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内巻になって効率を悪化させている10の業界。上位には観光業や航空業が。堂々の第1位はやはりあの業界

雑誌「財経」が業界ごとの内巻度を数値化するという面白い試みを行なっている。内巻とは成長が止まった企業で、社員の視野が内側に向かい、内部統制や業務の複雑化をしてしまうこと。1位になったのはやはり不動産業界だったと財経十一人が報じた。

 

成長の止まった企業に起きる病「内巻」

中国経済で話題になっている言葉「内巻」(ネイジュアン)。ひとつの組織の中での活動の成果が、外に向かって出ていき売上や成長に結びつくのではなく、内に向かってしまい内部統制や業務プロセスを無駄に複雑化させることとなり、生産効率を落としてしまう現象のことだ。簡単に言えば、経済成長が止まっても人間の活動は止まらないため、過剰な改善を行なってしまい、かえって組織の生産性を下げてしまうということを指す。日本で昔言われた大企業病に近い。

側から見ると、複雑で精緻な業務プロセスを採用しているように見えるが、その実は、既存の古い業務モデルを複数個、整合しない形で適用しているため、生産性は大きく下がっている。しかし、内部の人の視野も内側にしか向かないため、さらに細部の改善に集中をしてしまう。本人の意識としては組織の改善に努力をしているつもりでも、まったく新しい合理的な業務モデルを構築しようという創造性は生まれてこない。

この内巻を解消するには、新分野に進出をするしかない。まったく新しい分野に進出をすることで、新しい組織モデル、新しい業務モデルが必要となり、そこで内巻の進んだ錆びついた業務モデルを捨て、新しい業務モデルを手に入れることができるからだ。

▲中国で内巻という言葉が流行するきっかけになった写真。SNSに投稿されたもので、清華大学の学生が帰宅時に自転車に乗りながらパソコンを開いて作業をしている。一見、効率性を高めているように見えるが、実は転倒するリスクが高く、それを気にするために作業効率も落ちる。学生寮に戻ってから作業をした方が全体効率は高くなる。それに気づかなくなるということが内巻なのだ。

 

業界別の内巻度を数値化

雑誌「財経」では、業界ごとにこの内巻度を数量化しようとしたが、簡単ではなかった。結局、内巻がまだ進行していない企業というのは成長をしているのだから、「損失を出している企業/上場企業」という単純な指標で、業界の内巻度を測れるのではないかという結論に至った。特に経常損益ではなく、営業損益を用いることで業界の内巻度をうまく数量化できる。

「財経」では、あらゆる業界について、この内巻度を計算し、その上位10業界のランキングを作成した。内巻度は0%から100%までの値をとるが、100%がすべての上場企業が損失を出しているということになり、最も内巻が進んでいる業界ということになる。

 

第10位:造園業45.8%

造園業の2021年上半期の内巻度は25.0%だったが、2022年上半期には45.8%となり、内巻が進んでいる。その原因として大きいのが、造園業が公共や不動産業界に依存をしているということだ。コロナ禍により土地の収益性が大きく下がり、地方財政が打撃を受け、造園事業が大幅縮小している。不動産も同じく停滞したため、大型開発に伴う造園事業が縮小している。さらに、コロナ禍で造園計画の縮小、延期も起きている。

その原因が地方政府の財政悪化と不動産業の資金枯渇にあるため、今後の見通しも楽観はできない。

 

第9位:農産品加工業47.8%

農産品加工業は営業収入は伸びているが、営業利益が大幅に縮小をしている。その理由は原材料となる食材価格の高騰と、消費者ニーズが減退していることだ。2022年から食材価格が高騰をするようになり、これにより加工品の価格も上昇をしている。食品の値上げが続くことにより、消費者は買い控えをするようになっている。

特に大企業では利益の縮小が著しく、固定客をつかんでいる中小企業は利益をある程度維持することに成功している。

2022年後半から、食材価格の上昇は落ち着きを見せているため、今後は状況が好転する可能性もある。

 

第8位:自動車産業50.0%

自動車産業は原材料費が高騰をしている一方、生産が過剰となっていて価格競争が熾烈になっていることにより、2021年の上半期の内巻度45.0%から、50.0%に上昇をした。特に大型のバスの需要が大きく減少している。しかし、キャンピングカーや観光バスなどの需要は回復をしているため、明るい兆しは現れ始めている。

 

第7位:映像産業55.0%

映画、ドラマなどの映像制作側、それを配信する映画館、配信プラットフォーム側ともに厳しい状況になっている。制作側では、映画、ドラマの制作数そのものが縮小している。2022年上半期では、制作数は前年比で23.6%減少し、ネットドラマは30.48%減少した。国産映画も40%減少した。コロナ禍により映画館が営業を休止したり、人数制限を行うなどの他、感染を不安視する消費者が映画館を避けるという行動をとったことが原因だ。

しかし、新型コロナの不安は急速に解消されており、映画館にも人が戻り始めている。今後は、大きく改善されることが期待される。

 

第6位:ホテル・飲食業58.8%

ホテルや飲食業もコロナ禍による大きな打撃を受けた。しかし、新型コロナの不安が解消された現在、改善が見込める明るい兆しがある。

中国ホテル協会の統計によると、全国のホテル数は2021年末で25.2万軒となり、前年から9.59%の減少となった。コロナ前の2019年末と比較をすると25.3%もの減少となる。コロナ禍により多くのホテルが廃業せざるを得なかったが、ホテル数が絞られた状態で需要が戻ってきているため、今後は急速に内巻度が解消されていくことになると見られている。

 

第5位:養鶏養豚業72.0%

養鶏養豚業は2021年上半期の内巻度が36.0%であったものが、2022年上半期には72.0%と急速に悪化をしている。

最大の原因は飼料価格の高騰だ。多くの業者が小規模であり、このような逃れようのないコスト高を吸収する手段が打てない。業者数が多いため、競争も激しく、価格転嫁もすぐにはできない。このため、利益を圧縮するより手立てがなく、飼料価格の影響をすぐに受けてしまう業界構造になっている。

養鶏養豚でも、大規模化が進められているが、まだじゅうぶんではなく、業界の大規模な再編をしていかない限り、養鶏養豚業は定期的に内巻に悩まされることになる。

 

第4位:陶磁器産業75.0%

陶磁器産業は、不動産業に強く依存をしている。瓦、壁材などから、トイレ、バスルーム、キッチン、洗面化粧台などを製造販売しているからだ。その不動産業が停滞をし、新規の建設が縮小しているため、陶磁器産業も大きな影響を受けている。

また、現在の不動産業が抱えている問題は資金の流動性で、いわゆる手持ちのお金がなくなって支払いが滞っていることだ。当然、陶磁器産業も支払いが先延べされるなど影響を受けている。さらに、エネルギー費、原材料価格の高騰と、多方面から打撃を受ける状況になっている。

また、陶磁器産業も中小企業が多く、このような問題に対して、企業内部で吸収する余地がきわめて小さい。しかし、地域に密着した産業であるために、業界再編も簡単ではなく、この苦境は長引く可能性がある。

 

第3位:航空業78.6%

2021年はかなり回復をした国内航空も、2022年に深圳や上海での感染拡大があったために再び大きく落ち込んだ。さらに、エネルギー価格の高騰が起こり、2020年のコロナ禍よりも大きな打撃を受けることになった。

しかし、現在では新型コロナの不安も解消され、移動制限もほぼ完全に解除されていることから、力強い回復が見込める。

 

第2位:観光業100%

観光業は上場企業のすべてが損失を出すという事態になった。業界の上場企業すべてが赤字というのは、歴史的に見てもきわめて稀な事例だ。観光地の多くが、休業をするか、開業しても観光客が訪れない状況が長く続いた。しかし、これも新型コロナの不安が解消されたため、一気に回復をすると見られている。2023年の春節には多くの観光地に人が戻ってきて、コロナ前の大混雑の光景が見られるようになっている。

 

第1位:不動産業33.3%

なぜ、内巻度33.3%の不動産業界を1位にしたのか。不動産業の問題は上場企業の損失よりも、資金流動性が著しく落ちていることの方がはるかに大きな問題だからだ。

どの不動産企業も、支払いをするための現金がなくなっている。土地や住宅を所有しているので、それを売却すれば手当てはできるとはいうものの、土地や住宅を買ってくれる相手が見つからない。

また、不動産業には特殊な事情がある。デベロッパーはマンションやオフィスビルを建設し、これを販売会社に販売委託をする。販売会社は個人や企業に売却をし、ここでお金が入ってきて、不動産企業の収入となる。そのため、不動産業の営業収入というのは2年前、3年前のものが今入ってくることになる。つまり、不動産業の内巻度が33.3%といっても、これは2020年、2021年の状況を反映したものであり、現在はそこから大きく悪化していることが推測できるのだ。

実際、さまざまな統計がさらなる悪化を示している。2022年上半期の全国の住宅販売面積は5.8億平米となり、前年から26.6%減少した。販売額は5.8兆元で31.8%減少した。施工面積は6.6億平米で34.4%減少をした。

この状況が業績に反映されるのは、2025年、2026年で、不動産業はこれから大幅縮小せざるを得なくなっている。