中国で原発の新設ラッシュが始まっている。現在56基が稼働しているが、新たに46基の建設承認が終わった。すべて建設されると米国を抜き、世界最大の原発大国になる。理由は目標年が迫ってきたパリ協定のCO2排出削減目標を達成するためだと智谷趨勢が報じた。
原発の新設を加速させる中国
中国が原子力発電所の新設を加速させている。今年2024年8月に国務院が公開した「全面的なグリーン転換により経済と社会の発展を加速させることに関する意見」(https://www.gov.cn/zhengce/202408/content_6967663.htm)によると、「非化石エネルギーを大幅に発展させる。西北地区の風力、太陽光、西南地区の水力、海上の風力、沿岸の原子力などグリーンエネルギー基地の建設を加速する」と書かれ、グリーンエネルギーのひとつとして原子力が明確に定義された。
2011年の福島原発事故以来、中国も原子力の安全性を評価するために新設計画が軒並み延期をしてきた。それが、この数年、新設計画が進められている。
パリ協定を見据えて原発新設に動き出した各国
世界各国の状況も原発新設に動き出している。2022年2月、フランスは少なくとも6基の原発を新設することを発表した。2022年7月には英国がサイズウェルC原子力発電所の建設を発表した。ドイツは残っている3つの原発の継続運用を決めた。米国は、民主党、共和党ともに原子力発電を支持した。韓国は、原子炉輸出の国際的地位を取り戻そうと、2030年までに原子力発電割合を30%にまで引き上げる計画を進めている。
各国がこのように原発新設に動き出しているのは、2015年の気候変動枠組条約締結会議(COP21)で定められたパリ協定による排出削減期限が迫ってきているからだ。世界の平均気温を産業革命以前に比べて+2度未満に抑え、温室効果ガスの排出量をピークアウトすることを目標に、各国が排出削減目標を打ち出した。その削減目標を達成するには、再生可能エネルギーを増やすだけでは難しく、CO2を出さない原子力発電がどうしても必要になるからだ。
中国は世界最大の原発大国に
中国では現在56基の原子炉が稼働し、設備容量は5808万kWでフランスとほぼ同じ。ここに46基の原子炉の建設承認が終わっている。最終的に102基となり、設備容量は1億1313万kWとなり、米国を抜いて世界一の原子力発電大国になる。
ただし、それでも全体の発電量から比べると原子力の割合は少ない。2023年時点では4.68%にすぎないのだ。2035年には10%程度、2060年に18%程度になり、ようやくOECD諸国並みになる。つまり、全体の発電容量から見れば、これまで原発は少なすぎたぐらいで、これを諸外国並みに引き上げ、温室効果ガスの排出を削減していこうというものだ。
メルダウンしない第4世代原発で選択肢を広げる
これまで原子力発電所は、原子炉を冷却する必要があることから海水が利用できる沿岸部に建てるのが常識だった。しかし、第4世代原子力発電所「華能石島湾原子力発電所」の高温ガス炉の運転が始まっている。これは、燃料の構造を工夫することにより、燃料自体に出力暴走を止める性質を組み込み、いわゆる「メルトダウンが起こらない」原発だ。
この高温ガス炉はヘリウムガスで原子炉を冷却するため、冷却水を必要としていない。つまり、沿岸部ではなく内陸部に建設することが可能だ。この次世代原発を内陸部に建設することにより、西部地区を太陽光や水力、原子力のエネルギー産地とし、それを東部地区の大都市で消費する「西電東送」を実現し、さらに電力を大量に消費するデータセンターを西部地区に建設し、それを東部地区から利用することで、西部地区で電力の地産地消を可能にする「東数西算」を実現しようとしている。
パリ協定の削減目標はどの国にとっても非常に高い目標設定になっている。最終的には排出権取引が認められているため、達成できなくても排出権を購入することで目標達成は可能になるが、それに頼るとエネルギーコストが大きく上昇し、すべての産業の国際競争力が低下をしてしまう。そのため、各国とも目標達成のために、安全性を確保しながら、原発を増やすにはどうしたらいいかを考え、原発新設に動き始めている。