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今回は、自動車業界の整頓についてご紹介します。
自動車業界が2つの問題で揺れています。ひとつは「0km中古車」で、もうひとつは「支払い期間の長期化」問題です。
後ほど詳しくご説明しますが、0km中古車は日本の新古車と同じものです。トリップメーターは0kmあるいはほとんど走っていないのに、新車ではなく、中古車として販売されている車のことです。
支払い期間の長期化の問題は、自動車メーカーがサプライヤーから納品を受けて、その代金の支払いが最長で280日後にもなるというもので、一種の下請けいじめのような現象です。いずれも、自動車業界に根強く残る悪習です。
早速、海外メディアはこのような問題を取り上げ、中国の自動車メーカーが何か後ろ暗いことをしているかのような報道を始めました。面白いことに、なぜか、BYDがこういうことをしているという報道が中心になっています。BYDももちろんこのような古い商慣習に従った行為をしていましたが、それをしているのはBYDだけではなく、ほぼすべての自動車メーカーです。つまり、BYDの問題ではなく、中国の自動車業界の問題なのです。
特に支払い期間の問題は、サプライヤーへの支払いを遅らせることで、BYDは値下げができるのだという主張をするメディアも多く、さらには約束手形のような仕組みである「欠条」を使って、BYDはさらに支払い期間を延ばしている、帳簿にも記載されない負債があり、いつ倒産してもおかしくないと印象づける記事すらありました。
BYDのような上場企業が、帳簿や有価証券報告書に載せない負債があったとしたら、それは株主や投資家に対する悪質な背信行為ですから、すぐに上場廃止になると思うのですが、その件についてはなぜか触れられていません。
そして、このメルマガをお読みの方にはおなじみの政府当局による整頓が行われました。整頓とは、政府当局が乗り出して、業界の悪い慣習をやめさせる行政指導です。
6月1日に、「中小企業への代金支払いを保証する条例」(https://www.gov.cn/zhengce/content/202503/content_7015401.htm)が施行され、これに伴い、東風汽車がサプライヤーへの支払いを60日以内に行う宣言をすると、その日のうちに、第一汽車、長安汽車、広汽、吉利汽車、BYD、奇瑞などが「60日支払い宣言」をしました。0km中古車の問題もこの支払い期間の問題が影響をしていますので沈静化をすることになります。
もちろん、明日からすぐに60日にするということはできませんが、今後、自動車メーカーは支払い期間を短縮していくことになります。いつもながら、政府の素早い整頓で、この問題は一定の解決を見ました。
解決した問題をなぜ取り上げるのかというと、0km中古車と欠条のようなものは、程度の差こそあれ日本でもありますし、中国の他の業界でもあります。政府が自動車業界を特別視して整頓を始めたということは、整頓しなければならない理由があるからです。その理由とは何か。それが今回のサブテーマとなります。
また、日本でも行われている古い商慣習は、時代に合わなくなっているのでやめた方がいいことは間違いありませんが、不正とは異なります。今回の2つの問題が、不正ではなく、古い商慣習を引きずっているだけということをご説明します。
このようなことをするのは、中国企業を擁護することが目的ではありません。中国にも悪質な企業や詐欺まがいの業者はたくさんいますし、そういう企業に対してはいくらでも批判をすべきだと思います。著名な企業であっても、消費者に対する背信行為をするような企業は批判されて当然です。
しかし、無理な理屈をつけて、とにかく中国企業が悪く見えればいいという報道には同意できません。中国企業の技術力の向上やビジネスに対する厳しさには目を見張るものがあり、そこは真正面から受け止めて対応していかないと、私たちの居場所は早晩なくなります。それを、屁理屈的な批判ばかりしていると、私たちの認識は歪んでいき、中国企業に対峙する/あるいは提携をする体勢を取るのが遅れるばかりです。対峙するか提携するかは、企業の戦略次第、それぞれの方の考え方次第ですが、いずれにしても中国企業を正確に把握しておかないと、手遅れになりかねません。そのために、できるだけ正しい情報をお届けしようとしています。
もちろん、私が発信する情報が唯一正しいなどというつもりはありません。そこはお読みいただいて参考にしていただき、みなさんの中に正しい認識をつくっていただければありがたいと思います。
まず、0km中古車は、日本の新古車と基本的には同じものです。一般的には、ディーラーでの展示車、試乗車などは顧客に新車として販売するわけにはいきませんから、中古車として販売をします。これは台数もごくわずかですし、消費者にとっては新車同然の自動車が格安で買えるのですから、条件や状態を確かめて好んで購入する人もいます。
しかし、問題なのは、ディーラーで在庫がだぶついた車を捌けさせるため、あるいは新車販売台数の実績をつくるために、関連会社に購入させたことにして、すぐに中古市場に流してもらうパターンです。中国の場合は、知り合いに頼んで買ったもらったことにして、最終的に「ローン審査が通らなかった」という理由で返却をしてもらい中古車市場に再販するという例が多いようです。こうなると、限りなく不正に近づいていきます。
しかし、いきさつがどうであれ、消費者は新車同然の車が新車価格よりも安く買えるのですから、悪いことでもないように思います。これが問題とされたのは、保証などの条件がどうなっているかを確認せずに購入してしまうと、痛い目を見ることがあるからです。最近の電気自動車(BEV)は、多くのメーカーがバッテリーに「8年間保証」をつけています。8年以内にバッテリー容量が80%以下にまで劣化をした場合は無償交換をするというものです。
0km中古車の場合、このような保証条件が生きているのかどうかを確認しないまま購入すると後で困ったことになります。また、中古市場に流れてからの在庫期間が長いと保証期間が短くなってしまっていることもあります。特に中古市場では、このような説明が口頭であやふやだったりすることも多く、後々消費者トラブルになっている例があります。ここが問題になっているのです。
5月23日、長城汽車の魏建軍CEOは、メディア「新浪財経」のインタビューで、0km中古車の問題に触れ、業界として非常に問題だと語りました。すると、この報道を受けて、商務部消費促進司は、主だった自動車メーカーの担当者を招集して(建前上は、招集ではなく、商務部が開催通知を送ったら、自動車メーカーが自主的に参加したことになっている)、5月27日に座談会が開催されました。そして、全員で、このような悪習はやめ、行った場合は罰則を課すことも視野に入れるべきだという意見でまとまります。どなたもお分かりだと思いますが、出席者が話し合ってそういう結論に達したというよりも、商務部がそういうガイドラインを一方的に示して、出席者に飲ませたのだと思います。
いずれにしても、もう中国では特殊な例(展示車や試乗車など)を除いて、新古車を生み出すことはできなくなります。問題が発覚をして、政府の対応と業界の対応が非常に早いことに注意をしてください。わずか1週間ほどで解決をしています(後ほど、この件についても触れます)。
では、もうひとつの問題である「支払い期間の長期化」についてはどうでしょうか。最高では、納品をしてから支払いは280日後、つまりは9ヶ月後というのですから、あまりにひどすぎる話に聞こえます。
今回は、中国の自動車業界にあった0km中古車と支払いの長期化問題についてご紹介します。
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vol.283:小米が自社開発のSoC「XRING O1」を発表。最先端3nmチップが意味すること
vol.284:BYDがさらに値下げ攻勢。新エネルギー車市場で地位を固めるBYDと吉利汽車
vol.285:トランプ関税で動き始めた。中国輸出産業のアメリカ外しシフト
vol.286:高所得者はみなサムズクラブで買い物をする。地方にまで展開し始めたサムズクラブの強さの秘密
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