく、店舗数ランキングでは10位になる。

なぜ、中国ではセブンイレブンは増えないのか。財経三分鐘は、その理由を4つ挙げている。

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▲コンビニの店舗数ランキング。国内系は小型店舗が多いとはいうものの、日本のコンビニは押され気味だ。「2019年中国コンビニ発展報告」(中国チェーン経営協会)より作成。

 

理由1:中国人の味覚を理解していない

セブンイレブンが中国に上陸をすると、多くの中国人はその新鮮さに驚いた。店内は開放的で、夜でも明るい。そして、新鮮な食品が大量に売られている。2010年の香港映画「恋の紫煙」の中でもセブンイレブンが登場するなど、文化としてもセブンイレブンは認知された。

しかし、中国人は、次第にセブンイレブンが中国人の味覚を理解していないことに気がつき始めた。セブンイレブンで販売されている食品の主体は、おにぎり、サンドイッチ、パスタなど、冷たい食品だ。日本ではごく普通のことだが、中国人には冷たいものを食べる習慣はない。冷めた料理も、再加熱をして食べるのが一般的だ。

パン類もあくまでも間食であり、「昼食はパンだった」というのは、惨めな食生活の比喩として使われるフレーズだった。現在では、サンドイッチやおにぎりなども食べられるようになっているが、この習慣を変えるには長い時間がかかり、いまだに拒否する人も多い。

一方で、国内系のコンビニでは、この中国人の食生活をよく理解している。マーラータン、スワンラータン、臭豆腐ビーフンなど暖かい食品を販売している。電子レンジで温めるのではなく、調理器具を設置して作っている。セブンイレブンは現在でも、このようなローカルフードは販売をしていない。肉まんやおでんなどの温かい食品も販売をしているが、他のコンビニでも販売されていて独自性はもはや薄く、しかもセブンイレブンの価格は高い。

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▲中国のセブンイレブンの商品棚。日本とよく似ていることがわかる。日本人にとっては馴染みがあり、利用しやすいが、地元の中国人にとっては違和感を感じる。

 

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▲国内系コンビニは、暖かい食品をその場で作っていて、夜店のような感じになっている。

 

理由2:出店コストが高い

セブンイレブンは戦略的に大都市を主力の戦場にしている。それは悪いことではないが、大都市での家賃と人件費が急騰していることがセブンイレブンを苦しめている。セブンイレブンが大都市で新店舗を出店するコストは70万元(約1000万円)以上と言われているが、一方、国内系の物美は20万元(約300万円)ですむ。セブンイレブン1店舗に対して、物美は3店舗を出店することができる。

なぜこのようにセブンイレブンの店舗は高コストになるのか。それは日本のセブンイレブンが定めた規定があるからだ。セブンイレブンの標準店舗は120平米で、よほどのことがない限り、これを守らなければならない。一方の物美は、50平米と100平米の2種類の標準型を用意し、100平米以上にするのは店舗運営者の自由裁量で可能になる。

家賃の高い大都市であっても120平米の店舗を出店しなければならず、これが、出店コストが高くなり、店舗数が増えない原因になっている。家賃の安い地方都市でも、今度はそれに見合う売上が上がるのかという問題がある。このような問題から、コンビニを始めようとするオーナーは、セブンイレブン以外と契約する傾向にある。

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▲中国のセブンイレブン。何から何まで日本のセブンイレブンと同じであることがわかる。ポップの文字が中国語であることに気づかなければ、日本のセブンイレブンだと思ってしまうほどだ。

 

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▲地下鉄構内にあるファミリーマート。カフェを中心にした店舗。ファミリーマートやローソンは、さまざまな形態の店舗を見かける。

 

理由3:ネットサービスと競合している

セブンイレブンの中国での最大のセールスポイントは、すぐに食べられる食品が買えるということだ。しかし、現在では「ウーラマ」「美団」などの外売(フードデリバリー)サービスがある。日本ではこのようなサービスが普及をしていないので、軽食を取りたいときにコンビニに行くが、中国では外売を頼んでしまう。

また、中国のセブンイレブンでも日本と同じように、端末やレジで、公共料金の支払いができたり、映画などのチケットが購入できる。また、医薬品も購入できるところが増えている。しかし、このような生活関連サービスも現在では、スマートフォンで完結してしまう。スマホ決済「アリペイ」「WeChatペイ」の中で、公共料金の支払い、各種チケットの購入ができる。また、医薬品についてもスマホ注文して配達してもらうことができる。

セブンイレブンは、オフラインでの利便性を考えたサービスを提供しているが、そのほとんどはすでにスマホで完結できるようになっている。むしろ、店舗にわざわざ行かなければならない分、利便性の面で負けている。

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▲コンビニ店舗数数の推移。店舗数も順調に増えている(万店)。「2019年中国コンビニ発展報告」(中国チェーン経営協会)より作成。

 

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▲コンビニ売上高の推移。順調に成長をしている(億元)。「2019年中国コンビニ発展報告」(中国チェーン経営協会)より作成。

 

理由4:中国のセブンイレブンは分割統治方式になっている

中国のセブンイレブンの経営は、「セブンイレブン中国」のような企業があって、統一して行なっているわけではなく、華南、華東、華北の3地区で別経営となっている。華南地区の「広州セブイレブン」は香港牛奶集団が、華東地区の「上海セブンイレブン」は、台湾と合わせて、統一グループが、北京などの華北地区には日本のセブンイレブンが直接投資をしている。

このため、中国のセブンイレブンで何かを改革しようと思っても、意思統一をするまでに時間がかかる。そのため、日本セブイレブンが定めた規定に、時代に合わない、中国市場に合わないものであっても、厳密に従うしかなくなっている。結局、変わることができない。変化の早い中国市場で、変われないというのは致命的でもある。

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▲中国の実体小売の売上伸び率。緑色がコンビニ、濃いグレーが大型スーパー、グレーが百貨店。ECの普及により、スーパー、百貨店はマイナス成長のフェーズに入っているが、コンビニは成長を続けている。「2019年中国コンビニ発展報告」(中国チェーン経営協会)より引用。

 

外資の撤退」リストに加わる危険性まで指摘

財経三分鐘は、セブンイレブンがこのままの状態で変わろうとしないのであれば、中国市場からの撤退を考える局面も出てくるのではないかと指摘している。実際、外資系小売の中国市場からの撤退が相次いでいる。ライドシェアのウーバー、ECのアマゾン、スーパーのカルフールなどだ。

いずれも、原因は「中国市場を理解しようとせず、本国方式を続けたこと」「中国内で意思決定をすることができない」という2つだ。セブンイレブンもまさに中国市場を理解せず、日本方式の運営を行なっていると財経三分鐘は警告している。